科学するTAMAGAWA 人格形成期の「人の心」を育てる技術科教育

2013.09.25

日本の学校教育課程の中で、中学校にしか設置されていない教科、
それが「技術・家庭」における「技術科」です。
技術科は、かつては男子のみの教科として置かれていましたが、
現在では男女ともに必修の教科となっています。
このような技術科の今を紐解いてみます。

技術に触れる経験に乏しい現代の子どもたち

2008年に新学習指導要領に改訂された際に、技術科で学ぶ分野が従来までの「技術とものづくり」「情報とコンピュータ」から「材料と加工に関する技術」「エネルギー変換に関する技術」「生物育成に関する技術」「情報に関する技術」へと細分化されました。
では、玉川学園7-9年生(中1-3)における技術科の教育は、どのように行われているのでしょうか。技術科を担当する藤部和也(ふじべかずや)教諭に話を聞きました。

「玉川ではかつて『造形』というくくりで授業を運用しており、ものを作ることを大切にしてきた経緯があります。それが現在の『技術』へと発展しています。カリキュラムについては他校と同様、新学習指導要領に基づいて編成されています。この改訂では、従来までの“何かを作り出すための技術を学ぶ”から“これまで培われてきた技術を使いこなす・応用する技術を学ぶ”ことにもふれていくようになりました。その分、様々な分野を幅広く身につけている必要があり、それに対応するべく学ぶ分野も4分野に拡大・細分化されているのです。その根底にあるのが『生きる力の育成』です。自分が生きていくために必要な力はもちろん、それだけでなく、学んだ技術を人や社会に応用する力が求められるのです。それは、『工夫する力』と言い換えることができるでしょう。

例えば、ドライバーを使ってネジを締めるという作業で、ドライバーを回す方向に迷う生徒がいます。そのときに、これまでは“水道の蛇口のひねる方向”を例にしていましたが、最近では“ペットボトルのフタを回す方向”で説明するようにしています。身近にある物なのですが、このような経験するという機会が減ってしまっているのです。また、欲しい物が簡単に安く手に入る時代でもあります。例えば、ホウキが必要な場合に7万円の物と100円の物があったらどちらを買うか?という問いに、ほとんどの生徒が100円のほうと答えます。そこで、7万円のホウキの機能、使いやすさ、安全性、さらには作った職人の思いなどを説明すると、7万円の価値を納得・理解してくれます。こうしたつくることの意味、そしてその大切さを理解することが大事なことだと考えています」

先人たちの知恵の結晶である“技術”から工夫を見出す

玉川学園における技術の時間は、7・8年生(中学1・2年生)は年間70時間、9年生(中学3年生)は35時間が確保されています。しかし、藤部教諭はそれでは足りないくらいだといいます。
「メンコやベーゴマなどを遊びの道具としていた時代には、相手に勝つためにいかに自分の持ち駒を強くするかという工夫が必要でしたし、それだけの余地がありました。しかし、現在流行しているカードゲームなどでは、強くするためにカードを買い足すという方向へ行ってしまいます。簡単に物が入手でき工夫する力を必要とされないのです。しかし、だからといって工夫する・考える力が低下しているとは感じていません。単に機会が減っているためトレーニングできていないだけですから、機会を与えることで工夫する力を伸ばすよう心がけています。また、技術とは別枠で『自由研究』の時間が確保され、ロボット製作やものづくりの工作、植物の育成栽培など専門的なことにふれることができます。今、学んでいる技術の先に、多彩な学びの分野が広がっていることも伝えています。」

そこで藤部教諭が行っているのが、“普段見て知っている物”を授業の導入に用いていることと、さらに、実際に使ってみて扱いの難しさに直面しながら、そこに施された工夫に触れることで興味を喚起させることだそうです。
「用いられている技術というのは、先人たちの知恵の結晶であり、そこに至るまでに、悩みや失敗を重ねた工夫の過程があります。そうしたことに触れることで楽しさがわかり、当たり前と思っていたことが、当たり前でないことを知るのです。その喜びの顔、目の輝きが見られるのがうれしいですし、やる気が出てくる様子もよくわかります。かつて女子生徒には技術を学ぶ機会がありませんでしたが、現在ではその機会が設けられています。もちろん、初めて触る道具に怖いとか危ないとかのイメージを持っている人もいるでしょう。でも、安全が確保され、指導してくれる教員がいるという環境下では、チャンレンジしてみよう、同じようにやってみようという気持ちが勝るようです。大胆さや思い切りの良さが前面に出る傾向にある男子生徒の作品と比較して、女子の作品は総じて仕上がりがキレイで、作業計画も緻密で細かく、とても丁寧に進めていることが多いようです。男女による違いは、それぞれの作業や作品からお互いに学ぶ機会にもなるのではないでしょうか。」

工夫することで問題解決能力を身につける

“技術=ものづくり”と思われがちですが、じつはそうではないと藤部教諭はいいます。では、中学の3年間で技術を学ぶ意義・目的はどんなところにあるのでしょうか?
「『ものづくりは人づくり』です。技術科の授業は“作って終わり”ではありません。作る過程で工夫が必要とされます。わからかないことに気付き、調べて解決する、それが工夫です。こうした力を身につけることは、社会に出て問題に直面したときに役に立ちます。手に職をつける科目ではなく、むしろ、大切な中学期に人の内面を育てる科目だと思っています。だからこそ、中学の3年間に置かれて、考えさせる機会を提供しているのです」 藤部教諭は、7年生の最初の授業で、技術を学ぶ意義を生徒たちにこう説明しています。“物を作れるようになることではなく、作ることから工夫する、失敗から工夫することで問題発見・解決能力を身につけるようになってほしい”。 玉川学園は、幼稚部から大学・大学院までを擁する総合学園です。そうしたスケールメリットも大きなアドバンテージになるといいます。

「技術科で学ぶ4分野は、大学の工学部や農学部を中心にさまざまな分野において専門的な研究が進められています。数年先の自分自身をイメージしながら学ぶことができますし、ロボットなど最先端の分野と連携した教材開発もできるでしょう。技術科の時間で作ったものを情報技術でプログラミングして動かすというような高度な連携は、他の中学校では難しいかもしれません。7年生は、道具の扱い方に慣れ、さらに木工で簡単な作品づくりに取り組みます。8年生では、前年に得た知識と技術をベースにさらに大きな作品づくりにトライしてもらいます。この一連の流れの中で、問題を発見し、“できないからいいや”ではなく“何とかしてみよう”と思う気持ちを育んでいきます。そのためには、技術によって社会が作られ、生活に応用されていることを、生徒に気付いてもらうことが大切です。こうしたことを通じて、自分自身は今の社会の一員であり、これからの社会を発展させていく一員だという実感がわいてきます。将来、どのような分野・進路に進んだとしても、“自分がこうしたい”と思う気持ちと、それを実現しようとするアクションにつながる“理想を作っていくような”教育ができたらと考えています」

中学で「術」の文字が入る教科は「技術」と「美術」の2つです。いずれも小学校の「図画工作」の先にあるものです。この2つの違いを藤部教諭は生徒たちにこう説明しています。
「美術は、自分の考えを人に伝えることが大切で、中心にあるのは自分です。技術は、安全で便利、人が使いやすい工夫がされているかが大切で、中心にあるのは相手です」
まさに、物を作るのではなく、物を作る人をつくる大切な時間なのです。