ニホンミツバチの対オオスズメバチ蒸し殺し戦法は「諸刃の剣」だった
-天敵熱殺の代償に蜂球参加ミツバチの余命が短縮!それに対応する驚きの戦略も!!-

2018.07.18

体重100㎎にも満たない小さなニホンミツバチが、3000㎎以上の捕食者オオスズメバチからどのように巣を守るのか?オオスズメバチの体臭成分を感知して、その襲撃に備え、針の立たない巨大なモンスターに多数の働き蜂がとりついて蜂球に封じ込めチームプレーで“熱殺”する現象の発見(文献1)は、多くの研究者の注目を集めてきました。この蜂球形成の過程で、最初にオオスズメバチに飛びついた中心部のミツバチは天敵の大顎によって噛み殺されてしまい、その数は20匹以上に及ぶこともあります。しかし、犠牲を払いながらも蜂球により天敵を熱殺することで、巣内の何万匹ものミツバチの命が守られます。この蜂球による防衛戦略は、捕食者と被食者の共進化の良例と言えるのです。
ところで、48℃にも至ることもある蜂球に30分間以上も参加した働き蜂には、生き延びたとは言っても何の影響もないのでしょうか?また、頻繁に襲来する天敵を迎え撃つミツバチは、どのように決まるのでしょうか?次から次へと新たな疑問が湧き出てきます。そのような時、偶然にも玉川大学に最高のメンバーが揃っていました。当時、農学部の4年生だった歌川智史氏(2013年卒業)は、羽化したミツバチに印をつけて丁寧な行動観察を続け、蜂球に参加する個体の日齢などを調査しました。また、本研究で中心的な活躍をした山口悠太氏(2017年修了)は、蜂球に参加したミツバチの余命、その後の行動を丹念に追跡調査して、きわめて興味深いデータを集積しました。さらに、同時期に東京大学大学院で博士号を取得した宇賀神篤博士が日本学術振興会特別研究員PDとして蜂球形成に関する研究課題で在籍し、また行動生態学的研究で多くの業績をあげている服部充博士も同特別研究員PDとして机を並べていたのです。以上のメンバーに西村正和氏(博士課程後期在学中)が加わり、ニホンミツバチの蜂球による防衛行動に秘められていた「なぞ」が、また一つ明らかにされました。
協働研究として結実した本研究の成果は、行動生態学と社会生物学に関する国際学術誌 “Behavioral Ecology and Sociobiology”に2018年7月7日付けでオンライン公開されました。

【論文タイトル】

Double-edged heat: honeybee participation in a hot defensive bee ball reduces life expectancy with an increased likelihood of engaging in future defense
(スズメバチに対する発熱蜂球は諸刃の剣:天敵撃退の代償としての蜂球参加蜂の余命短縮とそれを踏まえたフォローアップ戦略)
https://link.springer.com/article/10.1007/s00265-018-2545-z
全文はこちらのサイトでご覧ください(閲覧のみ可能)。

【発表学術誌】

誌名

Behavioral Ecology and Sociobiology

【著者】

  • Yuta Yamaguchi†(山口 悠太):
    玉川大学 大学院農学研究科、修士課程(2017年修了)
  • Atsushi Ugajin†*(宇賀神 篤):
    玉川大学 大学院農学研究科:日本学術振興会特別研究員PD(現:JT生命誌研究館,奨励研究員)
  • Satoshi Utagawa(歌川 智士):
    玉川大学農学部、学士課程(2013年卒業)
  • Masakazu Nishimura(西村 正和):
    玉川大学 大学院農学研究科、博士課程後期在学中
  • Mitsuru Hattori(服部 充):
    玉川大学 大学院農学研究科:日本学術振興会特別研究員PD(現:長崎大学 大学院 水産・環境科学総合研究科、助教)
  • Masato Ono(小野 正人):
    玉川大学 大学院 農学研究科長、教授

†: 同等貢献、*: 責任著者

【研究成果のポイント】

  • ニホンミツバチが天敵のオオスズメバチを撃退するために形成する「熱殺蜂球」は、それに参加したミツバチの余命をも著しく短縮させてしまうことが明らかとなりました。
  • ひとたび短命化したミツバチには、以降の蜂球形成に際して、より危険な蜂球の中心部に参加する傾向が見られました。
  • 熱殺蜂球形成にはミツバチ側に発熱を防衛に利用する以上、避けられない余命短縮というコストが存在すること、一方でそのコストを軽減するための戦略も兼ね備えていることを示唆しました。この現象は、集団で外敵と対抗する行動の進化を考える上で重要な視点を与えるものです。

【発表概要】

日本在来のニホンミツバチは、天敵オオスズメバチの襲撃を受けると、集団でスズメバチを取り囲み発熱して蒸し殺してしまいます。この「熱殺蜂球形成」は、昆虫が熱を利用して外敵を撃退するという大変ユニークな行動です。
今回、研究グループは熱殺蜂球を形成することによりミツバチ側が受ける影響を検討しました。その結果、①蜂球に参加したミツバチは蜂球内の高温により著しく短命化すること、②短命化したミツバチが以降の蜂球形成の機会に蜂球の中心付近に集まりやすくなることを見出しました。これらの結果は、熱の利用に伴うコストが存在すること、さらには、ミツバチがそのコストを低減する戦略を持ち合わせていることを意味します。

