科学するTAMAGAWA さまざまな体験を通して健全な心を育む「tap」

2011.11.25

人が大自然の中で鍛えられ、成長する過程をヒントに、
さまざまな体験学習を行う玉川アドベンチャープログラム「tap」。
健全な心を育て、人と人とのつながりを取り戻すための
確かな方法として、大きな期待が寄せられています。

社会性や自己肯定感を生む健全な心を育むために

人と人とのコミュニケーションの希薄化が叫ばれる現在、他者との信頼関係を構築したり、社会の中で役割を見つけ自らを肯定したりするための、“健全な心”の育成が非常に重要になってきています。「このような健全な心を育てるために、玉川学園が全学をあげて取り組んでいるのが『玉川アドベンチャープログラム(tap)』です。グループでさまざまな体験プログラムにチャレンジすることによって、子どもたちの社会性や心の発達・成長を促進するのがその目的です」と語るのは、玉川大学学術研究所・心の教育実践センター主任代理の難波克己准教授。アメリカで体験学習や野外教育について学び、日本のアドベンチャー教育の研究・実践にいち早く取り組んできた第一人者で、最近では全国各地の行政機関・教育機関でセミナーを開催するなど、アドベンチャー教育の普及にも取り組んでいます。

米国で高い評価を受ける「プロジェクトアドベンチャー」

tapの基盤になっているのは、アメリカの教育界で高い評価を得ている「プロジェクトアドベンチャー(PA)」という教育手法だと難波准教授は話します。「山や海などの厳しい大自然の中でさまざまな活動に取り組むこと(アドベンチャー)には、自分と向き合うこと、難関にチャレンジすること、仲間と協力すること、達成感を味わうことなど、人間の成長に欠かすことのできない多くの体験が含まれています。こうしたアドベンチャーが持つ価値を教育に取り入れたものがPAで、アメリカでは1970年頃から実施されはじめ、高い効果を上げることが実証されています」。

「その適用範囲は学校教育のみならず、青少年非行や未成年犯罪者を対象とした社会更正プログラムとして採用されたり、宇宙飛行士や登山家のための訓練プログラムに組み込まれるケースもあり、幅広い分野で実践されています。日本では1995年に『プロジェクトアドベンチャージャパン』が設立され、PAの導入が始まりました。玉川学園ではその動きにいち早く反応し、1997年に小学部5年生の夏期林間学校で野外プログラムを実施。その後、2000年には日本の学校で初めてのアドベンチャー教育のための施設(ロープスコース)も完成しました。また、K-12と大学の教員が専門トレーナーによるPAのトレーニングを受けるなど、ハード・ソフト両面においてアドベンチャー教育を行う環境を整備し、tapとして展開を開始しました」。

体験のプロセスを重視するtapの手法

では、tapとは具体的にどのように取り組むのでしょうか。難波准教授は次のように語ります。「何を学ぶのか、どのように学ぶかは参加者の年齢・目標などにより異なり、玉川学園では幼稚部から大学まで幅広い対象に合わせて、簡単なレクリエーションからロープスコースを使用したものまでさまざまなプログラムを実施しています。例えば、何人かが輪になって手を出したところに一人が倒れ込むという道具を使わずにできるものもあります。ここには、手を出している仲間への信頼や、怖さを克服して倒れ込むというチャレンジの要素が組み込まれています。あるいは、ロープスコースには電柱くらいの高さの柱に登るものがありますが、これは帆船のマストを模しており、高さへの恐怖を克服するチャレンジの要素や、柱の上で一人になって自分自身を見つめ直すという要素もあります」。

「特徴的なのは、どのようなプログラムにも体験・振り返り・一般化・再試行という学習サイクルがあり、そのプロセスの中から学ぶことを重視する点です。まずはやってみて(体験)、そこで何が起こったのか考え(振り返り)、それはどういうことなのかを理解し(一般化)、体験を踏まえて次はどうするのか改めて考える(再試行)というサイクルから、実社会で応用できる人とのつきあい方や自分自身との向き合い方を学ぶのです」。

「その際に重要となるのが、『フル・バリュー・コントラクト(FVC)』と『チャレンジ・バイ・チョイス(CBC)』という考え方です。FVCとは、グループ内でお互いを最大限に尊重しあうという約束をすること。例えば『尊重し、互いを認め合う』『正直に接する』『心と体の安全に配慮する』といったことです。大切なのは、これら一つひとつを具体的な行動で実践すること。それにより、ただの知識としてではなく実感として、他者への思いやりや共感する心を育てることができるのです。また、CBCというのはチャレンジのレベルや方法を自分の意志で選ぶということ。一人ひとりがグループの中でどう貢献できるのか、その目標に向かって何をすべきなのかを考えるのです。このように自分自身と向き合い、グループの中で自分の役割を意識することで、社会に出たあとも自分の役割を見つけられるようになるはずです」。

楽しみながら主体性を引き出す指導者の役割

こうしたtapの実践に欠かせないのが、ファシリテーターと呼ばれる指導者の存在です。この日、玉川学園では高校生の家庭科の授業として、2名のファシリテーターの指導の下でtapを実践しました。その際ファシリテーターは、ゲームのルールは決めますがそのやり方を指示したりはしません。生徒が楽しみながら自主性を発揮できるように促すのが、ファシリテーターの指導方法なのです。また、今その場で起こっていることに常に注意を払うことも大切です。この日指導していたファシリテーターの一人は「このグループは2回目のtapですが、まだ男女に分かれてしまい、その中でも中心的な子がリーダーシップをとることが多く見られます。それでも初回よりはだいぶ打ち解けることができるようになってきています」と話してくれました。

難波准教授はファシリテーターの役割を次のように話します。「否定的な雰囲気や言動、態度などに対して、人は心理的に防衛反応を起こします。逆に安心感や楽しさを感じることで心の扉が開きやすくなり、コミュニケーションの活性化が起こると考えられます。ですから、自主性を引き出すコンテンツづくりや、安心感を感じる肯定的な雰囲気づくり、そして参加者に合わせて楽しめる状況や環境を柔軟につくれることがファシリテーターには望まれます。玉川学園には現在専門の教育を受けた5名のファシリテーターが指導に当たっているほか、前述の通り多くの教員がPAの専門教育を受けていますし、教育学部の学生に指導方法を教授したりもしています。今後は認定資格を発行するなど、ファシリテーターとして活動できる人材の育成にも取り組みたいと考えています」。

多くの部分で重なる全人教育とアドベンチャー教育

日本のアドベンチャー教育は始まったばかりで、その普及はまだまだこれからだと難波准教授は指摘します。「近年、ようやく企業の新人研修や一部の教育機関などで、アドベンチャー教育の導入が始まってきています。その意味で、玉川学園は日本のアドベンチャー教育の先駆的な存在。その背景には、玉川学園に『全人教育』という理念があったからだと考えています。アドベンチャー教育がめざす健全な心の育成と全人教育がめざすものは重なる部分が多く、例えば玉川の教育信条の一つである「労作」は、体験から学ぶということですが、それはそのままアドベンチャー教育の考え方と重なります。こうした先駆者としての責任とプライドを持って、tapのさらなる充実と普及に向けて、取り組んでいきたいと考えています」。

このような玉川大学における「心の教育実践」の研究と実践を深めるべく、2012年2月18日(土)tapワークショップ、19日(日)心の教育実践を考えるシンポジウム「心と身体を育てるアドベンチャー教育の試み」を開催致します。ぜひ足をお運びください。