アメリカからアドベンチャー教育の第一人者をお迎えして開催した2017年度 玉川大学TAPセンター研究会「アドベンチャー教育は何を目指しているか?-対話から見出す可能性-」

2018.03.30

2018年3月10日(土)、玉川学園幼稚部ホールにて玉川大学TAPセンター研究会「アドベンチャー教育は何を目指しているか?—対話から見出す可能性—」が開催されました。

TAPとはTamagawa Adventure Programの略。同センターはアドベンチャー手法を取り入れた体験学習プログラムの展開を進めています。今回の研究会では、これからの学校教育や社会におけるアドベンチャー教育のあり方や可能性をアクティビティを通して参加者全員で考えていきます。

午前の部では高等部生徒を中心とした「玉川学園のラウンドスクエアの取り組みについて」、昼食時間をはさんで午後の部では、元ルイビル大学教授、前アメリカ環境教育学会会長デヴィッド・M・ウィックス博士(Dr. David M. Wicks)をお迎えして、「アメリカにおけるアドベンチャー教育の起源と発展について」と題した実践報告のプレゼンテーションが行われました。
当日はアドベンチャー教育に関わる学校教員、玉川学園関係者、玉川大学独自の資格である「TAPファシリテーター」取得をめざす大学生、教育関係者など50名以上の参加者が集まり、終始和やかな雰囲気の研究会になりました。

  • TAPの手法を学び、学校教育や社会教育の場において、ファシリテーションスキルを身につけ、より良い学びの環境を構築するための玉川大学独自の養成プログラム。

「玉川学園のラウンドスクエアの取り組みについて」 渡瀬恵一 玉川学園学園教学部長  12年生・10年生6名

まず渡瀬先生が、玉川学園のラウンドスクエアの取り組みについて紹介した後、今回プレゼンテーションを担当する12年生2名と10年生4名がそれぞれ自己紹介を行いました。プレゼンテーションに入る前に、当日の参加者全員の距離を縮めるアイスブレイクとして「人間知恵の輪」を実施。初対面の人たちも「その手の間をくぐって」「ここに足を入れたらどうかな?」など、会場全体がすぐに打ち解けた雰囲気になりました。

続いて生徒たちは公式紹介動画を交えて、国際的な私立学校連盟である「ラウンドスクエア」のプロフィールを紹介。現在、ラウンドスクエアには約50カ国・地域の180校が参加しており、玉川学園は日本で初めてのメンバー校です。創設者であるクルト・ハーン(Kurt Hahn)は、アドベンチャー教育の父と言われ、国際バカロレア(IB)の創設にも寄与したドイツの教育哲学者で、その教育思想は玉川学園創設者の小原國芳の全人教育と共通するものがあります。「クルト・ハーンと小原國芳はほぼ同じ時代を生きましたが、実際に会ったことはありません。もし生前2人が対面していたら、きっと意気投合したでしょう」という玉川学園と繋がりのあるドイツの教育哲学者ボルノー博士の言葉を渡瀬先生が紹介すると、会場の人々は大きく頷いていました。

次に生徒たちはラウンドスクエアの6つの教育の柱“IDEALS”、Internationalism(国際性)、 Democracy(民主主義)、 Environment(環境)、 Adventure(アドベンチャー)、Leadership(リーダーシップ)、Service(奉仕)について、一人がひとつずつそれぞれ自分の体験、自分の言葉に基づくプレゼンテーションを行いました。

そして最後に10年生4名が2017年夏に参加した南アフリカでのラウンドスクエア国際会議での経験と成果を報告。「バラザ」と呼ばれるグループディスカッション、著名な人物による講演「Keynote Speakers」、アウトドアスポーツを楽しむアドベンチャー、公立小学校での奉仕活動、参加者が自国の伝統や文化を歌やダンスなどパフォーマンスを通してアピールする「Cultural Evening」など、盛りだくさんの内容の南アフリカの日々を写真や動画を交えて紹介。スクリーンに映し出されたさまざまな国の参加者と笑顔で交流する生徒たちの姿がとても印象的でした。

生徒たちのプレゼンテーションが終わると、短い休憩をはさみ、今度は会場に集まった人々がラウンドスクエア国際会議における「バラザ」を体験するアクティビティが実施されました。ディスカッションのテーマは「2020年東京五輪に向けて何ができるのか?3つのポイントを考える」です。再び「人間知恵の輪」を行ったグループが集まり、15分間討議を重ね、代表者が3つのポイントとその理由をプレゼンテーションしました。「選手村の建物再利用」「東京以外の地方参加型五輪に」「子供五輪の実施」など、短い時間にもかかわらず各グループよりさまざまなアイデアが飛び出していました。

