科学するTAMAGAWA 玉川の音楽教育の結晶「玉川学園音楽祭」

2014.06.25

玉川学園では“生活の中にある音楽”を重要視し、
「歌に始まり、歌に終わる」といわれるほど、
すべての児童・生徒が毎日歌声を響かせています。
その音楽教育の結晶となるのが「玉川学園音楽祭」です。

小・中・高が一堂に会する音楽祭

2014年に創立85周年を迎えた玉川学園では、それを記念して7月4日、東京国際フォーラム・ホールAにて、「玉川学園音楽祭」を開催します。これは、創立70・75・80周年と節目の年ごとに行っているもので、小学部・中学部・高等部の児童・生徒が一堂に会して、それぞれの学年にあった歌や演奏を披露します(それ以前には小・中・高・大の合同で「60周年記念音楽祭」も実施)。

これまで過去3回の音楽祭の取りまとめを務めたのが、高等部学務主任で音楽の授業を担当する長谷部啓教諭。長谷部教諭は高等部吹奏楽団の指導にもあたり、国内外の数々のコンクールで優勝を果たしてきました。ただし教諭は「玉川の音楽教育は、音楽技術の向上のみを追究するものではありません」といいます。

では、玉川の音楽教育とはどのような目的をもっているのでしょうか。そして、音楽祭が果たす意義とはどのようなものなのでしょうか。長谷部教諭にお話を聞きました。

5000人を収容する大舞台

そもそも、玉川学園音楽祭が開催されるようになった経緯について、長谷部教諭は次のように話します。「大学では、以前より音楽祭を実施していていました。しかし、1989年は小学部から大学までが一堂に会した創立60周年記念音楽祭を日本武道館で行いました。その後、小・中・高の音楽科で、合同で音楽祭を実施したいという声は上がっていました。それから、会場などの検討を重ね、ようやく2000年に創立70周年記念というかたちで、小・中・高合同で行う音楽祭の開催にいたりました。以後、75、80、そして今年の85周年と、節目ごとに周年行事として音楽祭を開催しています」。

今年の会場は東京国際フォーラム・ホールA。過去3度の音楽祭も、会場が使用できなかった1度を除いて、すべて東京国際フォーラムで開催しています。「この音楽祭では、玉川学園の児童・生徒とその保護者の方が一堂に会します。それほどの人数を収容できる会場は東京近郊では数少なく、5000人を収容できる規模があることから、東京国際フォーラムを会場として選んでいます。また、こうした大舞台を用意することで、生徒・児童が充実感を感じられるという意味でも大切だと考えています」。

それでも全学年を一度に収容するのは困難なので、プログラムはⅠ部・Ⅱ部に分けて行われます。「Ⅰ部では、1・2年生から5、8、10、12年生へ、Ⅱ部では3・4年生から6、7、9、11、12年生へと、下の学年から順に発表します。こうして1〜12年生が集まり順に発表を行うことで、見ている保護者の方たちが、各学齢の発達段階をよく理解できるようになっています。さらに、児童・生徒が学年を越えて一つになるプログラムが用意されているのも、玉川学園音楽祭の魅力です。今回の音楽祭でも、Ⅰ部・Ⅱ部ともに全校合唱を用意していますし、4年生から12年生までが所属するオーケストラやハンドベルの演奏もあります。こうした合唱・演奏ができるのは、全学年がワンキャンパスで学んでいる玉川学園ならではの特色ですし、小・中・高が一堂に会する玉川学園音楽祭の、醍醐味の一つになっています」。

1・2学年
7学年
12学年
玉川学園オーケストラ
※写真は創立80周年音楽祭より
玉川学園ハンドベルクワイア
 

全学をあげて音楽祭に取り組む

これほどの規模の音楽祭を実現するのは、並大抵のことではありません。その準備の大変さについて、長谷部教諭は次のように語ります。「会場については2年前から手配をしています。開催が近づいてくると、教員の分担を決めて、ステージの図面の用意、チケットの手配、会場スタッフとの打ち合わせなどを行います。直前には、4トントラック4台分にもなる楽器を会場に搬入したり、会場周辺の安全確認などもあり、小学部から高等部まで全学年の教職員が総出で行うことになります」。

