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子供の可能性を伸ばすニュージーランドの乳幼児教育。その基礎を作ったウェンディ・リー氏の講演会が行われました。

2016.08.18

7月19日(火)、学術研究所K-16一貫教育部門の幼児教育グループ主催の教育講演会が行われました。お招きしたのはニュージーランドの幼児教育者、ウェンディ・リー氏。「学びの物語の真髄を探るー遊びを可視化するための手立てー」と題した講演会には、玉川大学の学生だけでなく学外の幼児教育関係者も多く参加し、満席となった会場は熱気に包まれていました。

講演会は小原芳明学園長の挨拶で始まりました。「ニュージーランドでは約20年前に幼児教育の統一カリキュラムを作り上げたと聞いております。現在日本でも幼児教育を含めた学校教育の質の向上についての議論がなされており、リー先生のお話は大変意義深いものになるのではと、楽しみにしています」と結びました。

そしてウェンディ・リー氏の講演です。冒頭、リー先生は自分自身のルーツや生い立ち、そしてご子息のことをスクリーンに映しだしながら写真とともに紹介してくれました。その中で、大学生になったお子さんが、ラグビー観戦を楽しむために仲間とおそろいの衣装を自身で制作した、というエピソードが披露されました。「彼はミシンを使ったこともなく、裁縫の技術はもちあわせていませんでしたが、非常に高いモチベーションで臨んだところ、素晴らしいものを作り上げました。強いモチベーションがあれば、多くのことが身につくのです」。このように経験こそが学びの物語の実践、“ラーニングストーリー”であるとリー先生は語ります。

ラーニングストーリーとは、リー先生とニュージーランドの保育研究者であるマーガレット・カー氏が中心となって開発した乳幼児を理解するための方法の一つです。子供たちをよく観察し、そこから一人ひとりの可能性を見つけていきます。「私たちはつい、子供たちの“できない部分”に着目し、その部分を修正することに注力しがちです。けれどもこれは、ニュージーランドにおける乳幼児期の教育指針である“テ・ファリキ”に沿うものではありません」とリー先生。ニュージーランドの幼保統一カリキュラム“テ・ファリキ”は、一斉に同じことをするのではなく、乳幼児の自主性を尊重し、できることや興味のあることを伸ばしていくことをめざしています。ラーニングストーリーも、このテ・ファリキに基づいて作られたものです。

日本の保育園や幼稚園には、乳幼児教育者から保護者に向けたノート「れんらく帳」がありますが、ラーニングストーリーはさらにそこから一歩踏み込んだものになります。そこには子供たちがどんなことに興味をもち、どんなことに取り組んだのかといったことを、文章や写真で記入します。「ラーニングストーリーは担任の教員以外も記入することが可能です。これによりいくつもの視点で、より客観的に子供たちを観察します。また保護者も家庭での子供の様子を書き込み、情報をシェアしています」とリー先生。さらに興味深いのは、子供自身もこのラーニングストーリーを見ることができるのです。写真やイラストが入っているので乳幼児にも分かりやすく、興味を深めることにつながります。「多くの子供は、ラーニングストーリーをベッドサイドストーリーとして保護者と話しているんです」。

ラーニングストーリーでは「Noticing:発見、Recognising:確認、Responding:反応、Documenting:記録、Revisiting:再確認」という過程をたどることで、より良いものへと仕上げていきます。「いろいろな意見を読むことができる。学びを可視化できる。そしてそれらを通して、子供たちも学び方自体を身につけることができる。これが、ラーニングストーリーのメリットであると考えます」とリー先生は語ります。「今、皆さんが教えている子供たちは、私たちが生きてきた世界とはまったく異なる世界で生きることになるでしょう。そこでは身につけた知識や技術だけでなく、学び方を習得していることがとても重要になります。それは不安を乗り越えて冒険するチカラ、興味を持ったことを追求していくチカラとなるのですから」。さまざまなエピソードを交えつつ、ラーニングストーリーについて語ってくださったリー先生。お話の中にはノートのメリットだけでなく、乳幼児教育の現場に求められる多くの視点がありました。「ストーリーを書いてみましょう、深く耳を傾けてみましょう、そして自分に問いかけてみましょう。今どんな学びが起きているのかを。そしてラーニングストーリーを、あなたの言葉の愛と喜びで満たしましょう」というリー先生からのメッセージに、多くの拍手が寄せられました。

講演を聞いた参加者からは、「子供の声に耳を傾けることの重要性を感じました。またお話を聞いてみて、保育者の言葉かけ一つで子供の気持ちが変わると思ったので、話し方や言葉のかけ方を工夫してみようと思いました」(幼稚園教諭・女性)、「自分たちの在り方自体が、既に子供たちに多くのことを伝えているというお話があって、それが心に響きました。ついできないことに目がいってしまいますが、この子たちにはたくさんの可能性があるんだと信じて、温かい目で見守ることが大切だと改めて感じました」(幼稚園職員・男性)といった感想が聞かれました。 「テ・ファリキ」や「ラーニングストーリー」など、乳幼児教育分野で世界の注目を集めるニュージーランド。その基礎を作ったリー先生のお話は、非常に示唆に富む内容でした。

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