科学するTAMAGAWA 全学共通科目でロボット!?幅広い知識を修め、教養人としての素地を作るユニバーシティ・スタンダード科目に新しい学び「複合領域研究201」が加わりました

2013.11.25

2013年秋学期にスタートした「複合領域研究201」。
用いる教材はレゴ社の「教育版レゴ マインドストーム」。
STEM(Science, Technology, Engineering and Mathematics)、
すなわち科学、技術、工学、数学の知識を
体験的に学習することができるプログラミングロボット教材に触れ、
自由な発想と創意工夫で次世代のエンジニアと教育者を養成する
玉川のユニークで新しい試みといえるでしょう。

玉川大学では2012年度から教養教育と学部・学科の専門教育の連動をめざした「ユニバーシティ・スタンダード(US)科目」という学びが導入されています。US科目群は、玉川大学の教育理念である「全人教育」を理論的・体験的に学習する「玉川教育・FYE科目群」のほか、「人文科学科目群」「社会科学科目群」「自然科学科目群」「学際科目群」「言語表現科目群」など8つの学科群で構成されています。2013年秋学期からスタートした「複合領域研究201」は、人文・社会・自然科学の知識を踏まえ、既存の学問領域ではとらえられない社会の新たな課題に取り組むことをめざした「学際科目群」に置かれています。何よりもユニークなのが、LEGO Mindstorms(レゴ マインドストーム)というロボット教材を通じて、ロボットについての基本的な知識の修得とサークル指導法を学び、チームワークのあり方や問題解決能力の修得を図る点です。

玉川のロボット研究を入り口に次世代につなぐ授業

玉川学園におけるロボット研究は、レベルの高いロボット技術と経験を有する大学工学部の知的資産を小学部・中学部・高等部の教育現場に展開するTRCP(Tamagawa Robot Challenge Project)の活動として長年に渡る実績を有しています。こうした実績から、玉川学園創立85周年記念事業として2013年5月に「ロボカップジャパンオープン2013東京」が玉川のキャンパスを舞台に開催されました。開催委員会副委員長を務めた大学院工学研究科長の大森 隆司(おおもり たかし)教授に、「複合領域研究201」開講の意義や目的などを伺いました。

「玉川大学工学部には世界的な競技会で優勝するレベルの高いロボット技術と経験があり、その資産を活用した取り組みとしてTRCPを展開してきました。また、2011年からは5年生から12年生(小学5年生から高校3年生)までを対象としたロボット部が正式な課外活動としてスタートしています。競技会で好成績をあげたり、国際的なカンファレンスで入賞するなど、めざましい活躍をしています。しかし、その先の展開にむけてその成果を生かし切れていなかったという側面もありました。大学生に正課の授業として教授できる科目を展開できないだろうか、という考えが発想の出発点でした。これまで得てきたノウハウを活かした玉川だからこそできる内容……教えたいのは“ロボット製作の技術”ではありません。めざしているのは“ロボットに触れる機会を提供できる人材の育成”なのです」

巷ではロボットを教材とした塾・教室やサークルが全国規模で増加傾向にあります。「マインドストームは触って組み立てる“いじる幅と奥行き”があり発想法のトレーニングに最適な教材なのです。実際に小学生や中学生を対象にロボット工作の授業を試しましたが、理系的なリテラシーが落ちていると感じました。中学生ではパッと飛びつくのは約2割、教えているうちに半数強が興味を持って手にしていくといったところでした。やはり、ゲーム機器の影響でしょうか、物を組み立てたりひっくり返して分解したりという経験を小さいころにしている人の割合は確実に減っています。初めて触る経験をさせるなら、小学校3・4年生あたりが良くて、中学生ではもはや遅いかもしれません」と語る大森教授。工学部の現役の学生でさえ、経験があるのはほぼ半数だとか……。

ユニバーシティ・スタンダード科目として開講する意義

全学を対象としたUS科目に配置されている意義はそうしたことも関係があります。
「小学校教諭や中学校教諭をめざす人たちに受けてもらうのがベストです。ロボットの製作技術を教えるのではなく、ロボットを教材として、問題に気づきそれを解決する力をつけさせるサークルの運営ができる教員として送り出したい。また、学園としては現在小学部の課外活動として行っている段階から正課の教科として教える環境を整えたいですし、いずれは教材開発といったところにまで手が届けばと思います」
自律移動ロボットによるサッカーやレスキューなどの技術を競うロボカップでは、上位入賞を果たす中高生の半数近くは女性だそうです。“苦手”と思う心のバリアができる前に実物に触れて“面白い!”と思うことが大切で、子供はかけた時間に比例して伸びていくといいます。ただし、学校やロボットスクールなどにすべてを委ねるのではなく、親も一緒に楽しむことも必要だと大森教授はいいます。親が楽しんでしていること、懸命に取り組んでいることには、子供たちの興味も自然と向いていくのでしょう。

