科学するTAMAGAWA 人を育てる工学部のキーワードは「ベース」

2011.09.25

『神なき知育は、知恵ある悪魔をつくることなり』を教育のモットーに
ものつくりを担う「ひとづくり」と「テクノロジー研究」を続ける工学部。
2012年に開設50周年の節目を迎えるにあたり、工学部の取り組みと人材育成、
今後の目標などについて、工学部長 岡井紀彦(おかい としひこ)教授にお話を うかがいました。

2012年、開設50周年を迎える工学部

戦後、日本は自動車、エレクトロニクス、造船、鉄鋼などの製造業を中心に驚異的なスピードで復興・発展してきました。その日本の経済・産業を支え、関連産業へ人材を輩出している工学部は“社会の鏡”ともいえます。玉川大学工学部は1962年にその歴史をスタートさせ、半世紀にわたり創立者の思いでもある『神なき知育は、知恵ある悪魔をつくることなり』の精神を掲げ「全人教育の下、人間力を備えたものつくりの実践的技術者を育成する」ことを学部の使命として、幾多の分野に多数のエンジニアを輩出してきました。

「玉川大学工学部は開設当初、機械工学科、電子工学科、経営工学科の3学科体制でスタートし、社会情勢や動向、産業における人材ニーズなどに呼応するよう学科編成を改めながら、今日の機械情報システム学科・ソフトウェアサイエンス学科・マネジメントサイエンス学科に至っております。社会に役立つエンジニアを育成することが学部の使命であり、そのスピリットは大学8号館(工学部)の玄関前左壁面に刻まれています。私が工学部で学んでいた当時、学園創立者である小原國芳先生から、『君たちは玉川で学んだ精神をもって社会に出て、活躍してもらいたい』と教えられました。工学部に流れるスピリットは、今も脈々と受け継がれています」。

人も学びも大切なのは基礎の形成

基礎・基盤をしっかりと形成することが大切だと岡井教授は語ります。「しっかりとした社会人として世に出るための“人としての基盤”が重要であるとの考えからです。本学部では、教員1名あたり約20名の学生が学ぶ少人数教育を伝統的に実践しており、研究室に所属する4年生に限れば、7~10名程度にまで密度は下がります。師弟同行できめ細かい人材教育を行うには最適な環境といえるでしょう。時代の流れで人格教育の側面が減少傾向にあるなかで、玉川大学工学部の大きな特徴といえるでしょう」。

「基盤形成を大切にしているのは、人格だけではありません。学びについても基礎・基盤が重要であると考えています。基礎的な知識・技術がその先の応用につながるのはもちろん、技術者・エンジニアとしての基盤になるからです。最先端の分野も工学・ものつくりの基礎の上にあるものですし、コンピュータ上で得た知識だけでは、実際のイメージがわいてきません。技術は体験して身に付くものだと考えていますから」。

今後の工学部がめざす道

今、世界は急激なグローバル化と技術・知識の発展・応用の中にあり、日本も企業の生産システムも変化を求められています。
「長引く経済の低迷や円高の影響で製造業が衰退し、日本のものつくりは危機的な状況に立たされています。製造業の中小企業の46%が海外を志向しているといわれています。拠点を海外に移すのは、企業の利益になるメリットはありますが、高度な技術が流出し、日本にとってはマイナスになる面もあります。大量生産や高度な技術をコストと価値のバランスを保ちながら対応させていく力が求められています。こうした分野を担うのがマネジメントといわれる分野です。生産について理解したうえでマネジメントもできる、このような人材育成をめざしたいと思っています」。と岡井教授は語ります。

「工学はシークエンス(順序・序列=定められた順番や手続きに従って各段階を逐次進めていく)で成り立っています。ベースがあって初めて応用・研究があります。今後もこの体系が変わることはありません。教育の質が問われている時代だからこそ、学生のみなさんには“自分がどれだけやったか”を実感して社会に出てもらいたいと思っています。しかも、伸び代という可能性を秘めて。
また、工学というと女子からは縁遠いように感じるかもしれませんが、ソフトウェアサイエンス学科やマネジメントサイエンス学科では女子学生が増えていますし、マネジメントサイエンス学科の数学教員養成コースで数学の教員をめざし頑張っている女子学生もいます。さらに、ものつくりの新素材開発分野など、活躍できるフィールドはたくさんあります。ぜひとも、面白さの発見をきっかけに、工学に目を向け足を踏み入れてほしいと思います」。

工学部の3つの学科には専門領域を追究する研究室がそれぞれユニークな活動・研究を行っています。今回は、その一部を紹介します。

工学の王道・先端を行く 機械情報システム学科

66色のカラートライアングル
赤・緑・青を頂点にした正三角形。
色の分布を見ることができる。

あいまいな色彩をファジィ理論で調べる

私たちのまわりには多くのあいまいな情報(表情、会話、言葉、音声、感覚、印象、色彩など)があふれています。人は無意識のうちにこれらの情報を上手に操り、処理することで不自由なく日々生活(行動)をしています。じつは、これはコンピュータとは違う人の冗長な情報処理のおかげ。では、コンピュータがこのような情報を扱うにはどうすればいいのでしょうか? この問題を解決するために人とコンピュータの関係について多くの研究がなされていますが、“人のあいまいさ”を調べることはあまりなされていません。

