学術研究所の幼児教育グループによる研修会を実施ー保育者に求められる「遊びの質が向上する保育」を考えるー

2016.04.22

玉川大学の学術研究所では、幅広い分野について独自の研究を行っています。その中に設置されたK-16一貫教育研究センターでは全人教育の理念のもと、幼稚園から大学までの教育課程について研究を深め、改善に向けての理論的・実践的展開を図っています。その一部門である幼児教育グループ主催による研修会が3月4日に行われました。

参加いただいたのは、玉川大学が日頃お世話になっている幼稚園・保育所・認定こども園の関係者の皆さんです。この研修会は毎年行われており、2015年度は「遊びの質が向上する保育を具体的に考える」がテーマ。教育学部の大豆生田啓友教授をコーディネータに聖心女子大学の河邉貴子先生をお招きした講演を行いました。

企画した幼児教育グループ代表の教育学部の若月芳浩教授は、「玉川学園は幼稚園から大学まで、K-16という考え方で教育を行っています。つまり幼児期の教育はその後の小学校だけでなく、大学まで続く長い教育期間の土台となる重要な部分です。そこで早期教育を行うという考え方もありますが、幼い時期は与える教育以上に子供たち一人ひとりが自ら獲得していく力を大事にしていきたいと思っています。それには、子供の“遊び”がとても重要です。文部科学省では平成30年度に学習指導要領を改定し、幼稚園でもアクティブ・ラーニング的な指導に重点が置かれるといわれています。本来、幼稚園は、アクティブ・ラーニングのような保育を日々の遊びを通して行う場なのです。今回は“遊びの重要性”を保育者自身が再認識することで、社会にもっと発信していけることを期待したいと思います」と研修会の目的を説明します。平日にもかかわらず150名以上の方が来場し、会場となった幼稚部のホールは満席になり、現場での関心の高さがうかがえました。

河邉貴子先生は幼稚園教諭として現場を経験した後に東京都教育委員会に勤務するなど、長年幼児教育に携わってきました。また、幼児期の遊びに関する著述が多いことでも知られています。今回の研修会は、遊びの質が向上する保育を「具体的に」考えると銘打っている通り、ご自身が子供の頃に行っていた遊びや、幼児教育の現場で園児と接してきた経験などが数多くとり上げられました。高度成長期には多くの家庭が兄弟の多い中、外で近所の子供たちとの遊びを通してさまざまなことを学んでいることや「だるまさん転んだ」を例に、年齢が上がるにつれて遊びに多くの要素が盛り込まれていくことを解説。“遊びの質的な変化”を保育者が読み取っていくことも大切だと河邉先生は続けます。「たとえば砂場に3歳児向けの遊具が置いてあったとします。3歳児は喜んでも、5歳児は面白くはないですよね。でも仕方ないから、それで遊ぶのかもしれない。もしそうだとするならば、子供の学びにストップをかけているのは先生たちかもしれませんよね」と参加者になげかけました。

幼児期の教育は小学校での学びを先取りする就学準備型と、環境から多くのことを学ぶソーシャルペダゴジー型に大きく分けられ、日本はソーシャルペダゴジー型を謳いつつも就学準備型に傾いているといいます。「遊びを大切にしようと訴える私は時代遅れのようにいわれたこともあります。ただ、文部科学省が幼児期のアクティブ・ラーニングを掲げたことで、周回遅れのトップランナーになったような感覚です」と河邉先生。そこで養う力こそ、今21世紀型能力と呼ばれ、これからの教育で重要視されるものなのです。子供たちが遊びの中で学んでいくことの大切さ、幼児教育者が遊びの経験を読み取って適切な環境を投入していくことの大切さを、河邉先生は語ってくれました。「遊びから学んだことは小学校に進学しても、社会に出ても役に立つだけでなく、人生のさまざまな局面を楽しめる心を育てていきます。そんな遊び心を、乳幼児期に細胞の隅々にまで浸透させていくことが、人間として大事だと思うんです」。さまざまなエピソードを交えながらの2時間近い講演は、こうして幕を閉じました。

講演後、今回参加した方々に感想をうかがいました。「保育士になって4年目で、これまでずっと3歳児を担当してきましたが、新年度からは初めて4歳児を担当します。今回、年齢によって遊具を変えることの重要性というお話があって、自分自身もきちんと考えなければいけないと感じました(保育士・女性)」、「現在10年目なのですが、保護者の方向けにクラス便りも作成しています。その際に、写真などで楽しい様子は伝わるのですが、今後はその遊びの意図にも触れていこうと思いました(幼稚園教諭・男性)」。若月先生によると、「今回の研修会に参加された先生方の中には、園全体で聞きに来られた園もありました。1人が参加して内容を後日シェアするのでは、なかなか園としての方向性は定まらない。特に3月という時期に開催したことで、次年度の教育方針を皆で考えるいい機会にもなったのではないでしょうか」と振り返りました。参加された先生方にとって、新年度に向けて実りのある時間になったことを願っています。