文学部人間学科「法律学(国際法を含む)」で東京弁護士会から講師を招いた「模擬裁判員裁判」の授業を実施

2017.04.08

文学部人間学科の宮崎真由准教授が担当する「法律学(国際法を含む)」は、学生に法律を身近に感じてもらうため、私たちの日常生活や人生に関わりの深い法律について学ぶ内容となっています。
1月21日(土)に東京弁護士会の弁護士の先生を2名お招きして「模擬裁判員裁判」の授業を行いました。

わが国の司法制度改革の一環として、2009年5月から裁判員制度が取り入れられています。衆議院議員選挙の有権者から無作為に選ばれた裁判員がプロの裁判官とともに凶悪犯罪などの刑事裁判を行う制度で、一般市民の日常感覚や常識などを裁判に反映させ、また裁判を実体験することで国民一人ひとりが司法への理解を深めることが制度の目的とされています。つまり選挙権を得た人なら、ほぼすべての日本国民が裁判員に選ばれる可能性があるわけです。もちろん大学生も例外ではありません。

宮崎准教授は「だれもが裁判員として犯罪と向き合う可能性があります。その時のために、法律を専門的に学んでいない学生こそ、法と裁判制度について知っておくべきなのです」と話します。担当する「法律学(国際法を含む)」の授業では、「法とは何か?」から始まって、私たちの日常生活や家族関係における身近な法や裁判の仕組み、さらにグローバルな時代に知っておきたい国際法についてまでを学びます。

この日の授業は、東京弁護士会のご協力による「模擬裁判員裁判」。裁判員裁判の法廷劇DVDを上映後、被告が「有罪か?無罪か?」などについて学生たちはグループディスカッション形式で話し合いました。また、裁判制度の解説やグループディスカッションのファシリテーターとして、東京弁護士会の小佐々 奨弁護士と佐竹 真紀弁護士の二人が授業に参加してくださいました。

上映されたのは、実際に起きた殺人事件の裁判をベースにわかりやすくドラマ化した法廷劇です。裁判は、普段から素行の悪い兄を弟が自宅で殺してしまったという検察側の訴えに基づくものでした。一方、弁護側は兄の暴力から逃げるための正当防衛(無罪)を主張します。証人として被告の友人と兄弟の母親が登場し、被告の言葉や態度、事件当日の様子などを証言。裁判官と並んで座っている裁判員も被告や証人に対して積極的に疑問点を質問していました。

「コンビニでアルバイトする大学4年生」という被告の設定は学生たちに近く、実際の法廷そのままのリアルなドラマに40名以上の学生たちはすっかり釘付けに……。上映前に小佐々弁護士から、明らかな「殺意」と「未必的殺意」の違い、事実の認定において「主張」と「立証」は分けて考えなくてはならないことなど、法廷劇を見るポイントをあらかじめ教えていただいて、各場面でメモを取り、確認しながら見入る学生も少なくありませんでした。

法廷劇は判決の前で終わっています。上映直後、二人の弁護士が学生たちに「有罪か?」「無罪か?」を挙手で確かめたところ、ほぼ全員が「無罪」に挙手しました。確かに劇では、罪に問われたことを戸惑い、憔悴するように見える被告の姿から「殺人者」であるという確信が持ちにくいように思われました。
しかし、裁判での判断の根拠となるのは、そうした「印象」ではなく、上映前に二人の弁護士が何度も強調されていた「客観的で動かぬ証拠」です。
グループディスカッションは4~5人のグループに分かれて、「殺意があったか否か」「正当防衛は成立するか否か」に焦点をあてて行われました。
学生たちの議論の一部を紹介しましょう。

「殺意の有無は難しいですね。客観的な証拠と言われると迷ってしまう。でも、正当防衛というのは疑問です。 被告の命が危機にさらされていたという明らかな証拠はないのでは?」
「もし殺意があったのなら、被告はもっと徹底して証拠隠滅を図っているはず。証拠が残っていることが殺意のなさを示していると思う」
「私も証言全体からはっきりした殺意を認めることはできませんでした。でも、『このまま死ぬかもしれない(死んでもかまわない)』というような“未必的殺意”はあったのでは……と推測します」
「被告は兄(被害者)にガラスの灰皿を投げられそうになって生命の危機を感じたと言っているが、酔った兄の両足をガムテープで拘束していたのだから、十分逃げられたはず。にもかかわらず後頭部から血が出るほど被害者の頭を布団に押さえつけ、窒息させたのは明らかに殺意なのでは?」
「そう、だから私は拘束するガムテープを取ってさえいれば、正当防衛が成り立ったのではないかと思いました」

こうした学生たちの議論に弁護士の二人は、わかりやすい言葉でさまざまなアドバイスをしました。
「みなさんが『○○○な気がする』というように何となく無意識に感じていることが、実は重要だったりします。それを裏付けるための証拠をそろえていくと、次第に真実に迫ることができるかもしれません」(小佐々弁護士)
「どの証拠に重きを置くかで、事件の見え方はずいぶん変わってきます。それが事実認定の難しさで、この事件はプロであっても意見が分かれます。でも実はみなさんが日常的にやっている、ネットの情報でどれが信用できて、どれが信用できないかという判断と、基本は同じなのです」(佐竹弁護士)

ディスカッション後、もう一度学生たちに「有罪か?」「無罪か?」を聞いたところ、「有罪」に挙手した学生が増えていました。そして有罪、無罪にかかわらず、学生たちは証言と証拠の検討と議論を通して、人の心と真実を見極めることの難しさを実感したようです。

「法律の勉強は、人間学科がカバーする『思想』『心理』『社会』『倫理』『教育』という5分野にも密接に関連しています。裁判員制度について考えることはもちろん、この授業を学科での学びを深めるきっかけにしてくれれば、うれしいですね」(宮崎准教授)

授業の最後には学生全員が授業の感想についてのレポートを書き、提出しました。以下に、そのうちいくつかをご紹介します。

「講義をしてくださった弁護士の方は、裁判員に選ばれたら、積極的に取り組んでほしいと話していたが、やってみたいと思う気持ちがある反面、一人の人間の人生が左右されることなので、覚悟をもって臨まなければならないと感じた。証拠を重視するよう教えられたが、無意識に心情の部分を考えてしまうこともあり、難しさを改めて感じた」(2年男子学生)

「客観的事実を一番大切にしなければならないことを学んだが、その事実に基づいて事実認定するのは大変だと思った。また、裁判員制度は、自分も担当する機会があるかもしれないので、今回の講義はとても有意義だった」(2年男子学生)

「弁護士の先生のお話に何度も“事実”という言葉が出てきました。私は感情によって判断が揺れ動いてしまいましたが、事実で判断することや自分の意見を裏付ける動かない事実を大切にするべきと感じました」(2年女子学生)