【農学研究科研究成果】マルハナバチの女王蜂と働き蜂の行動の違いがドーパミンによって生じることを世界で初めて証明!

2024.03.18

農学研究科修士課程の森上絢加さん(2022年度修了)と同研究科の佐々木謙教授はクロマルハナバチの女王蜂や働き蜂にドーパミンやドーパミンの作用を抑える薬剤を投与して、女王蜂の交尾に必要な歩行・飛翔活性や交尾受入れ活性にドーパミンが関係していることを世界で初めて証明し、2024年3月に国際誌PLoS ONEに掲載されました。

ここで研究内容をご紹介します。

図1 クロマルハナバチの女王蜂(Q)と働き蜂(W)

マルハナバチの社会には繁殖・産卵を担う女王蜂と育児や採餌を担当する働き蜂がいます。女王蜂は働き蜂よりも大型ですが、それ以外の形態はそっくりで、違いは見当たりません(図1)。しかし両者の行動は大きく異なります。行動は脳の活動で生まれるので、女王蜂と働き蜂とでは脳の活動が異なることが予想されます。

マルハナバチの女王蜂らしい行動、あるいは働き蜂らしい行動はどのようにして生じるのでしょうか。羽化したばかりの女王蜂と働き蜂の脳を比較すると、脳内物質のドーパミンの量が女王蜂で約2倍多いことが、本学大学院農学研究科の佐々木謙教授らの研究で分かっていました(本学大学院HPニュース&イベント「昆虫の原始的な社会の分業に関わる脳内生理を解明!」を参照)。そこで、農学研究科修士課程の森上絢加さん(2022年度修了)と佐々木教授は、実験室内でクロマルハナバチの女王蜂や働き蜂にドーパミンやドーパミンの作用を抑える薬剤を投与して、女王蜂の交尾に必要な歩行・飛翔活性や交尾受入れ活性にドーパミンが関係していることを証明しました。

森上さんと佐々木教授は、まず羽化後から8日齢までの女王蜂と働き蜂の行動の違いを調査しました。注目した行動は歩行行動、光を避ける行動、飛翔行動、交尾行動で、歩行・飛翔活性や光に対する忌避性は女王蜂で高く(図2)、交尾行動は女王蜂のみで見られました。

図2 女王蜂と働き蜂の行動の違いAとBのグラフにおいて、0~8日齢の女王蜂(オレンジ)と働き蜂(水色)の行動を比較した。カッコ内の数値は実験個体数で、誤差線は標準誤差を示している。Cでは、飛翔をしなかった個体(緑)と飛翔をした個体(紫)を示している。*は統計的な違いを示している(*P < 0.05, **P < 0.01)。Morigami and Sasaki(2024)を改変。

7-9日齢の働き蜂にドーパミンを投与すると、歩行・飛翔活性の両方が高くなり、同日齢の女王蜂にドーパミン受容体のブロッカーを投与すると飛翔活性が強く抑制されました。また、女王の交尾受入れ活性もブロッカーによって抑制されました。8日齢の女王蜂は脳内のドーパミン量が働き蜂よりも多く、ドーパミン受容体遺伝子発現量にも違いが見られました。

このように、女王蜂と働き蜂との間で見られる脳内物質量の違いが、女王蜂らしい行動の発現と関係していることが実験的に証明されました。実は社会性がさらに進化したミツバチでは、女王蜂の脳内ドーパミン量は働き蜂よりも約4倍多く、その違いは際立っています(本学大学院HPニュース&イベント「ミツバチの女王蜂と働き蜂では、脳内物質『ドーパミン』の量が成長過程で大きく異なっていた!―世界で初めて解明、国際学術雑誌に発表」を参照)。つまり脳内のドーパミン量はハナバチ類の社会性の程度、あるいは繁殖分業の程度を示す指標となっているとも言えます。

この研究成果は、2024年3月に国際誌PLoS ONEに掲載されました。

論文タイトル

Physiological specialization of the brain in bumble bee castes: Roles of dopamine in mating-related behaviors in female bumble bees

著者

Ayaka Morigami, Ken Sasaki*

森上 絢加(玉川大学大学院農学研究科修士課程2022年度修了)
佐々木 謙*(玉川大学大学院農学研究科教授)
*責任著者

掲載雑誌

PLoS ONE (2024), vol. 19, e0298682.
DOI: 10.1371/journal.pone.0298682

全文は以下のホームページから閲覧できます。