SDGsへの取り組み

「海の環境を守る活動がしたい」生徒の声で始まったサンゴ飼育研究

2021.05.13

  • 幼小中高(K-12)
  • 海の豊かさを守ろう 14. 海の豊かさを守ろう
  • パートナーシップで目標を達成しよう 17. パートナーシップで目標を達成しよう

地球温暖化の影響は、陸上だけでなく、海にも大きな影響を与えています。その一つが海水温の上昇による、海中生物へのストレスです。特にサンゴは海水温や紫外線量の変化に敏感な動物です。サンゴが形成するサンゴ礁の近くには世界の海に生息する約50万種のうち4分の1ほどが集まっているといわれています。そのためサンゴ礁は「海の熱帯林」、「海のオアシス」などと呼ばれています。様々な生き物の住処として、産卵場所として、防波堤として海洋生態系の中で大きな役割を担っています。
サンゴ礁は、熱帯・亜熱帯の浅い海に分布しており、日本はその貴重な生息域の一つです。近年海水温の上昇などがストレスとなり白化現象が起き、直接的なサンゴへの影響はもちろんのこと、その周辺にいた海洋生物の生態系に大きな影響を及ぼしています。

  • サンゴと共生している褐虫藻がいなくなってしまいサンゴの白い骨格が透けて見える現象のこと

玉川学園では、この海洋生態系の重要な拠点であるサンゴの保全に向けて、サンゴ飼育を生徒たちの手で進めています。
きっかけとなったのは、6年生で学んだ理科での学習です。海洋環境を学び、サンゴの白化現象が生態系に大きな影響を及ぼしていることを知り、自分たちがなにかできないかと自由研究として2011年にサンゴの飼育を取り組み始めました。
その後、個体の研究はもちろんのこと、水質やその海域の状況など多岐にわたる研究フィールドがあることから、文部科学省指定スーパーサイエンスハイスクール(SSH)の課題研究の一つとして発展させていきました。フィールド実習や学内外での研究など幅広く活動を展開しながら、「サンゴ飼育」研究は、10年を越え継続しています。

サンゴ研究をするにあたり、その生態系を実際の海を見て知ることが必要だと、沖縄・石垣島の海で研修を行いました。実際に現地で行っている学校のサンゴの研究に触れ「自分たちもサンゴを飼育し、海の環境を守る活動がしたい」という生徒たちの声が大きくなってきました。

石垣島産の養殖用サンゴ(ミドリイシ)を譲り受け、「サンゴを自分たちの手で大きく育て海に還す」ことを目標として掲げ、サイテックセンター内に水槽を設置し、飼育を開始しました。
ところが最初に譲り受けたサンゴは2週間ももたず全滅してしまい、その後も失敗の連続。
現地の方や熱帯魚のブリーダーといった専門家からのアドバイスを受けたり、沖縄県恩納村とのサンゴ返還プロジェクトを実施しているサンシャイン水族館のバックヤード研修や、日本サンゴ礁学会の見学研修、お茶の水女子大学でのサンゴの生態に関する研修などを重ねていきました。このようにして手探りで始めた飼育は、たくさんのご協力をいただきながら、少しずつサンゴ飼育の知識と技術を蓄積していきました。
そして試行錯誤を繰り返し、2015年にはキャンパス内で飼育したサンゴの移植に成功。
自分たちで育てたサンゴを海に還すという当初の目標達成まで、実に5年もの歳月を要しました。

サンゴを育てるにあたり、成功のカギとなったのが「水質」です。
熱帯魚の飼育や飲料水として問題ない水質でも、サンゴは育ちません。そこで、微少な泡で汚れを取り除く装置や特殊な濾過フィルターなどを導入し水質管理を徹底しました。さまざまな実験の結果、飛躍的に水質を向上することができ、その結果、2014年の終わり頃からようやく安定した飼育ができるようになり、翌年の移植成功へと繋がりました。

サンゴの飼育が安定してきた頃と同時期に、文部科学省のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)指定2期目を迎えました。玉川学園はこの研究をSSHの教育プログラムとして活用するに相応しいと考え、3期目の現在も課題研究のひとつとして展開しています。

研究に大切なことは、現地に足を運んで学ぶ「フィールドワーク」と、自らの意思で研究を進める「探究型の学び」です。教育の面からもサンゴの研究は生徒たちにとって自らを客観的に評価し、意欲的に学んでいけるシステムが構築されています。
また、どの学年からスタートをしても課題研究を自分のペースで進められるよう問いや仮説の立て方から、実験計画の立て方、データの集め方、ポスター制作や発表の仕方までを体系的にまとめた冊子の制作も行われています。

このような取り組みを進めていくなかで研究の面でも大きな成果がでてきています。2015年11月に行われた日本サンゴ礁学会では、9~12年生の生徒がサンゴ研究の成果をポスターセッションで発表する機会がありました。多くの大学教授や大学院生が参加するなかで、彼らは緊張しながらも、フィールドワークで得た知識と、実績が大きな自信になり、実に堂々とした発表をし、質問にもしっかり答えることができました。
児童・生徒たちが自由研究のテーマの一つとして取り組んできた約10年にわたる研究活動。譲り受けたサンゴを飼育し、海へ移植する活動、日本サンゴ礁学会ポスターセッションへの参加など、それぞれ成果を上げてきました。また2019年度からはクラブ活動としてサンゴ研究部の活動もスタートし、生徒たちは意欲的に取り組んでいます。
2020年度はコロナ禍のなか思うような活動はできませんでしたが、感染対策をとりながら「自由研究サンゴ班」と「サンゴ研究部」が合同で、9月に石垣島から購入したサンゴ100株の株分け作業を実施しました。
この作業には、海水や水槽を扱っている(株)エムエムシー企画レッドシー事業部の皆さん、サンゴ陸上養殖の第一人者であるネオウェーブ阿久根直之氏など多くの専門家にご協力をいただき、生徒たちにとって意義ある実習となりました。

研究の指導にあたる市川信教諭は、「例えば、主体的に行動する力や、問題を発見・解決する力、自分の考えを発信する力など、社会人として求められる基本的な力を、生徒たちはサンゴの研究を通じて自然と養うことができます。また、サンゴは生態系や地球温暖化など幅広い問題に結びついており、その研究は、生徒の幅広い興味関心に応えることができるものだと思います」と教育における「サンゴ研究」の効果と可能性を語っています。
同じく研究指導を担当している今井航教諭は、「既にSSHの大会では発表を行いましたが、今後は環境・海洋関連の研究発表の大会などにも積極的に参加したいと考えています。また、サンゴを使った商品の開発・販売なども手掛けられないかと模索しています。学内外に広くこの取り組みを発信することで、より研究の幅を広げていきたいですね」と目標を持って進めています。
今後は玉川大学農学部との連携など、学部、学科、年代を越え、また企業との関りをも視野におき、玉川学園独自のスタイルで研究を重ねていきます。
サンゴ研究はその生態はもちろんのこと、周辺環境やその地域の環境など様々な領域に波及するテーマです。まさに分野を融合したSTEAM教育のよい教材の一つとなっています。
この研究を通して、生徒たちは、どのような分野においても自身で考え、試行錯誤を繰り返し、最適解を導き出す姿勢を身に着けて欲しいと考えております。今後も児童・生徒の研究にご注目ください。

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