4日間で1600人以上の来場者!大盛況の文化庁委託事業『Theatre Arts Creation in SePT 2016』をふりかえって――

2016.06.08

文化庁と玉川大学が主催した『Theatre Arts Creation in SePT 2016』は、2016年2月18日から4日間の公演期間中、連日満員で大盛況のうちに幕を閉じました。公演を振り返って、総合演出の芸術学部パフォーミング・アーツ学科の太宰久夫教授と、学生代表の石川治実さんと岩﨑巧馬さん(2016年3月芸術学部卒業)に話を聞きました。

新天地、世田谷パブリックシアターのメインシアターが連日大入り満員に

玉川大学芸術学部が2002年に始めた青山円形劇場との提携事業『Performing Arts Fair(通称:PAF)』を引き継ぎ、2月18日(木)から4日間2つのプログラムで繰り広げられた舞台『Theatre Arts Creation in SePT 2016(通称:TAC2016)』。新しい提携先である「世田谷パブリックシアター」のメインシアターで開催した公演には、1600人以上のお客様がご来場くださいました。

太宰教授は、「舞台は、お客様が観に来てくださって初めて成立する世界です。舞台づくりに関わった学生やプロの出演者の関係者だけでなく、クラシック、オペラ、舞踊、演劇の専門家から各種舞台芸術の方々まで、様々なジャンルの方が大勢観劇にいらしてくださったことは、この公演への興味や関心の高さの表れだと思います」と話し、世田谷パブリックシアターという国内有数のハイスペックの劇場と大学が提携する公演であること、そして文化庁委託事業「平成27年度次代の文化を創造する新進芸術家育成事業」という国による芸術教育への支援に対する試みに、多くの注目が集まっていたことを振り返りました。

4日間の期間中2プログラムで開催した舞台は、『PAF』と同様にドラマ、映像パフォーマンス、コンテンポラリー・ジャズダンス、バレエなどあらゆる舞台芸術のジャンルの作品を上演しました。各作品について、太宰教授の講評も交えてご紹介します。

  • 公開コンペティション(18・19日のみ上演)

    明日の名作vol.5

    ダンス作品「シジジー」

    明日の名作とは、公募企画をプレゼンテーションから公開審査のプロセスを経て舞台化されていくチャレンジの場です。公開審査で観客数の80%以上の評価を得ることができれば、舞台化作品として来年度以降に上演が可能となります。
    「今回は80%以上の評価が得られなかったものの、着眼点とコンセプトは公開審査するにふさわしい作品で、将来性が感じられました」(太宰教授)

  • 明日の名作vol.3

    ドラマ「世界をグイッと変えてみる」

    2014年の「明日の名作vol.3」で選ばれた学生企画作品です。自らの夢を諦め、現実と向き合うことを決めた青年。そして、青年の中で生きる感情たちが青年を導き、時に惑わしていく。ギリシャ神話の「パンドラの箱」に想を得たという舞台は、感情の一つひとつを役者が演じ、イキイキと語り合い罵り合う様は、観客の心に直接訴えかけてきました。また、映像を効果的に使用し、不思議な空間を創り上げていました。

  • ミュージックwithメディア

    「セカンドバトル」

    天野正道作曲『サクソフォーン五重奏 セカンドバトル』の5本のサクソフォンによる生演奏を、『TAC2016』で上演するプログラムの紹介映像にのせて披露しました。「ジャズのテイストをふんだんに盛り込んだ楽曲と、上演プログラムのイメージを奮起させる映像とのコラボレーションがすばらしく、また卒業生を含めた5人の演奏がエネルギッシュで、オープニングを飾るにふさわしいプログラムでした」(太宰教授)

  • バレエ

    「波動」

    アストル・ピアソラのタンゴ音楽を通してクラシックバレエとモダンダンスの融合をはかったプログラムです。「演出・振付・構成の堀内充氏は、玉川学園出身で、芸術学部の非常勤講師も務め、国内外で活躍されています。彼の美意識、品格が表れている作品で、しかも指導は厳しくも行き届いていました。本番の完成度はかなり高かったと思います。出演した学生はこのプログラムを通してかなり鍛えられたことでしょう」(太宰教授)

  • コンテンポラリー・ジャズダンス

    「足音の行方」

    『リベルタンゴ』などの楽曲の生演奏をバックにダンスを披露するプログラム。「登場したダンサーのうち半数は未経験者でしたが、神崎由布子氏という気鋭の演出家であり振付師のマジックにより、クオリティの高い仕上がりになり、とても好評でした」(太宰教授)

