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科学するTAMAGAWA "探求型の美術学習"で世界に通用する人材を育成

2012.01.25

グローバルな現代社会で活躍するためには、
確固とした自分の意見を持つことが必要とされます。
そうした人材育成のために玉川学園K-12では、
自ら調べ考える“探求型”の美術学習を実践しています。

グローバル時代の美術の可能性

現在の教育の現場では、国語や英語、数学といったいわゆる“テスト教科”の学習時間数が増加している一方で、美術の時間数は全体的に減少傾向にあります。そのような中、玉川学園のK-12では美術を重要視し、限られた時間数の中でも効果的な学習ができるよう、美術の新しい学習方法に着手しています。

その取り組みの中心となっているのが、IBシニアスタッフ・美術担当の増田正雄教諭。国際学級であるIB(インターナショナル・バカロレア)クラスを担当する教員として、世界の美術教育の手法も視野に入れています。増田教諭は「美術の目的のひとつは、子供たちの感性や情操を育てることだと考えられていますが、それは美術だけが担っているわけではありません。感性や情操というものは、教育全体、もっと言えば社会全体によって培われていくべきものだからです」と話します。

では、今日の日本において美術教育が果たす役割とは何でしょうか。増田教諭は次のように語ります。「現在はグローバル化の時代であり、その傾向は今後ますます加速していくでしょう。このような時代においては、英語などの語学学習が当然重要視されますが、言語以前に、自分で調べたり考えたりして、自分の意見をしっかり持てるようになることこそが必要となってくるのです。なぜならば、世界中の様々なものの見方や考え方に出会ったときに、自らが確固たる意見を持っていないと、それを受け止めることも、反論することもできないからです。そうした力を育てるために玉川学園の美術教育の学習内容をさらに充実したものにしていきたいと思います。」

子供の意見を育てる“探求型学習”

それでは、具体的にどのような美術学習を行うと自分の意見が持てるようになるのでしょうか。増田教諭はこう語ります。「これまでの美術というものは、先生がお手本を示し、それを目標に子供たちが絵を描いたり、形を造ったりする“受け身の学習”が一般的でした。しかし、そこには自分で考えたり調べたりする余地がありません。これは美術だけでなく他の教科でも同じで、先生に教えられたことを知識として覚えることに終始してしまっているのです。もちろん知識を得ることは必要ですが、それだけでは自分の意見を持つことはできません」。

バイオ・アート
パノラマボックス

そこで、玉川学園の美術では、先生がお手本を示す型から、子供たちに考えながら表現してもらう“探求型学習”を重要視しているという。「例えば、8年生の授業では『バイオ・アート』という顕微鏡を使ったスケッチを行っています。トウモロコシ・紅羊歯(ベニシダ)・タマネギ・椿・松など、さまざまな植物の細胞組織を顕微鏡で観察し、そのスケッチを組み合わせて自由な色彩で表現してもらうのです。これは、何をどう描けば正解というものではなく、顕微鏡を通して見た新しい世界を自分はどう捉え、どう表現するのかを考えてもらうことが狙いです。また、動植物を立体的に配した『パノラマボックス』という制作物もあります。これは、地球にはどういう動植物がいるのか、それらがどんな関係にあるのか、どんな生物が絶滅してしまったのかなどを自分で調べてもらい、それを表現することで地球環境について考えさせることが狙いです。同じく環境を考える取り組みとして、10年生のIBクラスの授業では、冬の間樹木に色とりどりの編み物を着せて保護するというものもあります」。

「上手に描いたり造形したりするのを重要視するのではなく、調べたり考えたりする能動的な学習で、しっかりと自分の意見を持てるように促すことが、玉川学園の美術の特徴にしたいと考えています。ですから、評価の対象も作品そのものではありません。生徒は自分の作品の制作意図や制作手順、制作のポイントなどを写真やイラストと文章でまとめた『ワークブック』や『ポートフォリオ』というものを作り、これを評価の対象とします。つまり、結果ではなくそのプロセスを重要視しているのです。こうした取り組みから、自分で考える力や意見をまとめて相手に伝える力が培われていきます」。

他教科と連携する美術の可能性

さらに、このような能動的な学習が“美術の授業”として行われるのには、しかるべき理由がある、と増田教諭は強調します。「美術には、他の教科と連携しやすいというメリットがあります。前述の顕微鏡を使ったスケッチや環境問題について考える取り組みは、子供の自然科学に対する関心や理解を高め、自然科学に対する意見を形成するのに効果を発揮します。もちろん、自然科学だけではありません。例えば来年度の6年生の授業では、自分の将来を構想し、それを木版画で表現して絵巻物を作る取り組みを行う予定です。『10代をどう過ごすのか』『大学では何を学ぶのか』『どんな職業に就くのか』などを各自予想しそれを表現することで、能動的にキャリアについて考えていくきっかけになるはずです」。

こうした能動的な学習や他教科との連携は、海外では広く取り入れられていると増田教諭は指摘します。「日本のような、『試験ができればよい』という考え方は、海外の教育先進国にはもはやありません。いかに物事を考えられるか、いかに自分の意見を表現できるかが重要視されてきています。こうした能力はいわゆる“テスト教科”を学習しているだけでは身につきません。ですから、幅広い教科と連携しながら能動的に学習できる美術の役割というのは、今後ますます重要になってくると考えられます」。

自学自律の実現を美術が牽引

文章を読んで描いた抽象画

ただし、日本におけるこうした“探求型学習”の導入はまだまだ不十分であり、更なる改革が必要だと増田教諭は話します。「まずは、教育の現場がその重要性に気がつかなければなりません。教員の中には、いまだに生徒が“受け身の学習”で問題ないという意識がある。そういった教員の意識を変えていくことが、まずは必要だと考えています。また、他教科と連携するためには、教員は専門教科以外のことも分かるように、自らが学んでいかなければなりません。このように、改革の達成には多くの困難があり、成果をあげるためには長い時間がかかるでしょう。しかし、玉川学園の12の教育信条のひとつには、『教えられるより自ら学びとること』をめざす『自学自律』が掲げられています。その理念を現実のものとするためにも、“探求型学習”のさらなる拡充が必要なのです。幸いなことに、玉川学園K-12には、絵画・木工・金工・染色・陶芸・彫刻といったさまざまな創作活動に対応できる専門の芸術施設『アートセンター』など、美術学習のための恵まれた施設があります。この教育環境を生かし、美術の分野で“探求型学習”を牽引していきたいと考えています」。

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