日本在来種マルハナバチから寄生虫「シヘンチュウ」の初記録−日本応用動物昆虫学会英文誌に掲載−

2016.08.01

発表概要

本学農学部生物資源学科非常勤講師の久保良平博士(ミツバチ科学研究センター特別研究員)、大学院農学研究科の宇賀神篤博士(日本学術振興会特別研究員PD)らの研究グループは、北海道根室市納沙布で採集したニセハイイロマルハナバチ越冬後の女王蜂の体内よりシヘンチュウの亜成虫を発見しました。分子系統解析の結果、これまでにハチ目昆虫に寄生が報告されているシヘンチュウ種とは大きく異なる種である事が判明しました。マルハナバチからシヘンチュウの寄生が確認されるのは大変珍しく、日本在来種マルハナバチからは初記録となります。本研究成果は、日本応用動物昆虫学会英文誌“Applied Entomology and Zoology”に2016年6月14日付けでオンライン公開されました。

内容

 シヘンチュウ(糸片虫)という針金のように細長い線虫のグループがいます。これらは土中および水中に生息し、バッタや蛾など様々な昆虫を宿主とする動物寄生性線虫として知られていますが、マルハナバチへの寄生事例はほとんどありません。
 今回の研究は、久保博士が北海道根室市納沙布にて採集した越冬後のマルハナバチ女王蜂を飼育する過程で、特徴的な行動をする1匹のニセハイイロマルハナバチ女王を発見したことから始まりました。通常、野外で訪花している健全なマルハナバチ女王蜂を採集して飼育を始めると、まもなく腹部からワックスを分泌し、その内部に卵を産み育てる一連の営巣行動を示します(図1)。しかし、その女王蜂は産卵を一切行わず、床材に利用したワラに盛んに潜り込むという奇妙な行動をしました。その女王蜂の腹部を解剖した結果、腹腔内から3匹のシヘンチュウの亜成虫が発見されました(図2)。また、被寄生女王蜂では、健全な女王蜂のように顕著な卵巣の発達が認められませんでした。マルハナバチへのシヘンチュウの寄生事例は世界的にも珍しく、日本在来のマルハナバチ種からは初記録となりました。さらに、宇賀神博士による18S rRNA遺伝子の配列をもとにした分子系統解析から、発見されたシヘンチュウは、ハチ目昆虫への寄生例が報告されているPheromermis属のシヘンチュウ種とは系統が大きく異なることも明らかになりました。
 他の昆虫に寄生するシヘンチュウ種では、成長したシヘンチュウが脱出する際に宿主昆虫の体を食い破って死に至らしめる例が知られています。マルハナバチは様々な植物の花粉媒介者として生態系で重要な役割を果たしており、今回得られた知見は、在来種マルハナバチの保護を考える上でも意義あるものと考えられます。今後、被寄生女王蜂に認められた特徴とシヘンチュウの寄生の因果関係、マルハナバチへの感染経路などの研究が進むことが期待されます。

論文のタイトル:

Molecular phylogenetic analysis of mermithid nematodes (Mermithida: Mermithidae) discovered from Japanese bumblebee (Hymenoptera: Bombinae) and behavioral observation of an infected bumblebee.
日本在来種マルハナバチから発見されたシヘンチュウの分子系統解析と被寄生マルハナバチの行動観察

著者:

  • 1)久保 良平:玉川大学農学部非常勤講師、学術研究所ミツバチ科学研究センター特別研究員(*責任著者)
  • 2)宇賀神 篤:玉川大学大学院農学研究科応用動物昆虫学分野、日本学術振興会特別研究員PD
  • 3)小野 正人:玉川大学農学部、大学院農学研究科、農学部教授、農学研究科長、農学部長
図1 日本在来種ニセハイイロマルハナバチ:寄生をうけていない健全な女王の行動
左:シロツメクサで採餌行動、右:飼育下での営巣行動(中央が女王蜂、両側は働き蜂)
図2 営巣行動を示さないニセハイイロマルハナバチ女王の腹腔内(赤線部
から発見された3匹のシヘンチュウの亜成虫(スケールは、10mm)