玉川大学芸術学部の舞台芸術を創る力が可能にした、シアターオペラ上演

シアターオペラ

F.ブゾーニ生誕150周年記念「アルレッキーノ」

『TAC2016』のメインプログラムに、生誕150周年を迎えた作曲家F.ブゾーニのオペラ作品「アルレッキーノ」を上演しました。主人公のアルレッキーノの浮気話を中心に、彼を取り巻く人間模様と騒動がハチャメチャに展開される恋愛喜劇です。演劇性にフォーカスした玉川大学芸術学部ならではのシアターオペラです。
音楽監督・指揮・日本語台本・挿入合唱作詞はピアニストであり指揮者である玉川大学芸術学部准教授の松川儒氏、演出・脚色は太宰教授、挿入合唱作曲は尾形敏幸氏、振付は神崎由布子氏が務め、特別出演に日本を代表するテノールとして世界中の歌劇場で活躍する中島康晴氏を迎えています。Aキャスト(18日・20日)、Bキャスト(19日・21日)の出演者と主な出演者をご紹介します。

Aキャスト
アルレッキーノ:小森創介
マッテオ:馬場眞二
コスピクス:白岩洵(新進芸術家)
ボンパスト博士:大塚博章
レアンドロ:中島康晴
コロンビーナ:吉田貞美(新進芸術家)
アヌンツィアータ:新井あゆ美(新進芸術家)

Bキャスト
アルレッキーノ:西山康平(新進芸術家)
マッテオ:和田茂士
コスピクス:田中眞(新進芸術家)
ボンパスト博士:金子宏
レアンドロ:富澤祥行(新進芸術家)
コロンビーナ:櫻井日菜子(新進芸術家)
アヌンツィアータ:近藤美亜(新進芸術家)

全日
アルレッキーノ(カゲ歌):直野良平(新進芸術家)
コーラスリーダー:横内尚子(新進芸術家)、おかざきめぐみ(新進芸術家)、河村有美(新進芸術家)

「オペラ作品をメインのプログラムにとり上げましたが、絢爛豪華なグランドオペラではなく、表現力が求められる演劇にフォーカスを当てたシアターオペラにしました。歌だけでなく総合的に舞台を創ることができる玉川大学芸術学部には最適のスタイルと考えたからです。また、舞台上に室内楽団を配し、群衆役の合唱団を学生が務め、このようなスタイルでシアターオペラを上演できるのも、玉川大学芸術学部だからこそ。力量を存分に発揮できたシアターオペラだったと思っています。学生たちは、国内外で活躍する現役のプロや新進芸術家を前にして、目がキラキラと輝き稽古に熱が入りました。

AキャストとBキャストでは、キャスティングされたプロの歌手や俳優の個性によって、同じ作品かと思うほどの違いが見られる舞台になりましたが、それがシアターオペラのおもしろいところです。そのような違いの妙味も含め、学生は4日間の公演で大いに成長する機会を得られたと感じています」(太宰教授)

学生代表として、石川治実さんと岩﨑巧馬さんの感想も紹介します。

石川治実さん

「シアターオペラで演出の太宰先生の助手として、ソリストやコーラスの学生、オーケストラも合わせて70名以上のメンバーに、日々の稽古情報を流したり、メンバー間のコミュニケーションのつなぎ役として奔走しました。存在感あふれるプロの方、意識の高い新進芸術家の方々は、毎回稽古場に新しいアイデアを持ち込んでくださり、大変刺激を受けました。演劇の創作方法を学んで4年目にして、まったく新しいプロジェクトであるシアターオペラに関わり、演奏者やソリストの方に対する接し方や配慮の仕方なども新しく学ぶことができて、視野が広がりました。後輩たちもこの舞台を通してたくさん学んだと思いますので、後に続いていってほしいと願っています」

岩﨑巧馬さん

「『明日の名作』の企画運営とシアターオペラに出演しました。出演者の方々へのアテンドや台本作り、さまざまなマネジメントと、幅広く活動できたことは大変ではありましたが、これまでのすべてが詰まった、4年間の集大成だったと思います。この学びを活かして、今後は円滑なマネジメント、広報宣伝、プランニングなどをきちんと先取りで考えられるようになりたいと考えています。後輩に向けては、ていねいな教育を教わることだけでなく、パワフルなプロ歌手や劇場スタッフの背中を見て、一緒にやりながら、とことん吸収して成長して、気づいたら自分も皆さんと同じようにできるようになっていってほしいですね」

ご出演いただいた方々からも好評の声があがっています。

和田茂士氏(マティオ役、オペラ歌手・国立音楽大学附属高等学校教員)
「学生スタッフが礼儀正しく、技術力とフットワークがすばらしい。学生キャストの創作力が優れている」

中島康晴氏(レアンドロ役、オペラ歌手、ミラノスカラ座)
「学生が前向きで表現力豊か。稽古場が明るく楽しい」

金子宏氏(ボンパスト博士役、オペラ歌手、二期会会員)
「学生キャスト、スタッフともにとても鍛えられていて、現場力がある」

すばらしい劇場スタッフとの交流が、学生に多くの学びをもたらした!