正解はあえて教えないという教育法

大学の「複合領域研究201」の講師を務めるのは、有川 淳(ありかわ あつし)非常勤講師です。有川非常勤講師は、じつは玉川学園の英語科に所属する教諭で、中学・高校では「自由研究」やロボット部担当者としてレゴマインドストームを指導してきました。

「今期の授業は工学部の学生と教育学部の学生がほぼ半々です。個人での作業では、技術的な面で工学部の学生に一日の長がありますが、凝りすぎてかえって失敗を招くこともありました。一方で,“1つのモーターでマシンを直進させる”といった課題では、創意工夫の面での学部の違いはありませんでした。マシンを動かすうえでは、設計・製作技術とプログラミングの知識が必要です。でも、マシンの出来には観察力やプレゼン能力も関わってくるのです。教育学部の学生は卒業後は教育の現場に、工学部の学生は機械やITの現場にそれぞれ出るでしょう。そこで求められることは何か?それは、限られた条件・状況の中で何をどうするか、また問題を見つける視点と見つけ出した問題をどう解決するかといった対応力です。私たち大人の役割は、それを自分で発見させること。待っていれば正解や解法を教えてくれる状況では、発見力は育ちません」。
どこまで誘導するかが最も難しいと有川教諭はいいます。実際、教諭の指導の様子を前出の大森教授は「答えを教えないで、周辺のヒントを出して答えを見つけさせる」と評しています。

わずか数回の授業で学生の成長に手応え

レゴ マインドストームを用いた授業の狙いを有川教諭はこう語ってくれました。
「将来、小学生や中学生に教える人になってもらいたい。高校ではSSH(Super Science High School)の取り組みがありますが、小学校段階で科学の面白みを感じてもらうことが大事だと思うからです。自分自身がおもしろがってそれを子供たちに見せていける教員になってもらいたいですね。ですから、授業では“マインドストームに詳しい学生”になるのではなく、出された課題にどう取り組むか考えるトレーニングを積んでほしい。失敗に学び改良を施す試行錯誤を繰り返し、やれば何とかなることを経験してもらえたらいいいと思います。実際、授業の初回で『絶対ムリ!』と言っていた学生も数回の授業で自分を冷静に分析できるようになりましたから」
有川教諭がマインドストームを初めて手にしたのは14年も前、1台のセットで活動を開始しました。その有川教諭曰く、マインドストームは“失敗が予定されている教材”なのです。
大学の「複合領域研究201」の開講に先駆けて、4~6月にかけて普段の授業を受け持つ高等部で、英語だけでレゴマインドストームの授業を実施しました.『課題を理解するには英語を聞き取らなければならない、自分の作った物を説明するために英語で話さなければならない』状況を作ったところ、生徒たちは悪戦苦闘しながらも、知っている限りの語彙と構文を使って何とか表現してみようとしました。そこで得られるのが、教科書に書かれたことを答えるだけではない創意工夫と問題解決の力でした。
この秋にスタートした「複合領域研究201」の授業も折り返しを迎え、有川教諭は新たな課題を学生たちに課すと明かしてくれました。

「“小学生が楽しんでくれるような仕掛け”を課す予定です。当然、小学生を喜ばせるにはその対象を知る必要があります。何をおもしろいと思うのか、目線の位置や身体の大きさも把握しておく必要があるでしょう。そしてそれを踏まえたうえでの工夫がどれだけあるかを楽しみにしています」。実際にものを作る体験からさまざまな“社会で役立つ力”を身につけていく、こうした授業を専門の教員がレゴを通じて学生に伝えていければベストだといいます。そのためには、受講者を増やしたいと、本音も語ってくれました。じつは「複合領域研究201」は年度途中で開講が決まったため、かなり遅い時間に授業のコマが設定されているのです。差し当たっての有川教諭の願いは、多くの学生が履修しやすい時間に講座が開講できること、かもしれません。

  • レゴ及びマインドストームはレゴ社の登録商標です