印刷部門

2014.03.17

“本当に良いもの”をつくるという理念

「玉川学園では古くから印刷部門を設置し、学内で組版・印刷ができる体制を整えてきました。印刷部門を内製化することは、学校組織としては非常に稀なことですが、その理由とは、コストを削減するとともに、“本当に良いものをつくる”という玉川学園の理念があるからに他なりません。」

そう話すのは、総務部DTP制作課の川村光弘氏。かつては活版印刷の時代から玉川学園の印刷部門に勤務し、その後のオフセット印刷、近年のデジタル印刷への変遷をくぐり抜けてきた。 現在DTP制作課では、カメラマンやDTPオペレータも配置し、数多くの印刷物・制作物を学内外へと送り出している。すべては“本当に良いもの”をつくるために——。

1972〜1981 活版印刷時代

川村氏は玉川学園久志高等学校を卒業後、玉川学園の印刷部門に配属されたのは1972年。当時は活版印刷により、学内の名刺や封筒、事務・学務帳票など、限られた分野の印刷を行っていた。

8ポイントの活字
活字なのでひらがなの「の」が反転している

活版印刷とは文字通り、「活」字を組み合わせて作った「版」を用いて印刷する手法のこと。手書きの原稿に沿って活字を順に拾っていく「文選」、拾った文字と句読点や記号などを、決められた形に組み上げる「植字」など、相当の熟練技術と時間が必要とされる。当時を振り返って川村氏は次のように話す。

「文選では、例えば35文字×30行のフォーマットを埋めるのに、1050回も文字を拾う作業が発生します。植字も一つひとつ文字を組んでいく上に、表組みなどが入る場合、その形成もする必要があります。A4版の表組みだと、その作業に1日を費やさねばならないほどです。こうした作業には専門知識・技術が求められ、また、時間も要するため、学内でできる印刷物の範囲は限定せざるを得ませんでした」。

1982〜1998 オフセット印刷時代

1982年、この頃から玉川学園では学校広報を本格的に開始することになる。学校広報にはそのための印刷物が必要であり、したがって、商業印刷物と同程度の質と量を実現する印刷システムが求められた。
しかし、前述の通り活版印刷には膨大な時間がかかるため、学内で広報物を制作することは困難。かといって、外部に印刷を委託すれば、経費がかさむことになる。

そこで導入されたのが、オフセット印刷だ。オフセット印刷とは、版を一度ゴムブランケットなどに転写し、それを紙に印刷する手法のこと。版が直接紙に触れずに、一度、転写(offset)されることからその名で呼ばれている。
オフセット印刷の特徴は非常に鮮明な印刷が可能で、大量印刷にも向いていること。広報物を印刷するためには最適な印刷手法だ。

玉川学園が導入したのは、ドイツ・ハイデルベルグ社のオフセット印刷機。非常に高価だが、高品質で質の高い印刷が可能だ。
新しい印刷手法に対応するために、スタッフの研修も必要だった。外部の印刷会社に出向いたり、ハイデルベルク社のオペレータに教えを請い、数ヶ月を要して新しい技術を自分達のものにしていった。これにより、カラーのチラシやポスター、複数ページにわたるパンフレットも印刷可能となった。川村氏自身も、ハイデルベルク社の印刷機に強い想いがあったと言う。

ハイデルベルグ社の印刷機は、自動車で言えばメルセデス・ベンツやBMWのような高級品です。それほどの機器を導入したのは、玉川学園に「本当に良いものを使って、本当に良いものをつくる」という理念があったからだと思います。私もその印刷機を見たとき、「これを使いこなす知識と技術さえあれば、良いものがつくれる」と感じ、全力で使い方を学びました。

オフセット印刷の制作物を説明する川村氏

同時に、これを教育活動でも活かそうと、大学の文学部芸術学科美術専攻(当時)でグラフィックデザインを専門としている学生に対して、教育実習にも取り組みました。実際にハイデルベルク社の印刷機を使い、私自身で副教材も用意して、オフセット印刷の原理やインクの特性、カラー再現のしくみなどを教えました。受講した学生は、本物の印刷機を目の当たりにして非常に驚いていました。現場で実物に触れることで、学ぶことも多かったのでしょう。そのときの印象がとても強かったようで、卒業後も懐かしんで尋ねてくる学生も多いですよ。

1999〜 デジタル印刷時代へ

マイクロソフト社のWordやExcelといった文書・表計算作成ソフトや、Illustrator、PhotoshopなどのDTPソフトの普及が進むにつれ、印刷もデジタル時代へと移行していく。
1999〜2000年にかけて、玉川学園でもイントラネットを整備しデジタル複合機を導入。コンピュータで作成したデジタルデータを転送しプリントアウトするという、ネットワークを活用した印刷システムを構築した。これにより大幅な業務削減を実現し、少人数でも滞りなく印刷業務が行えるようになった。

デジタル印刷の大きな利点の一つは、版が必要ないことだ。版は非常に高価で、ページ数が多いほど費用がかさむ。実際、玉川学園で使う印刷物の多くは、大学における紀要や報告書、学術論文、卒業論文などであり、それらは大量の部数は必要としないが、ときには1冊が400〜600ページもの分量になることがある。したがって、デジタル印刷導入によるコスト削減は大きな成果があった。

ただし、デジタル印刷は大量ロットの印刷には不向きで、逆にコストが増えてしまう。そこで、ロットの多い印刷物はアウトソーシングすることで経費の削減にも取り組んだ。
こうして、学内で使用する報告書や論文、イベントプログラムなどから、広報用のチラシ、ポスター、パンフレットまで、多岐にわたる印刷物を低コストで実現するシステムが構築されたのである。これまでの成果について川村氏は次のように語る。

DTP制作課は単に印刷を行うだけでなく、クリエイティブ部門も設け、デザイン、レイアウト、色彩等に関して、教職員や学生からの細かい要望にも応えています。内部にこれほどの組織をもつ学校は、あまり例が無いのではないでしょうか。業務の内製化により、発注者と緊密なコミュニケーションが取れ、品質、納期、コストに関してお互いに納得した上でのものづくりができます。外部の業者に頼っていては、そこまで徹底したコミュニケーションは図れないでしょう。いちばん身近にいて、教職員や学生との信頼関係を築けているからこそ、“本当に良いもの”をつくることができるのです。