科学するTAMAGAWA デザインを学ぶ2学科の共通点を探る

2012.01.25

玉川大学芸術学部でデザインについての学びを提供している
メディア・アーツ学科とビジュアル・アーツ学科。
そこに共通するのは、社会で活躍するための力を培う方法と、
科学的な視点でデザインをとらえる教育のあり方でした。

大学でデザインを学ぶ意味

玉川大学芸術学部には、デザインについて学べる2つの学科があります。それが、メディア・アーツ学科(以下、MA学科)とビジュアル・アーツ学科(以下、VA学科)です。この両学科の学びには、一体どのような違いとどのような共通点があるのでしょうか。今回は、MA学科主任・中村慎一教授と、VA学科主任・林三雄教授にそれぞれお話を伺い、各学科の特徴とそこに共通する考え方について掘り下げていきます。

デザインとは何かを学ぶ -MA学科-

MA学科では、コンピュータグラフィックス、映像、コンピュータ音楽、光アート、WEBデザインといった、メディアを用いたアートについて学びます。もちろんデザインも、MA学科で学ぶ大きな要素のひとつです。中村教授は「授業でまず大切にしているのは、デザインとは何か、デザイナーとは何をする人なのかを学生に考えてもらうことです」と話します。「そのために、例えば実際のデザイナーの著作を読んだり仕事内容を紹介したりするなど、実社会の中でデザイナーがどのように働いているのかを知ってもらいます。つまり、デザインやデザイナーのあり方、社会の中での役割などを考えてもらうわけです」。

しかし、なぜそうしたことを学ぶのでしょうか。中村教授はこう答えます。「現代におけるデザイナーの仕事には、単にものをつくるだけではなく新しい経験を創造することが求められています。以前、ある自動車のCMで『モノより思い出。』というキャッチコピーがありましたが、まさにそういうことなのです。自動車というものそのものではなく、その自動車を使うことで経験できることにこそ、価値があると見なされるようになってきている。ですから、デザイナーはデザインだけできればいいというわけにはいきません。学生にそのことを知ってもらうためには、デザインとは何か、デザイナーの仕事とは何かを考えてもらうことが必要なのです。

さらに、こうした学びはデザイナーとしてだけではなく、社会人としての幅広い力を養成することにもつながると中村教授。「例えば、『クリティックセミナーB』という授業では企業のロゴをデザインしますが、デザインだけでなくその企業の新しい価値を発見し、企業の新しい発展につなげることを考えてもらいます。具体的には、学生は自分がデザインしたロゴについて『なぜそうデザインしたのか』『どこでどう使われるのか』『それがどういう価値を生むのか』といったことまでシートにまとめて発表します。つまり、企業理念や企業における企画やマーケティング、社会的な責任などに関わる部分まで考えるのです。また、文部科学省の学士課程答申にもある『学士力』と、経済産業省が提唱する『社会人基礎力』の評価基準を参考にして作成したシートを用いて、学生たちは発表を互いに評価します。デザイン分野の基本的な知識を理解しながら、自分の存在を社会と関連付けて理解することで、学生は社会で活躍するためにどんな力を身に付けなければいけないのかに気付きます。こうした取り組みにより、アートの力を実社会の多様な場面で生かせる人材を育てるのが目的なのです」。

意識化とプロセスの重視 -MA学科-

だからといって、デザインの学習をおろそかにしているわけではありません。中村教授は、デザインにとって大切なのは“意識化”であるといいます。「私たちは普段、様々なものを見たり聞いたりしていますが、それを本当に理解しているとは言えません。例えば、日本人の髪の毛は“黒い”とほとんどの人は言うでしょう。しかし、髪の毛は部分によってわずかながら色は異なります。つまり、『髪の毛が黒い』というのは一種の固定観念なのです。そして、アートやデザインというものは、そうした固定観念を吹き飛ばし新たな価値を見いだしていくものであるはず。そこで必要になるのが意識化です。意識してものを見ることで相違に気付いたり、意識して何かを聞くことで本質を理解したりすることが、優れたアートやデザインを生み出す基盤となります」。

「そこで授業では、例えば『赤』というような普段意識に上らないごくシンプルなテーマを示し、取材してくるような課題を与えます。学生は、例えば、ポスト・消防車・口紅・自動車のランプなど、生活空間の中から赤いものを探し出してくる。つまり、『赤』を意識したものの見方をするようになるわけです。こうした訓練は、例えば、レオナルド・ダ・ヴィンチが人体の解剖図や植物のスケッチを数多く描き、その本質的な理解を得たことと同様のきわめて科学的なアプローチであり、固定観念を壊し新たな価値を創造するきっかけをつくるものなのです」。

同時に、ものづくりのプロセスを学ぶことも大切だと中村教授は指摘します。「例えば、私たちがデザインをするときの手順は、まず考え、それを描いてみて、うまくいかなければまた考え、そして描き直すという繰り返しです。この〈考える=想像)〈描く=現実〉を行き来するというプロセスは創造の根本なのですが、学生は完成された作品にばかり目を向けがちで、このプロセスに気づいていないことが多くあります。そこで、教室という〈非日常〉の場所で考えることと、制作現場という〈現実〉を交互に体験できるよう、学外での活動も重視しています。例えば、VA学科と連係した『ファッション・ショー』の開催、テレビ局の『CM制作(MJTV)』や『番組制作(J:COM)』、グランドプリンスホテル高輪と連携した『クリスマス・イルミネーション』の制作、小学校や博物館と連携した展覧会などのプロジェクトを実際に行っています。今後は、こうしたものづくりのプロセスに触れ、社会の様々な立場の人と関わり多様な価値観を理解する機会を、カリキュラムの中でもっと増やしていきたいと考えています」。

