科学するTAMAGAWA 全人教育を実践する場としての玉川大学教育博物館

2012.07.25

玉川学園のキャンパス内にある「玉川大学教育博物館」。
全人教育を実践する場として、
現在も精力的におこなっています。
科学する心を育む場として、
「本物に触れ、五感に訴える教育活動」を展開しています。

3万点の資料を誇る玉川大学教育博物館

玉川学園のキャンパス内には、博物館法の「博物館相当施設」として指定されている『教育博物館』が設置されています。教育史資料、芸術資料、民俗資料、考古資料など約3万点もの資料が収蔵されており、玉川学園全体の教育活動の場として、また、一般の方に玉川学園の教育活動や理念を知っていただく場としても、幅広く機能しています。

今回は、この教育博物館の特徴とその存在意義、そして、そこで行われているさまざまな教育活動について、館長の玉井日出夫教授、主幹学芸員の柿﨑博孝教授のお二人にお話を伺いました。

「全人教育」実践の場として

教育博物館の歴史をたどると、その発端は学園創立時までさかのぼると玉井教授は話します。「玉川学園は1929(昭和4)年、創立者小原國芳により『全人教育』を教育信条として掲げ開校しました。当時からすでに、創立者の考えの中には博物館を作りたいという思いがあったと思います。と言うのも、創立者は学園創立と同時に『教育研究所』という機関を設置し、教材・教具といった教育資料の収集を始めているのです。それは、よりよい教育を実践するためには、優れた教育資料を研究し、これからの教育活動に役立てなければならないという考えがあったからです。そのため、現在、教育博物館に収蔵されている3万点に及ぶ資料のうち、実に2万点が教育史関連の資料となっています」。

その後も教育史資料をはじめ、芸術資料、民俗資料、考古資料など各種資料の収集を続け、それをもとに1969(昭和44)年、学園創立40周年を期に大学図書館内に「玉川学園教育博物資料室」を開設したのが教育博物館の前身です。以来、幾度かの改称を経て、1986(昭和61)年に現在の形の教育博物館が開館しました。

「今でこそ博物館を持つ大学は増えてきていますが、玉川大学教育博物館はかなり早い時期に誕生しました。ここにも、創立者小原國芳の全人教育に懸ける思いが表れています」と玉井教授。「創立者は児童・生徒・学生に対し、『本物を見よ』ということを常に言い続けていました。ここで言う『本物』とは『優れたもの』あるいは『実物』という意味です。若いうちに優れた美術・音楽・演劇などの芸術作品や、歴史に裏打ちされた考古資料などの実物に直接触れる経験は、感性を豊かにし、調和の取れた人格の形成に寄与します。それは、『人間文化のすべてをその人格の中に調和的に形成する』ことをめざす全人教育の実践に、欠かすことのできない経験なのです」。

大学博物館がもつ現代的意義

さらに、大学が博物館をもつことは、優れて現代的な意義があると玉井教授は続けます。「現代は知識基盤社会であると言われています。それはあらゆる領域で知識が活動の基盤となり、その知識をもとに新たなものを創造していくことが重要視される社会です。大学は社会における知の拠点ですから、大学にはそれまで培われてきた知識や文化を継承し、発展させ、新しいものを創造していくことが求められます。『本物』を通してそれを実践することができる博物館は、大学にとってきわめて重要な意味を持つのです」。

同時に、これからの情報化社会にとっても博物館の役割は大きいと玉井教授。「コンピュータの進歩などにより、あらゆるものがメディアを通じて体験できるようになってきています。それはとても便利なことではありますが、一方で、だからこそ本物に触れる機会が重要になってきているとも言えるのです。例えば、玉川学園のキャンパスからは縄文時代中期の土器がいくつも出土しており、それを教育博物館で保管しています。小学部ではその土器を使った授業を行っていますが、単に見るだけではなく実際に手に持ったり触ったりさせています。そうすることで、知識としての表面的な土器の理解ではなく、リアルな感覚を伴った理解が得られ、質的にはるかに深い知識に結びつくのです」。また、柿﨑教授は「情報を受容する手段には、見る、聴く、嗅ぐ、味わう、触れるといった感覚機能がありますが、五感を統合させた体験ほど記憶に残ります。メディアを通じた体験だけでは、このような深い知識はどうしても得難い。その意味でも、情報化が進む現代において、博物館の存在意義はますます大きくなっていると言えます」と続けています。

五感に訴える教育活動

「現在、博物館をもっている日本の大学は約170校ですが、玉川大学教育博物館ほどの規模があり、これほど充実した資料を揃えている施設は多くはありません」と柿﨑教授は話します。「その資料を最大限に活用して、“本物”に触れる教育を学園全体で展開しています。例えば、小学4年生の社会科の時間には、先ほども話に出た土器などの考古資料を使った授業を行っています。実際に土器に触れて手触りを確かめたり、重さを実感したりしてもらうことで、しっかりと記憶に残る体験ができます」。