さて、連日大入り満員、大盛況の『TAC2016』の舞台裏では、どのような指導や学びがあったのでしょうか。まず、提携先の世田谷パブリックシアターについて、太宰教授は次のように話しています。
「舞台というのは、実は大変危険な場所です。奈落への転落など、プロの俳優の方々でも事故に遭うことがあります。本来、素人である学生が舞台を支えるスタッフとして製作に関わることは危険が伴うため、ほぼ不可能といっても過言ではありません。しかし、世田谷パブリックシアター(以降、セタパブ)は安全管理、安全教育は日本でもっとも進んでいる劇場であり、私たち玉川大学では昨年9月から安全講習会に参加し、安全に舞台を務めるためのノウハウを学んできました。しかも、セタパブのスタッフの方々は学生を指導するスキルをもっているのです。私たちが劇場入りできるのは、準備から撤収の最終日までわずか10日間ですが、そのような短い期間に、大学1年生の新人からインターンシップでセタパブに通っていた4年生までの学生を指導しながら、プロとしての仕事を進められました。キャリア豊富な劇場スタッフの方々の仕事を見ていると、『教育者なのでは?』と見間違うほど見事な指導法をおもちで、感動しました。真剣に仕事をする大人を間近に見ると、学生も『吸収するぞ』と意欲に並々ならぬものが見えてくる。その成果は、危険を伴うハイスペックな舞台で自由自在に歩けるようになったことであり、出演者も裏方スタッフも、顔や体が引き締まり動きもシャープになって、全身的にプロに近い所作、仕草、表情になったことです。


劇場スタッフもそれを一番喜んでくれて、『私たちと一緒に舞台創りをした成果が出ましたね』と成長したことを一番称賛してくださいました。わずか10日間で10年分の学びが得られたのではないでしょうか。お客様には見えない部分ですが、最高の環境の中で、すばらしい人びととの事業提携を超えた交流により、事故もなく、大盛況の公演にすることができました。
また、舞台を創ってきた経験上、このような舞台からは見えない人間関係やシステムがよいと、舞台を見終わったお客様から『よかったね』『内容は難しかったけど楽しかった』『泣けたね』といった感想を聞くことができました。実際に『TAC2016』の終演でお客様をお見送りした時に、みなさん笑顔でお帰りになっていたので、ホッとしました。『この劇場空間にいることができてよかった』という感想が出る背景には、そのような部分がとても大きいのです。たくさんの笑顔が、玉川大学芸術学部の総合力を認めてくださった証し。セタパブとの提携事業『TAC2016』の大成功は、キャンパスでは得られない学びとその成果を表していると思います」

次回は2,3年後の開催!? 舞台を創るスタッフを育成し、熟成させる期間が必要

4日間が大盛況だったことから、次の機会を待ち望む声がたくさんあがっています。
「セタパブの関係者からは、閉幕後すぐに『次の公演はいつにしようか』と次の提携の機会を楽しみにしてくださっています。しかし、セタパブというハイスペックかつ青山円形劇場の倍以上の客席数という大空間で行う公演の開催は時間も労力も必要です。毎年開催するとなると、困難な状況もあります。舞台はバックステージが支えるものであり、そこにこそ教育的な意義もあるので、育成には時間がかかります。オリンピックのように何年間か熟成させる期間が必要な一方で、上級生が経験し積み上げたものを後輩に直接送りバトンタッチするには、2~3年おきがベストだと考えています」
また、次回作で候補にあがっているのは、オペラの『セビリアの理髪師』や『ウィリアム・テル』で知られるイタリアの作曲家「ジョアキーノ・ロッシーニ」。「玉川大学芸術学部の総合舞台を創れるスタッフの力、役者の表現力をシアターオペラで展開するなら、ロッシーニの作品でいきたいと構想中です」と太宰教授は話します。
さて、どのような形になるのか、学生たちの成長も含め期待が高まります。2、3年後に開催される『TAC』に、ぜひご期待ください。

Aキャスト
Bキャスト

シアターオペラ アレッキーノ Arlecchino