人があいまいにしているものの中に“色彩”があります。日本人は青と緑を同じように扱ったりすることがよくあります。このようにあいまいに見える色も、本当は正確に規定されています。色が与える影響を調べることはたいへん重要であり、色彩の不思議な力はいろいろな分野で利用されています。色のあいまいな見え方を“境界があいまいである”と考えることは、ファジィ理論の得意とするところであり、ファジィ理論でしか処理できないこともたくさんあります。感性メディア研究室では、色彩に関するあいまいさの可視化、あいまいさの情報処理、さらにはファジィ理論の応用など広範囲にわたる研究がなされています。

これからの産業を支える ソフトウェアサイエンス学科

人に感動を与えるゲームの画像処理技術を考える

学生たちに話を聞くと、画像やCGに興味を持ったきっかけはゲームや映画だそうです。こうしたゲームや映画での感動的ともいえる表現は、ストーリーメイクとともに膨大な知力と時間を費やした画像処理研究の上に成り立っています。たとえば、ゲームのキャラクターをよりリアルに動かすためには、人間などの動きをビデオカメラで記録し、3次元の動きを解析してそれを利用する“モーションキャプチャ”と呼ばれる画像処理技術が応用されています。また、キャラクター以外にも炎や爆発、煙、水の流れなど、さまざまなオブジェクト・効果の映像をより感動的に見せるために、各種の物理現象を科学的に解析し、忠実に再現するためのCG技術が使われています。さらに、最近話題の3D映画や3Dゲームなどは、数十年以上も積み上げられたステレオ画像研究の成果が実を結んだものです。

ゲームキャラクタの
3Dオブジェクトをモデリング

ソフトウェアサイエンス学科では、講義を通して画像処理やCGの技術を修得し、それをゲームやアニメーションに応用していきます。私たちの生み出しているソフトウェア─ゲームだけでなく「何か新しいもののクリエイト」─は突然発生的に生まれるものではなく、知識を積み上げ、応用し、熟成させてさらに新しい知識・知見を付加することの繰り返しから生み出される「プロセスの学習」でもあります。そして、多くの技術と知識の積み上げを「何か新しいもの」つくりに効果的に活かしていく、それが私たちのすべきことです。

科学と工学の視点で社会を動かす マネジメントサイエンス学科

人の将来のためにファイナンスを科学する

「情報分析」授業風景

金融機関等において顧客の資産に関する情報を収集および分析し、顧客のニーズに合った貯蓄・投資等のプランを立案するのがファイナンシャル・プランナー。その実施を援助して相談者の将来の夢・目標を達成するための生活設計の提案まで行います。将来、銀行や生命保険、証券といった金融関係の仕事に就きたい人には欠かせない資格です。自分の夢や目標を叶えたいと思ったときに大切なのが、実現までの計画・設計です。この人生の設計をライフプランといい、設計がちぐはぐだと叶えたい夢や達成したい目標の実現が困難になってしまいます。

また、夢・目標の実現のために計画的に資金を用意しておくことも重要です。総合的な資金計画を立て、経済的な側面から実現に導くためには、金融、税制、不動産、住宅ローン、生命保険、年金制度などの幅広い知識が必要となります。これらの知識は、金融関係に就職しなくても大学卒業後の自分の人生設計に必ずや役に立ちます。プランからプロセスを経て目的に導くことを科学的に解析する工学部の中にあって、マネジメントサイエンス学科は人生のマネジメントを科学しています。

「個をつなぐ力」をもつ数学教員を育成する

難題解決がますます求められる昨今、個々の限りある力だけでなく、人々が協力して知識を得て解決の糸口を見出したり、さらに困難な状況に立ち向かえる環境を整えたりすることが求められると同時に、そんなムーブメントを起こせる教員が必要とされています。

玉川大学では創設以来、教員養成を大切な社会的使命と考え、数多くの教員を輩出してきました。そこには、いつの時代の国難であっても、教育をもって日本を奮い立たせ、教育をもって日本を復興したいという思いが反映されており、数学の教員を輩出する工学部においても、その精神を大切にしています。数学の教員がただ単にわかりやすく数学を教えるだけでなく、他の分野の人々をつなぐ力をも備えたとき、多くの難題の解決にさらに近づくのではないでしょうか? 数学の能力という「個の力」は当然必要ですが、そのうえで他の科学を専門とする人たちをつなぎ、壁を乗り越えていく……。科学の基礎言語を担う数学教員だからこそできることがあるのです。マネジメントサイエンス学科では、数学の授業だけでなく、経営に関するものやチームワークを実体験する授業も用意しています。これらの授業と教員養成を大切にしてきた玉川大学の風土のもと、自分自身をあなたなりの「個をつなぐ力」をもつ数学教員に育ててみませんか?

神なき知育は知恵ある悪魔をつくることなり
石碑に刻まれている文字は創立者 小原國芳の筆によるもので、1963年の工学部校舎完成から2年後、校舎入り口壁面にはめ込まれました。書かれている言葉は、理系を専攻する者が陥りやすい唯物的な考え方への警鐘として残されています。