科学するTAMAGAWA 環境保全の実践者・環境教育の担い手を養成する「環境エデュケーター」

2015.01.23

玉川大学には、学生たちが環境へ関心と、理解を深めるうえで中心的な役割を果たす指導者資格、「環境エデュケーター」を養成するプログラムがあります。その環境エデュケーターとは何か、その教育的な意義は何かなどを、環境エデュケータ―のプログラムをコーディネートしている工学部マネジメントサイエンス学科の根上明(ねがみあきら)准教授に聞きました。

12の教育信条に基づく玉川ならではのプログラム

エシカル(社会倫理に基づいた企業活動、消費行動)という概念がさまざまな分野に波及するにしたがい、個人から企業・団体などの組織にいたるまで、環境に対する意識が高まっています。それに伴い、「環境」という言葉が、人間や動植物にとっての生活スペースを地球規模的な視点でとらえる“地球環境”という意味で使われるケースが増えてきています。私たち一人ひとりが、個人としてどう考え、どう行動するかが問われると同時に、企業や団体としてどのような企業活動をしていくのかも問われています。そうした時代にあって、その活動をリードする人材の育成は急務とされています。

「子供たちに対する環境教育の指導者を育成する『環境エデュケーター養成プログラム』がスタートしたのは2006年のことで、地球温暖化などエコロジー関連の問題に注目が集まっていた時期とも重なります。そもそも玉川大学には『12の教育信条』という理念があり、その中の一つに『自然の尊重』という考え方があります。玉川らしい取り組みやプログラムを実施できないかということは、以前から考えられていました。大きな転機となったのが、玉川学園として2000年にISO14001(環境への悪影響やリスクを抑え、継続的に予防していく活動をする環境マネジメントシステム規格)を取得したことが挙げられます。取得して終わり、ではなく環境を学び続けることが求められるのです」

環境教育の推進を目的に始まったプログラムも導入から10年の歳月を経て、少しずつ進化・進展しています。
「導入当初は集中講義形式による『環境エデュケーター養成講座』『環境エデュケータートレーニング講座』を受講することでプログラムを修了して、環境エデュケーターの資格を授与していました。しかし、実践者を養成するには、知識を実践し体験から学ぶ場が必要でした。そこで、2講座を受講前もしくは受講と並行して学生環境保全委員会に所属することで、主体的な活動に取り組むこともプログラムの中に組み込まれることになったのです。現在、『環境教育ワークショップI』で環境教育プログラムの設計やプレゼンテーションの基礎を学び、『環境教育ワークショップII』では、どのような視点で子どもたちを見て、グループ活動の活性化を図るにはどうすればいいかといった、具体的な学びへとシフトしていきます。さらに、学生環境保全委員会で子どもたちに教育プログラムを提供することで実践力を高めていきます」

人として磨きをかける体験・実践型の学び

環境エデュケーターの資格は玉川大学独自のもので、その審査・認定も実にユニークだといいます。 「学生環境保全委員会では、年間で14ものプロジェクトを実施しています。そこにまずは協力者として参加し、実践者としての力を養いながらメインファシリテーター(1つの活動のリーダー的役割)をめざしていきます。メインファシリテーターは1つのアクティビティのリーダーとして企画・運営していきながら、総指揮者的な立場のディレクターをめざしていきます。ディレクターは、全体の管理を行うだけでなく、外部との交渉や宿泊を伴うプログラム全体をマネジメントします。こうしたプロセスを経て、環境エデュケーターとしての資質や知識、実践力を備えていくのです。学生環境保全委員会に所属する学生が、そうした能力を備えているかを最終的に判定します」