人の生活を豊かにするために -VA学科-

一方、絵画・彫刻・工芸・デザインなど視覚でとらえることのできる芸術領域全てを扱うのがVA学科の学びです。VA学科の特徴は、理論と実技をバランスよく学ぶことだと林教授は話します。「そのための特徴となる仕組みのひとつが、入学した時点では専門を選ばずに、各分野の基礎をバランスよく学んだ上で、2年次から、専門分野へ進むことができるカリキュラム構成です。それぞれの考え方次第で、3年次までビジュアルデザインを学んだ後、テキスタイルを専攻し、服地のグラフィックについてのスキルを高めたり、美術評論を学んだ後にグラフィックデザインの実技も学び、デザインがわかる雑誌ライターを目指すといった学習の進め方や道も考えられます。要するに、学生の個性によって幅広い選択肢を用意し、人間の文化的基盤であるアートを理解しながら社会に貢献できる人材を育成することが、VA学科の目的と言えます」。

そのため、デザイナーや芸術家として活躍する人はもちろん、どんな仕事に就いても必要とされる基本的な力を育てることを重要視していると林教授。「私が専門としている空間デザインでは、インテリア計画や住宅の間取り設計を考えるわけですが、デザインそのもの以上に『なぜそういうものをつくるのか』『それは人間の生活をどう豊かにするのか』といったデザインする姿勢について考えてもらっています。これらは、実際に建築事務所やデザイン事務所で仕事をする上ではもちろん必要ですが、一般社会でも『人間の生活をどう豊かにするのか』を考えることは、社会で生きるためにとても大切なことでしょう。また、現在担当している『空間デザインB』の授業の一例として、木のスプーンの設計・制作を行っていますが、完成したスプーンを撮影しそれにタイトルと制作意図を付けてシートにまとめ、プレゼンテーションまで行うことにしています。ここでは、発想する・創る・伝えるという一連の流れから、考える力・創造力・伝達力という社会で求められる基本的な能力を身に付けて欲しいという狙いがあります」。

さらに、プロジェクト系の授業の充実にも力を入れていると林教授は続けます。「MA学科と連係したファッション・ショーの開催や、『アジア・ネットワーク・ビヨンド・デザイン展』という国際展覧会のプロモーション、町田市にある国際版画美術館でのワークショップの運営など、自分の専門を生かしながら他分野の人と協働する場を多く設けています。デザインやアート作品の制作というのはどうしても個人作業になりがちですが、社会に出れば必ずチームでの協働が求められます。そこで、こうしたプロジェクト系の授業で他者とのコミュニケーション能力やグループの中での問題解決能力などを養っているのです」。

科学的な視点からデザインの可能性を探る -VA学科-

また林教授は、VA学科で学ぶデザインとは、作家が単に自己表現するだけのものではないと話します。「前述のようにデザイナーの仕事とは『人間の生活をどう豊かにできるのか』ということが根底にあると考えています。視覚芸術の分野で言えば、作品が対象とする人の視神経にどのような刺激を与え、それがどのように作用し、それによってどのような豊かさを生み出せるかということ。その意味で、デザインとは非常に科学的な分析を要する仕事だと言えるでしょう」。

構成デザイン
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そのよりどころとなるのが「構成デザイン」という考え方だと林教授。「構成デザインというのは、私の大学時代の恩師である田中芳郎先生が提唱した考え方です。簡単に言うと、デザインには機器・道具・装置といった非常に実用的なものから、絵画や彫刻に近い芸術表現まで非常に多くの領域があり、どの位置にスタンスを置くかによってデザインの目的や有り様が変わるということ。つまりデザインを作家の主観ではなく、目的とそれを実現する手段として考えるという立場です。この考え方を元に、学生には自分のスタンスをはっきりと定めて作品制作に取りかかるよう指導しています」。

「また、ビジュアルデザインやプロダクトデザイン、環境デザインといった既存のデザイン領域に当てはまらないようなもの(例えば、パラパラマンガや錯視表現など)にアプローチするにも、ジャンルという枠に縛られない構成デザインの考え方は有効です。実際、卒業生の作品の中には、錯視を利用した椅子とテーブルのオブジェや、歴史の中で馬と人がどう関係してきたかを表現した立体作品、文字と図形の関係をアニメーションで表現した作品など、ひとつの分野ではとらえきれない作品が多く生み出されてきています。こうした新しい表現の可能性を学生に伝え、その後押しをしていくことも、VA学科の特徴だと考えています」。

社会との関わりと科学的な視点を重視

デザインについて学ぶことのできるMA学科とVA学科、その領域に違いはありますが、重なる考え方や姿勢も見えてきたのではないでしょうか。ひとつは、社会で活躍したり、社会に貢献したりするための根本的な力を培っていること。もうひとつは、アートやデザインを感性や資質の問題として考えるのではなく、科学的・論理的な視点でとらえ教育を提供していることです。最後に、両先生ともデザインやアートについての研鑽は大学だけで完結するものではなく、一人ひとりが生涯をかけて培っていくものであると仰っていました。大学教育はその基礎やきっかけをつくる最初の一歩なのです。

メディア・アーツ学科「THE MEDIA GARDEN(卒業プロジェクト)」

日時:2月24(金)~26(日)10:30~18:00
会場:横浜赤レンガ倉庫

ビジュアル・アーツ学科「卒業プロジェクト」

日時:2月22日(水)~27日(月)10:00~17:00(入館は16:30まで)
会場:玉川大学教育博物館