建物の技術:免震・水・熱・風

学びを変え、人の流れを変える新図書館

管財課長代理 北川昭一

“Tamagawa Vision 2020”のもと、さまざまな見地から再検討を重ね、従来あった「図書館、学術研究の場、ICT教育拠点としての高度かつ利便性の高い教育機能」というコンセプトに、「10年後、20年後の教育環境の変化、高度化にも対応できる高い柔軟性を有した設備にする」「他者と協調し「知」を交換する場として機能する」「玉川大学の歴史を「見える化」して、学園コミュニティーの醸成をはかる」を加え、プロジェクトが動き出しました。

新たな建設地になったのは、正門を入ってすぐの玉川池のウォーターフロント。これからの玉川大学のシンボルとなる建物に最もふさわしいロケーションです。さらに、その北側には大学1号館や2号館、3号館などがあり、メインとなる動線としても機能を果たす場所です。地上7階建てのこの建物(建物の名称は「大学教育棟 2014」)には2階建ての食堂棟も備えられ、知の集積・発信だけでなく、人が集まり交流する場にもなります。

しかし、この地に建設するにあたりいくつかのハードルがありました。一つは土地と地盤の問題。もう一つは景観の問題です。建設地は池から2号館までの斜面で、その高低差は実に16mあり、フロア4層分にもなります。さらに、池の近くは地盤が緩く奥にいくに従って硬くなっていきます。そこで、地下20m以上の深さにある硬い地層に基礎を打ち、その上に棟を建てる構法が採られました。また、景観については、同所にあったクリスマスツリー(ヒマラヤスギ)は2012年に伐採されましたが、新たなシンボルとなるべく3本のツリーを植樹します。この3本は、6m、9m、12mとそれぞれ高さの違うものを植えます。大きく成長してしまうと移植が難しくなります。高さを変えたことで、一度にすべてを移植せずに済み景観がそのたびに変わってしまうことが避けられます。もう一つ景観として食堂棟2階のテラスからの眺望を楽しめるようになり、これまでと違い、玉川池を上から眺めることができます。玉川にとって、玉川池の存在は大きかったのですが、更に身近に感じ存在価値が上がるものと思われます。

食堂棟2階テラスより玉川池をのぞむ(完成イメージ図)

玉川のシンボルとしてふさわしい外観・内装・コンセプト

次に、玉川大学・玉川学園のシンボルとなるにふさわしい外観とこれからの時代に必要な機能を備えた建物のコンセプトに基づいた設計・デザインを紹介しましょう。
まずは、シンメトリーなデザインのこの建物のセンターに、入口となる1階から4階へ上がる中央階段を設けています。新たな動線であり、斜面に経つ立地を活かしたバリアフリー化の実現でもあります。1・2階部分にはこれまでの図書館機能を、3階部分には新しい学修環境であるラーニング・コモンズを、4階にはさまざまな情報を収集する情報エリアを、5・6・7階には講義室や研究室をそれぞれ配置。学びの中心となるアクティブラーニングフロアを中心にして、その下層に情報収集、個人学習のフロア、上層に知識を獲得するフロアというように、直感的に各フロアがどのような機能のものなのかがわかるような配置をしています。約130万冊の蔵書と1000席を超える閲覧席を収めるにあたり、耐震性など安全面での施工にも万全を期しています。

68台設置される免震装置

68台の免震装置の積層ゴム支承とオイルダンパーが建物を支え、地震によって建物が受ける力を半減。建物の揺れを抑えることで書架などの什器類の転倒の危険性を軽減できます。また、2号館側の外壁は最大2mのコンクリート壁で土をしっかりと受け止め、なおかつ大地震での揺れにも対応できるよう65cmの隙間を設けています。停電時のバックアップ電源として発電機も整備され、万が一に対する備えも万全です。

守るのは建物とその中にいる人だけではありません。これからの時代の建物として、地球環境への配慮もなされています。屋上には、中央階段を明るい自然光で照らす「トップライト(天窓)」を設けるとともに太陽光発電パネルを設置。ブックサロンで使用する照明、空調機器などの消費電力量相当のエネルギーを太陽光発電によってまかなう予定です。この中央階段は、人の通り道であるとともに風の通り道としても利用。玉川池や2号館周辺に広がる緑からの爽やかな涼風を積極的に取り込むことで、空調電力の使用を低減します。さらに、太陽集熱システムで作られた温水を放射暖房として、夏場は井戸水の冷水を冷房として利用する天然空調システムを一部の施設に採用しています。

レンガに刻印する小原学長

アカデミックな外装は、正門からの来校者だけではなく、小田急線の車窓からも目を引く“玉川らしい”デザイン。外壁のレンガタイルと1・2階部分のボーダー部には、学園の全人教育を象徴する6つの価値 “VERITAS”(真) “BONUM”(善) “PULCHRITUDO”(美) “SANCTITAS”(聖) “SANITAS”(健) “COPIA”(富) が刻印されたレンガを一部に使用しています。完成・お披露目の際には、それらがどこに使われているのか探してみてはいかがでしょうか。

ボーダー部の刻印

西松建設株式会社 統括所長 岩本正己氏

建物の手前と奥で高低差があり、また、中央部に空間があり1階から4階はフロア形状が異なる、とても難易度の高い設計ですが、長年計画されてきたことに携われる喜びと誇りを感じています。図書館の建設地はもともと幼稚部の「きのこ園舎」があり、玉川学園のみなさんにはとても思い入れのある場所です。そうした思いも強く感じています。

実際の工事においては、主に2つのことに重点を置いています。一つは学生・生徒さんや教職員の安全です。大型の車両がキャンパス内を通行しますので、事故が発生しないよう細心の注意を払いながら搬入出の管理を行っています。もう一つは建物の品質です。免震構造を採用するため、傾斜地の山を押える超大な擁壁を構築し、空間及び装飾豊なこの建物を高品質に造りあげることです。また、工事中は敷地の外側に仮囲いという高さ3mの防護板を張り巡らせていますが、そこをキャンバスに見立てて、芸術学部生によりアートで飾ったり、工事現場にある巨大クレーンを使ってLEDの灯りを吊して写真アートを作成したり、また、低学年生の児童たちには現場見学をしていただいたりと、ここで過ごすみなさんの学びの場としても提供できていることをとても嬉しく思っています。

デザイン検討のため板囲いの材質を確認
仮囲いへのアート作品の展示
芸術学部:「まだ見たことのない光の幻風景」(通称:クレーンイルミ)
芸術学部:「まだ見たことのない光の幻風景」(通称:クレーンイルミ)
芸術学部:「まだ見たことのない光の幻風景」(通称:クレーンイルミ)
小学3年生の現場見学(お仕事調べ)