昆虫の原始的な社会の分業に関わる脳内生理を解明!

2021.03.10

(撮影:佐々木謙)

写真:クロマルハナバチの女王蜂(Q)と働き蜂(W)

ミツバチやアリなどで見られる社会性は血縁個体で構成され,社会の役割に応じて,体の形態が特殊化しています。例えば,ミツバチの働き蜂には花から花粉を持ち帰るために後脚に「花粉かご」と呼ばれる窪んだ構造がありますが,女王蜂にはそれが無く,代わりに産卵するための大きな縞のない腹部があります(本学大学院HPニュース&イベント「ミツバチの女王蜂と働き蜂では、脳内物質『ドーパミン』の量が成長過程で大きく異なっていた!――世界で初めて解明、国際学術雑誌に発表」を参照)。これらの特徴は高次に進化した社会で見られる性質です。一方,マルハナバチの社会はもう少し原始的で,繁殖の分業は見られるものの,体の形態は特殊化しておらず,女王蜂が働き蜂よりも大きい程度の違いしか見られません(写真)。このような原始的な社会性種の行動やその生理的な仕組みを研究することにより,昆虫の社会行動がどのように進化してきたのか,という疑問に対するヒントが得られますが、そのような観点からの研究はまだ十分に行われていませんでした。

本学農学研究科の佐々木謙教授は,農業・食品産業技術総合研究機構の横井翔博士と日本大学文理学部の栂浩平博士との共同研究で,クロマルハナバチの女王蜂と働き蜂の脳内物質量を調査し,ドーパミンいう脳内物質が女王蜂で多いことを発見しました。このようなドーパミン量の違いはセイヨウミツバチでも見られ,女王蜂特有の行動に影響を与える物質として知られています。原始的な社会をつくるマルハナバチではドーパミン量の差がミツバチよりも小さく,繁殖分業の程度がミツバチほど進化していない点と関係していると考えられます。
さらに,マルハナバチの脳内で発現している遺伝子を女王蜂と働き蜂の間で比較したところ,栄養代謝に関わる遺伝子群が女王蜂で多く発現していることが分かりました。これは女王蜂への分化に必要な高い栄養条件が反映した結果であると考えられます。また,女王蜂の高栄養状態がドーパミンの原料となる前駆物質の供給にも関係している結果が得られ,原始的な社会性種で脳内生理がどのような過程でつくられるかが明らかになりました。この研究成果は国際学術雑誌Scientific Reports(2021年3月9日掲載,オープンアクセス)に発表されました。

論文タイトル

Bumble bee queens activate dopamine production and gene expression in nutritional signaling pathways in the brain

著者

Ken Sasaki*, Kakeru Yokoi, Kouhei Toga

  • 佐々木謙*  
    (玉川大学大学院農学研究科教授)
  • 横井翔   
    (農業・食品産業技術総合研究機構主任研究員)
  • 栂浩平   
    (日本大学文理学部助手)
  • 責任著者
掲載雑誌

Scientific Reports (2021) vol. 11, 5526
Doi: 10.1038/s41598-021-84992-2

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