科学するTAMAGAWA 0.000002mmに存在する無数の可能性をひもとく

2011.08.25

医療や食、個体の特定など様々な分野で応用されているDNA(遺伝情報)は、
「生命の設計図」とも「性質・形質を次代へつなぐ情報の担い手」ともいわれています。
そうした生物の持つ遺伝子機能を分子生物学的に解明し、
資源生物としての改良や生産性の向上につなげる研究を紹介します。

コスモスといえば玉川ゆかりの花

秋の野山を彩る季節の代名詞ともいえるコスモス(学名:Cosmos bipinnatus Cav.)。「美麗」「調和」「真心」などを花言葉として持つ可憐な花は、玉川学園とはとても縁の深い植物でもあります。学園創立者 小原國芳は『全人教育論』で「真・善・美・聖・健・富の六つの価値が、秋の庭前に整然と花咲いとるコスモスの花のように、調和的に成長してほしい」と著しています。また大学の文化祭は、のちに大学祭へとその規模を広げていますが、1967年から「コスモス祭」の名称が使われています。

コスモスの研究は農学部育種学研究室において1950年頃スタートし、世界初の黄色いコスモス「イエローガーデン」、より鮮明な黄色い花を咲かせる「イエローキャンパス」、オレンジ色の花を咲かせる「オレンジキャンパス」の育成に成功しています。現在これらの研究は大学院農学研究科資源生物学専攻の応用植物科学研究分野へ引き継がれ、今村順教授の指導のもと、大学院生と農学部生約20名が最先端の研究に取り組んでいます。

交配、そして遺伝子組換えによる改変

「植物の品種改良は、かつては交配(2個体を受粉させること)という手法が用いられてきました。しかし、6~8世代の交配を行わないと目的とする結果が得られず、また、必ずしも全てがその結果に至るわけでないため、膨大な時間と手間が必要でした。さらに、そもそも遺伝情報として備えていない性質を作り出すことができません。そこで、私たちが取り組んでいるのが、コスモスの花色を遺伝子操作で改変する研究です」と語る今村教授。

ナタネのプロトプラスト(注1)
をとるための無菌操作

長い鎖状につながったコスモスのDNAを切断し、そこに異なる遺伝子を持つDNAを組み込み、組み込んだ遺伝子が持つ新しい性質をコスモスに発現させる……、と言葉にすれば仕組みは簡単なようですが、一筋縄にいくものではありません。「コスモスが遺伝情報として持ち合わせていない色を作り出すには、ほかの植物の力が必要です。例えば、今までにない鮮やかなオレンジ色のコスモスを作り出すために用いたのは、ガーベラの色素を作る酵素の遺伝子。青色のコスモスの創出には、ペチュニアやリンドウの青い色素の遺伝子を用いています。必要な遺伝子を取り出し、それを導入するといった研究だけでも7~8年にも及びます。オレンジ色のコスモスは、早ければ今年中に花が咲くかもしれませんが、観賞用として完成した花になるまで様々な課題にぶつかる可能性もあります。青色はもう少し時間がかかりそうです」。

花の色を変えるためにガーベラの遺伝子
を導入したコスモスの芽生え
プロトプラスト(注1)を
とるための無菌モヤシ
 

研究の拠点となる大学6号館

こうした遺伝子組換えは1980年代初頭に技術開発され、1986年頃から農作物の商業生産に応用された“新しい”品種改良の手法です。 「遺伝子組換えは机上の計算では短期間で結果が出ますが、実際に個体としての新しい植物を創出するには時間がかかります。ただ、これまでなかったものを作り出せることが交配との大きな違いです。そのためには、遺伝子を取り出す技術やそれらを組み込む技術も求められますし、遺伝子を分析・解析するための技術も必要です。さらに、遺伝子を組み込んだ組織を培養して、どの組織部位をどう使えば反応・発色が良いかなどひとつひとつを検証していく必要もあります」。

大学6号館(SCIENCE HALL)

研究の拠点となっているのは、2009年に竣工した「大学6号館」。ここには最先端の研究を行うために必要な設備・機器がそろっています。 「照明を当てる時間や室温がしっかりと管理できる組織培養室や分子生物学実験室など、ハード面の充実が大きいですね。この施設の完成で植物育成や実験ができる環境が整い、研究内容も深化・促進できました。また、学部生と大学院生が同居しながら研究・実験を行うことで、それぞれに学ぶ上でのメリットも生じています。学部生は、先端の研究を間近で見られ、その内容について気軽に先輩に聞くことができますし、大学院生は、学部生に教えることで知識・技術の再確認につながっています。学部での4年間の学習・研究でしっかりとした基礎を身につけ、大学院でその内容を深化・拡大していく感じです。大学での研究テーマを続けるために大学院へ進学するケースがほとんどではないかと思います」。植物遺伝子解析室では、遺伝子導入による脂質成分の改変などの研究のため、ナタネが育成されています。この中の一室は、日照時間や気温、湿度などの諸条件がカナダの気候に再現されています。またこの施設は、組換え植物を栽培するため、室内に散布された水や花粉が外部へ漏出しない構造になっています。

遺伝子組換え植物育成室
遺伝子組換えナタネ

未知・未解明なことに挑む意義

遺伝子機能の解析

「近年では、遺伝子の働きを調節する遺伝子の研究にも取り組んでいます。RNAi(interference=干渉)という遺伝子機能の解析を進めることで、特定の性質を強調したり発現しないようにしたりできることがわかっています。色のパターンや模様のつき方に違いが出るのはなぜか、花びらの先端にだけ色がつくのはなぜかなど解明されていないことが多く、コスモスは生命現象を遺伝子レベルで扱う題材としては最適な植物です」。 最先端の研究に携わる意義について今村教授に伺ったところ「遺伝子組換えのような最先端の研究も従来から行われている交配も、それぞれ意味があります。それだけではなく、誰もやっていないことを研究しその結果を理解するのは大変ですが、不可能を可能にする面白さもあります。また、仮説を立てて、その仮説を証明するために研究を行って、仮説をサポートする結果が出たり……それが研究の醍醐味でしょう」との答えが返ってきました。

  • 1プロトプラスト:植物細胞の細胞壁を細胞壁分解酵素で取り除いたもの。遺伝子導入や細胞融合の際に用いられる。

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