1つのプロジェクトでは、いくつものアクティビティと呼ばれる体験活動が組み込まれています。
「『ミドル6年生環境学習支援』もその一環です。玉川学園では小学6年生が7月に林間学校で尾瀬ヶ原へ行きます。それに先立ち5年生を対象に“水”をキーワードに、水の循環や水と生き物、水の汚染、地球温暖化などのテーマで夏にアクティビティを実施し、3月にさまざまなグッズを使って湿地が果たしている役割を理解していきます。そして総仕上げとして、林間学校の直前に“生き物と人間の共存”をテーマに湿地のある街づくりに取り組んでもらいます。アクティビティはここまでですが、子供たちは翌週、尾瀬ヶ原を自分たちの目で見てきます。そのときに目の当たりにしたことと前週に考えた案を照らし合わせることで、現実を理解し、自分たちの描いた理想とどう違うのかを子供たち自身が考え、気づくことでプロジェクトが完遂します。

子どもたちの指導にあたっては、“教える”ということはせず、質問を投げかけるようにしています。気づきのきっかけを与え、自分たちで考える力を養ってもらうためです」と語る根上准教授がもっとも大切にしているのが“価値の共創”。教育の提供者である学生と受領者である子供たちが、環境を入口に価値を共有し新たな価値を作り上げることは、玉川の12の教育信条にある「労作教育」に通じるものがあります。

学外のプロジェクトでは、NHKが主催する「ECOパーク」に2006年から参加し、環境教育の活動発表や来場者が環境に関するゲームなどを体験する「学びのプロムナード」に出店しています。学生環境保全委員会の活動を広くアピールするだけでなく、来場者に体験してもらうプログラムの準備や、当日の状況に合わせてプログラムを実施するなど、実践トレーニングの場にもなっています。
「ミドル6年生環境学習支援もECOパークへの参加も“コアプログラム”として活動しています。

さらに、町田市や川崎市、相模原市などの自治体とタッグを組んで行っている『夏休み子ども環境講座「わくわく地球防衛隊」』や宿泊型の自然体験教室『足柄ジュニアネイチャークラブ』などの活動もあります。この足柄ジュニアネイチャークラブは2011年から活動を開始し、年々参加する子供たちが増え、実施するアクティビティも多彩になりました。コスモス祭では、学園内の自然物を使ったネイチャークラフトや環境をテーマにしたクイズの展示、一般参加型のゲームなどを行っています」 足柄ジュニアネイチャークラブは、これまでの活動の様子をまとめ、2015年の4月に活動記録が刊行される予定です。

知識と実践力を発揮できるステージも多彩

学生環境保全委員会の活動を通じて、学生たちが得られる最大のものは“成長”だと根上准教授はいいます。
「一つ一つの取り組みは、企画立案から運営にいたるまですべて学生の手に委ねられています。目的や効果を考え立案し企画として形づくっていく過程では、みんなが意見を出していきます。自分の意見を否定されたり、他人と意見がぶつかり合うこともあるでしょう。実施後にいろいろな反省点も見つかります。そうした経験は自分と向き合う機会になり、自身の成長へとつながっているように感じます。人との軋轢(あつれき)を避け、思っていることを言わずに済ませてしまうことが多い昨今ですが、意見を言うことでより良い方向に進むわけですから、本当の意味で人を支えることなのだとわかるのではないでしょうか。実際、学生環境保全委員会の活動で人生観が変わり、3年生になってから教員をめざすこと(玉川大学の通信教育の課程を受講)にした学生もいました」

 

2014年度は、4名の学生が環境エデュケーターの資格を取得。10年に及ぶ環境エデュケーター養成プログラムの実施で、有資格者は300名を超えます。大学卒業後は、さまざまな業種・職種で環境分野に関わっています。メーカーのCSRの一環として子供たちに農作業体験の指導をしている人や、飲料店のコーヒー豆のカスを植物栽培に活用し人とのつながりを構築している人などもいるそうです。 環境というと、自然や地球とイメージしがちですが、人も環境の一部です。「人に優しい人は自然にも優しい、自然に優しい人は人に対しても優しい」という根上准教授。環境教育を通して、人として成長し続ける大切さを伝えたい、そして、それが価値の共創の連鎖につながるのが理想だそうです。根底にあるのは、“どうしたら人の役に立てるのか”を考えることなのかもしれません。