「また、充実した教育史資料を使用して文化を学ぶ取り組みもあり、小学6年生では、本物の『解体新書』を閲覧させています。教科書で誰もが学ぶ『解体新書』ですが、その本物を見たことがある人は多くはないでしょう。教育博物館には『解体新書』の初版本があり、授業では実際にページをめくって中まで見てもらいますし、においをかぐ子どももいます。そのページをめくる体験や古い本のにおいが、五感に訴え、強い記憶となって後々まで残るのです。教科書を見ているだけではあまり興味を示さない子どもでも、こうした本物に触れられる機会には目を輝かせて積極的に取り組んでいます」。

“対話型”の引き出す教育を実践



現在、特に力を入れているのが、美術資料を活用した“対話型”の鑑賞学習だと柿﨑教授は続けます。「これまで美術館などでは、静かに鑑賞する態度が求められるのが一般的でした。しかし最近では、作品から感じたことや作品を見て考えたことなどを話しながら鑑賞する、対話型の鑑賞学習が行われるようになってきています。玉川学園でも、美術資料を前に教員が『甘い味を感じる作品は?』『いちばん重い作品は?』『音を感じる作品は?』といった質問を子どもたちにして作品を選ばせ、どうしてそう感じたのかを説明してもらう授業を行っています。そうすることで、子どもたちの自発的な意見や作品を感じる感性を引き出すことができるのです」。

「このような取り組みは、実は海外では割と古くから行われていた例もあるのですが、日本では最近になってようやく取り組まれるようになってきました。その点、玉川学園では教育博物館を利用することで、10年も前からこうした対話型の鑑賞学習を行うことができています。また、他の学校で外部の美術館に鑑賞に行く場合、学年単位で動くことが一般的ですが、玉川学園にはキャンパス内に教育博物館があるので、クラス単位での鑑賞学習が行え、対話の時間も多く取ることができます。学内に博物館をもつことは、こうした教育効果の面から考えても非常にメリットが大きいのです」。

全学生が「全人教育」の理念を理解する

さらに大学では、FYE(First Year Experience)と呼ばれる初年次教育科目において、全学生が教育博物館を訪れ、玉川学園の歴史や創立者小原國芳と全人教育の教育信条を理解する機会を設けています。「私立大学の教育とは、それぞれの理念のもとに実践されるものです。その教育理念を知らなければ、何のために学ぶのか分かりません。教育博物館には小原國芳が残した多くの資料が保存されており、学生はその実物に触れながら具体的に玉川学園の理念を学ぶことができます。このように大学の理念をしっかりと伝え、学生に学ぶ意味を考えてもらうことは、大学全入時代と言われる今、非常に大きな意味があると考えています」と玉井教授。

また、玉川大学では通学課程の全学部と通信教育部で学芸員の資格を取得することができ、その実習の場としても教育博物館が使用されています。「博物館実習では調査研究、収集、整理、保存、展示、教育などの基本的活動をもとに、できるだけ実践的な経験をしてもらっています。これらの経験は学芸員としてだけでなく、教員やディスプレイ業、輸送業、印刷業など博物館をとりまく職種において役立つ力を身に付けることができるはずです。外部の博物館実習ではここまで実践的な経験をすることは難しい場合もあるため、これも、学内に教育博物館をもつ玉川大学ならではの強みだと思います」。

本物に触れる経験は科学する心を育む

教育博物館では今後、さらに教育活動の充実を図る一方で、一般の来館者に向けても積極的に資料を公開していきたいと、玉井教授は話します。「現在、教育博物館では、教育史に関する展示を基本に、考古資料や美術資料などを随時入れ替えながら展示する常設展と、年に1、2回のペースで開催する企画展で所蔵資料を公開しています。2010年度の教育博物館の来館者は、学内3,700名、一般4,400名でした。一般の方にも多く来館していただいているので、これからも、魅力的でわかりやすい企画展を数多く開催していきたいと思っています」。

今年度は、2012年11月5日(月)~2013年1月27日(日)に、「石に描かれた鳥たち-ジョン・グールドの鳥類図譜」展を開催予定と柿﨑教授。「ジョン・グールドは、博物学の全盛時代であった19世紀イギリスで、当時発明されたばかりの石版画(リトグラフ)の技法を使い、精密な鳥類の図を描きました。その美術的価値もさることながら、すでに絶滅した鳥たちの習性の描写や、ともに描かれた植物など、生物学・植物学的にも貴重な資料となっています。企画展では、そのような鳥類に関する生物学的な視点も交え、子どもたちが科学的な関心を持てるような内容も準備する予定です。また、グールドの石版画のデータをアメリカ・カンザス大学からお借りし、石版画から本が完成するまでの制作過程を複製で解説する展示も予定しています」。

最後に、教育博物館の意義について玉井教授は次のように話してくれました。「優れた作品や歴史的価値のある資料を見て感動したとき、人はもっと知りたい、もっと学びたいと感じます。つまり、本物に触れる経験とは、広い意味で“科学する心”を育むことだと言えるのです。特に子どもの間にこうした経験をすることは、後の人生をとても豊かにします。教育博物館では、今後もK-12* の子どもたちに“本物に触れる”教育活動を展開していくと同時に、一般の方々に向けても、そうした機会を広く提供していきたいと考えています」。

  • 幼稚園(KindergartenのK)から始まり高等学校を卒業するまでの間を、本学園では「K-12」と呼んでいます。幼児教育、小・中・高等学校という、学校間の教育の連結性・一貫性を考えるコンセプトとして使っています。