発表に向けた練習も、限られた時間の中で急ピッチで進められます。「12年生は前年度の2月頃から、その他の学年は4月の初旬から下旬に掛けて、順次練習を開始します。しかし、音楽の授業時間は限られているので、それだけでは間に合いません。学年によっては、週に1時間しか音楽の時間がないので、練習時間の確保はかなり困難です。そこで、本番1週間前からは全学的に時間割を調整し、毎日1時間の練習時間を確保できるようにしています。なお、文部科学省の学習指導要領では、高校生は音楽・美術・工芸・書道から1科目を芸術科として選択することになっていますが、玉川学園では音楽を必修としています。英語や数学といった教科の充実が叫ばれる中、あえて音楽を必修にしているのは、それだけ玉川学園が音楽を大切にしている証といえるでしょう」。

生活の中に音楽が溶け込む

玉川学園がこれほどまで音楽に力を注いでいるのは、音楽が、玉川学園の12の教育信条にもある「全人教育」のかけがえのない教材であるからです。「玉川学園では『歌に始まり歌に終わる』といわれるほど、歌が学校生活の中に溶け込んでいます。学校行事や季節の節目ではもちろん、毎日の朝会でも、帰りのホームルームでも歌を歌います。創立者の小原國芳も『ピアノがなくてもできる音楽教育を』といっていたそうです。つまり“歌を歌う”ということが、生活を豊かにする大切な教材だと考えており、音楽祭はその延長線上にあるのです。1年生が生活の中で歌う簡単な輪唱のハーモニーが、12年生になるとモーツアルトの『レクイエム』を歌い上げるようにまでなる。そのようなことができる学校は、生活の中に音楽があふれる玉川学園をおいてほかにないでしょう」。

男女別で授業を行い、各自が自信をもって歌えるようになると合同での授業に。その時々で柔軟に対応。

ただし、それはただ単に音楽の専門性を追究しようとするものではないと長谷部教諭は続けます。「たとえば朝の歌を歌うことで、1日を過ごす活力が沸いてくるように、児童・生徒に“生きる力”を与えてくれるのが音楽なのです。音楽は、それを楽しみながら創造性や感受性、自己表現力を高めることができます。また、ほかの人の歌声や演奏に心を動かされて、自分がさらに上手になるにはどうしたらいいかを考えるようにもなる。感性と知性とを同時に高めることができるのです。それは音楽だけにとどまらず、ほかの教科にも、学校生活にも通じる、児童・生徒の生きる力となるはずです」。

もちろん、歌が苦手、変声期で声が出ない、中学や高校からの入学で、歌うことに慣れていないという児童・生徒もいます。「音楽の授業では、まず思い切り自由に歌うことから始めます。歌に苦手意識をもっている生徒は抵抗感がなくなり、一生懸命歌うようになります。そして必ず、〝もっと美しくきれいに歌いたい″と彼らから求めてくる瞬間がくるのです。そこから『本物の音楽の追究』が始まります。美しい発声の仕方や強弱のつけ方など技術的な歌い方を伝えると、ぐっと表現力が磨かれ、すばらしいハーモニーへと変化していきます。学園生活の中に溶け込んでいる歌は、音楽の追究とともに感性を豊かにしていく大切な要素でもあるのです。今回の音楽祭では、そのことを児童・生徒一人ひとりが体感できるのではないかと思います」。

世界に認められる表現力

外部のコンクールに参加するのではなく、独自の音楽祭を開催する意義もここにあると長谷部教諭は話します。「コンクールのように勝ち負けを意識して音楽に向き合うことは、『音楽を楽しみ生活を豊かにする』という、玉川学園が考える本来の音楽教育とはかけ離れています。ですから、独自の音楽祭を開催することに意義があるのです。ただし、演奏を聞いてもらい、第三者の視点から示唆されて気付くことはあると思います。その意味で、玉川学園の吹奏楽団、ハンドベル、オーケストラも、外部のコンクールに参加しています」。

特に海外のコンクールでは演奏技術よりも、演奏者がいかに音楽を理解し、それを自分のものとして表現できているかが重視される傾向にある、といいます。「単に音楽技術が高いだけでは、『すごいけれど、つまらない』という評価を受けることが多い。逆に、技術的には劣るところがあっても、そこにしっかり自己が表現されていれば高く評価されます。玉川学園がめざす音楽は、もちろん後者。一人ひとりが音楽を楽しみ、自己を表現することを大事にしています。もちろん、コンクールで優勝するには技術も表現力も両方必要ですが、玉川学園がめざす音楽の在り方は、少なくとも“世界に認められるものである”と言えると思います」。