【発表内容】

研究の背景・目的

ニホンミツバチは、天敵であるオオスズメバチの襲撃に対し、ユニークな集団防衛行動で対抗します。硬い外骨格を持つオオスズメバチにはミツバチの針は通用しません。代わりに、約400匹ものミツバチが一斉に取り囲み、胸の筋肉を震わせて発熱し、スズメバチを蒸し殺してしまうのです(図1)。「熱殺蜂球形成」と呼ばれるこの行動は,1995年に小野らにより始めて報告されました(文献1)。

図1.ニホンミツバチのオオスズメバチに対する熱殺蜂球
左:蜂球、中央:手の上の蜂球と内部の温度、右:蜂球の熱画像

蜂球は30分間ほど維持され、内部の温度は46°C以上に達します。オオスズメバチの上限致死温度が45°Cとニホンミツバチよりも5°C程度低いことを利用した巧妙な温度設定と考えられています。しかし、普段32°C程度に保たれた巣の中で生活しているミツバチにとって、蜂球内部は本当に「無理のない範囲」の温度環境なのでしょうか?私たちは、これまで行われてきた熱殺蜂球の「メリット」に着目した研究とは逆の「その行動のもつコスト」という視点から捉え直すことにしました。

今回明らかになったこと

まず初めに、熱殺蜂球形成に参加したミツバチの余命を調べました。ミツバチの巣内では、働き蜂が担当する仕事は成虫になってからの日数によってある程度決まっています。熱殺蜂球形成は、15日齢(成虫になってからの経過日数が15日という意味です)以上の個体が主に担当することがわかっています。オオスズメバチの襲撃を受けたことのないニホンミツバチの巣を用意し、針金を付けた囮のオオスズメバチを提示して熱殺蜂球を作らせます。その後、蜂球に参加した個体としなかった個体それぞれについて、15〜20日齢の個体を回収し、生存日数を比較しました。その結果、蜂球参加個体では余命が1/4程度にまで短縮していることがわかりました(図2)。

図2.熱殺蜂球に参加したミツバチの余命
(左)観察巣箱の様子。ミツバチに目印を付けておけば、その生存数をガラス越しに数えられるようになっている。
(右)15〜20日齢の個体の生存曲線。熱殺蜂球に参加した個体のほうが不参加個体よりも圧倒的に早く死滅している。

この顕著な短命化の原因が蜂球内の高温であることを確認するために、実験室内で32°C(ミツバチの巣内の温度)、44°C、46°C(熱殺蜂球内の温度)いずれかの温度環境を30分間経験させ、その後の生存日数を比較しました。結果、32°C、44°Cと比べ、46°Cに曝露した個体は著しく短命化していました。
さらに、熱殺蜂球に一度参加したミツバチは,1時間後の新たな蜂球形成に際して、よりスズメバチに近く返り討ちに遭う危険が高いと思われる蜂球中心付近に集中する様子が観察されました。

秋になると、ミツバチの巣の付近にはひっきりなしにオオスズメバチがやってきます。秋は、ミツバチにとっても冬を越すためにたくさんの花粉と蜜を集めなければならない大切な時期です。形成するだけで一度に約400匹もの働き蜂が短命化してしまう熱殺蜂球は、対オオスズメバチの「必殺技」でありつつミツバチ側にも貴重な労働力の短命化という大きな損失(コスト)をもたらす「諸刃の剣」と言って良いでしょう。その一方で、一度蜂球に参加した個体が次の機会にはより危険な場所に参加するよう変化することは、こうしたコストの軽減につながっていると考えられます(図3)。

図3.蜂球への参加経験の有無による分担
秋のスズメバチの襲撃から巣を守る熱殺蜂球に参加し短命化した個体が、2度目以降の蜂球形成の際により危険な中心部を担うことが分かった。これにより、初参加個体の余命短縮を回避し、越冬に備えてより多くの働き蜂を残すことも可能になると考えられる。「熱殺蜂球」というスズメバチに対する防衛の代償としての短命化に対する「集団(コロニー)レベル」の見事なフォローアップと言える。ミツバチのコロニー全体が「超個体:superorganism」として機能していることを示す新規の事例である。

研究の意義・今後の課題

今回私たちは、熱殺蜂球を形成することによりミツバチ側が被る悪影響およびその軽減策の存在を世界で初めて明らかにし、巧妙な防衛行動の隠された一面に光を当てることに成功しました。
それでは、一度蜂球に参加したミツバチが次の蜂球に参加しやすくなる仕組みとしてはどのようなものが考えられるでしょうか?2012年に宇賀神らは,熱殺蜂球形成中や46°Cに曝露されたときのニホンミツバチ脳内の神経活動を調べ、様々な感覚情報を統合する高次中枢が活性化していることを明らかにしました(文献2)。熱殺蜂球を形成するためにはスズメバチや仲間のミツバチからの匂い情報が重要であるため、こうした匂いの感受性が高まるような脳内の変化が生じ、より積極的に熱殺蜂球に参加するようになるのかもしれません。一方で、様々な動物でストレスがかかると攻撃的になることが知られており、蜂球内の高温によるストレスで短命化したミツバチが外敵全般に対して攻撃的になっている可能性も考えられます。今後は、ミツバチの体内で生じている遺伝子やタンパク質といった分子レベルの変化を解析し、短命化と以降の蜂球へ参加しやすくなる仕組みについて明らかにすることが期待されます。

参考文献

  1. Ono M, Igarashi T, Ohno E, Sasaki M (1995) Unusual thermal defence by a honeybee against mass attack by hornets. Nature377: 334–336.
  2. Ugajin A, Kiya T, Kunieda T, Ono M, Kubo T (2012) Detection of neural activity in the brains of Japanese honeybee workers during the formation of a “hot defensive bee ball.” PLoS Onee32902