科学するTAMAGAWA 着衣泳で生き抜く力を育む

2013.07.25

玉川学園小学部の全学年で行っている着衣泳の授業。
水に浮くことから救助法まで多様な内容に取り組んでいます。
その具体的な取り組みについて、
低学年体育科の小野一泰・市川優紀子両教諭にお話を聞きました。

全学年で実施する着衣泳の授業

左:小野一泰 教諭  右:市川優紀子 教諭

小野: 玉川学園小学部では、全学年で着衣泳の授業を実施しています。そのうち、私たちが担当する1~4年生では、全6回の水泳の授業のうち、最後の1回を着衣泳に充てています。

  • 玉川学園では、一般的な教育システム6-3-3制の枠組みにとらわれない4-4-4制の教育プログラムを行っています。

市川: 万が一の時のために、どうやって自分の身を守ったら良いのか、誰かが溺れていた時にどうしたら良いかを、知識と実践の両面から指導するのが狙いです。各学年で泳力の差があるので、内容は学年に応じて発展的に構築しています。

ヌードル棒を使って浮く練習

小野: 1年生は初めての経験となるので、服を着たまま水に入りその時の感覚や動きにくさを体験することから始め、ヌードル棒というスポンジ製の棒を使って水に浮く体験をします。

ボールを使って浮く練習

市川: 2年生は1年生の延長的な内容で、身近にある道具、例えばボールを使っていろいろな浮き方をしてみたり、知識として背浮き(体をあおむけにして水面に浮くこと)の方が楽に長い時間浮けることなどを体験を通して教えています。

浮く練習

小野: 3年生は自身の力で浮くことが目標になります。簡単な補助具としてビート板を使うところから、できれば補助具なしで浮けるように練習します。3年生くらいになるとこうした授業の意義も理解してきますので、溺れた人を見つけた時の対処法についてなど、救助法の導入的な学習も始まります。

市川: 4年生になると、水に落ちた時にはどういう泳法が役に立つかを知るために、クロール・犬かき・平泳ぎ・平バタ(手は平泳ぎ、足はバタ足)など様々な泳法を体験させたり、3年次の授業で使用したビート板より浮力が少ないペットボトルで水に浮くことも体験させたりします。また、救助法の実践にもチャレンジします。溺れている人がいたらペットボトルを投げて助ける、それも、川の流れを見越して手前に投げるとか、水を少し入れた方が風に流されずに投げられるということも教えています。

小野: 5・6年生では着ている服を使って救助する練習をしたり、着衣のまま楽に泳ぐ泳ぎ方にも取り組みます。いずれにせよ、「クロールで何メートル泳げる」というのも大切ですが、それに加えて「安全に水と接する力を身につけさせる」というのが、玉川学園の水泳教育の特徴です。

万が一の時に命を守れる力を

右:「助けて~!!」と大声で周囲に助けを求める練習
洋服のまま落ちる練習

小野: もともと着衣泳の授業は4年生以上で実施していたのですが、昨年から全学年で実施することにしました。クロールで25m泳げても、溺れる子は溺れます。逆に水に入るのが怖い子でも、着衣泳の知識があったため何かに掴まって助かる場合もあるのです。

市川: 去年までの4年生は、全員が初めて着衣泳を経験する子たちでした。今、振り返ると初歩段階のことから指導し、なおかつ、救助法なども含め、やるべきことが1時間の中で取り扱うには多かったと思います。ところが今年の4年生は、基本的なことは3年生の時に理解していますし、安全に対する意識も高く真剣に取り組む子が目立ちました。早い段階から着衣泳に取り組むことがとても大切なのだと実感しています。

小野: 授業では、水面から高さ2mくらいの指導用ブリッジから飛び込むことにも挑戦しています。船や橋から水に落ちた時にパニックにならないための練習です。できない子には強制はしませんが、飛び込む前は怖くて足が震えているような子でも、飛び込んだあとは水に対する怖さが減り、一気に上達することがあります。苦手なことにチャレンジして克服したことで、子供たちの自信に繋がるのだと思います。

市川: それと、がんばってチャレンジしたことを、クラスのみんなから認めてもらえるというのも、子供にとっては大きな自信になります。そういう意味では、健全な学級経営に資する部分もあると考えています。

安全に実施できる指導体制を確立

上:担任、教科担当、水泳部学生の3人体制での指導
下:玉川大学水泳部のサポート

市川: こうした授業ができるのは、安全を考慮した指導体制が確立できているからです。水泳の授業は2クラス同時に行い、それぞれのクラスに担任と私たち体育科の教員、そして大学水泳部のサポート学生がどちらかのクラスに1人入り、プール内に5人の指導者が常にいるようにしています。

小野: 5人いることで、例えば子供がケガをしたり、体調が悪くなって対応しなければならなくなったとしても、それぞれのクラスに2人の指導者は確保できます。特に、着衣泳の授業は普段の授業に比べて危険性が高いので、教員は細心の注意を払っていますが、教員1人だけで見ることよりもリスクは軽減できると思います。

市川: サポートの学生は毎回同じクラスの授業に来てくれているので、子供たちとの信頼関係も築けています。また、水泳部で指導者をめざす指導班の学生なので、指導することにもなれているし、子供が好きで親身に面倒を見てくれるのも非常に助かっています。これは幼稚部から大学までがある、ワンキャンパスならではの強みだと思います。

水泳教育の歴史をさらに充実させるために

小野: 玉川学園では独自の泳力検定というものを設け、各学年で到達目標を定めています。そして合格できるように、日曜日と夏休みに水泳教室と泳力検定を実施しています。最近では習い事も多様化し、休みの日に受けられないという子も多くいますので、去年からは授業内で検定を受けられる仕組みも整え、少しでも挑戦できる機会を設けられるようにしています。

市川: 検定のいいところは、目標が明確に定まっていることです。子供たちも自分から「検定を受けたいです」と言いますし、1つクリアしたらその次、という様にチャレンジしていく意欲も見られます。

泳力検定(抜粋)

  水泳能力判定基準 学年目標
初級者 10 ・伏し浮きができる(3秒以上)  
・立ちとび込み(プールサイドから)
9 ・蹴伸びキック(バタ足)(4m以上) 1年生
8 ・クロール、板付き背面キック(各8m以上) 2年生
7 ・クロール、板付き背面キック(各15m以上) 3年生
中級者 6 ・クロール、平バタ(各25m) 4年生
・背面キック(15m)
5 ・クロール(50m)、平泳(ドルヒラ可、25m) 5年生
・背泳(15m)
上級者 4 ・クロール(50m)、平泳、背泳(各25m) 6年生

小野: 玉川学園の泳力検定の特徴は、単に競技としての水泳能力を評価するのではなく、社会的に通用する水泳能力を身につけさせたいという思いがあることです。玉川大学の教育学部で保健体育の教員をめざす学生には、遠泳や立泳ぎ、横泳ぎを課題としてきましたし、着衣泳もいち早く取り入れてきました。多くの子供たちが挑戦し、長い年月をかけて確立してきた歴史にはとても意味があり、誇れるものだとも思っています。私たちはその歴史を尊重しながら、今後も発展的に水泳指導の充実に努めていきたいと考えています。