ミツバチ雄の繁殖行動に関わる脳内物質(ドーパミン)の調節機構を解明!
2021.07.01
- 写真:
巣門から交尾飛行に飛び立とうとするセイヨウミツバチの雄(左).左の個体は働き蜂である.雄は働き蜂よりも大きく、眼(複眼)も大きいことが分かる.
(撮影:佐々木謙)
ヒトや昆虫の脳内ではドーパミンという物質がつくられ、神経細胞に作用することにより、学習や運動活性などに影響を与えます。ミツバチの雄(写真)においても、性成熟に伴って脳内のドーパミンが増加し、交尾に関わる飛翔活性を高めることが報告されています。雄の脳内のドーパミンは日齢とともに増加しますが、どのような要因がドーパミンの合成を活性化させるのか、詳しく分かっていませんでした。
本学農学研究科博士課程の渡邉智大さんは同研究科の佐々木謙教授とともに、セイヨウミツバチ雄の脳内におけるドーパミン量の調節機構の解明に取り組んできました。ミツバチの脳内にはドーパミンを合成する細胞群があり、その細胞でのドーパミン合成を活性化する要因として、血液中のホルモン(幼若ホルモン)と餌から摂取されるチロシンという物質が候補に挙がっていました。血液中の幼若ホルモンは脳内のドーパミンと同じ時期に濃度が変化することが以前から分かっており、今回、このホルモンを羽化後の雄に投与したところ、ドーパミンを合成する酵素の遺伝子が脳内で多く発現しました。一方、餌中に含まれるチロシンという物質はドーパミンの原料となる物質で、それを多く摂取すると脳内のドーパミン量が増加すると考えられます。ミツバチの雄は花粉(チロシンを含む)を多く摂取する時期があり、その時期が脳内ドーパミンの増加時期と重なっていました。そこで、雄にチロシンを経口投与すると、脳内のドーパミン量が増加し、ドーパミン合成酵素の遺伝子発現も高まることが分かりました。つまり、チロシンはドーパミンの原料(前駆物質)であるとともに、ドーパミンを合成する酵素も増やして、円滑にドーパミンを増やしていたのです。このようにミツバチの雄の脳内では、ドーパミンの合成が幼若ホルモンと餌中のチロシンによって活性化されることが明らかになりました(図)。この仕組みは、ミツバチのような社会性昆虫の雄における繁殖行動の発達の仕組みの一部であり、昆虫の社会に適応した雄の行動進化を考える上で貴重な知見になります。この研究成果は、国際学術雑誌(Journal of Insect Physiology)に2021年7月号に掲載されました(web掲載は2021年6月25日)。
- 図:
ミツバチ雄の脳内ドーパミン調節機構.血中ホルモンと餌中のチロシンが合成酵素の遺伝子発現を高め、ドーパミンの合成を活発にしている.実線の矢印は物質の流れを示し、点線の矢印は合成酵素の遺伝子への働きかけを示している。
論文タイトル
Regulation of dopamine production in the brains during sexual maturation in male honey bees
著者
Tomohiro Watanabe, Ken Sasaki*
- 渡邉智大
(玉川大学大学院農学研究科博士課程2年生)
- 佐々木謙*
(玉川大学大学院農学研究科教授)
- 責任著者
掲載雑誌
Journal of Insect Physiology (2021) vol. 132, 104270
DOI: https://doi.org/10.1016/j.jinsphys.2021.104270