午前の部の終わりに渡瀬先生は生徒たちに「あなたにとってのアドベンチャーとは?」と問いかけました。6人はそれぞれ「チャレンジすること」「リスクを恐れず何ごとも積極的に」などと答える中に、「玉川のモットー(=人生の最も苦しい いやな 辛い 損な場面を 真っ先きに微笑を以って担当せよ)」という回答もあり、生徒たちは玉川学園の全人教育とラウンドスクエアを通したアドベンチャー教育のスピリットの共通性を肌で感じているようでした。

「アメリカにおけるアドベンチャー教育の起源と発展について」 Dr. David M. Wicks

デヴィッドさんは6歳でカブスカウトに参加以来、66歳の現在まで60年間アドベンチャー教育に関わってきました。
デヴィッドさんは貧困な環境で育った子供と富裕層の子供の間に見られる学力差は、学力そのものの差ではなく、貧しさ故に貧弱となる体験の差ではないかという見解から、公立学校でのアドベンチャー教育導入に長年にわたって尽力されてきました。また、現在も住まいのあるケンタッキー州ルイビル市の河川環境改善や台湾と中国などでの環境教育の指導を行うなど、身近なところからグローバル規模におよぶ環境教育の推進に貢献されています。
講演の冒頭ではそうしたデヴィッドさんのアドベンチャー教育に関わる経歴が紹介され、アメリカにおけるアドベンチャー教育の発展について歴史的および哲学的な観点からレクチャーがありました。

その柱となったのは『Paddle to the Sea(大海へのパドリング)』のアクティビティです。まず1941年に出版された『Paddle to the Sea』という本を題材とした短編映画を上映。映画はカナダの山間部に住む少年が木彫りの小さなカヌーを作って山から川に流し、それが数千キロの旅をして大西洋の海に到達するというストーリーです。

上映後、4〜5名のグループを作り、デヴィッドさんが『Paddle to the Sea』に登場したような小さな木製の船を各グループに配ってこう呼びかけました。
「日本は川の国ですね。東京周辺、そしてこの玉川学園の周辺にもたくさんの川が流れています。そこでまずグループごとに皆さんが知っている河川の地図を書いてください。そして木製の船にそれぞれ好きな絵を描いて、代表者のメールアドレスも記載し、後日近所の川に流してください。もしかしたら皆さんの船が太平洋を横断してハワイにたどり着くかもしれませんよ」

グループごとに大きな模造紙を使って河川地図を書き、絵が得意な人が船にカラフルな模様を描くなど、幅広い年齢層の参加者が和気藹々と取り組む姿をにこやかに眺めるデヴィッドさん。

この日のためにデヴィッドさんが準備してくれた手作りの船

「このアクティビティを通して、皆さんは自分が住んでいる地域の地理を学び、船の構造や水の流れについて多くのことを学べるはず。アドベンチャー教育とはいわゆる冒険から連想されるフィジカル面だけでなく、教科教育にもつながる多様な“学び”なのです」

デヴィッドさんはアドベンチャー教育の3本柱として「チャレンジ」「アウトドア」「自己発見」をあげ、「自然の中でたくましくなることと知識を広げること。その2つのDuty(本分、義務)を果たすことこそ、アドベンチャー教育の大切なポイント」と話されました。

最後にデヴィッドさんは、自身が河川に関わる活動を多く手がけているのは、生命と生物多様性の源である「水」にこだわっているからだと語り、世界中の水をきれいにすることが自分の使命であり、多くの人に自分たちの身の周りにある「水」がどのような状態にあるか知ってほしいと講演を締めくくりました。

講演後は、「TAPの取り組み紹介および実践に向けての対話」の時間が設けられ、玉川大学TAPセンターのスタッフとアドベンチャー教育に関心がある参加者の間でフランクな雰囲気の中、デヴィッドさんも交えて実り多い対話と情報交換が行われました。

TAPセンター研究会に参加して Dr. David M. Wicks

玉川学園高等部の生徒さんのプレゼンテーションは、真っ直ぐで誠実さにあふれていて、とても感銘を受けました。今後彼らが哲学的な思考を通して、より深い視点を獲得し、世界を舞台に活躍してくれることに期待しています。

私はアメリカで公立学校へのアドベンチャー教育導入に力を尽くしてきましたが、公教育を変えるのには大きな困難が伴います。アメリカでは公立学校は労働者養成の場と誤解され、アドベンチャー教育のような方法で、一人ひとりの社会を見る目や考える力を伸ばすのは玉川学園のような私学によるリーダー教育だと考えられています。

 
しかし、私はすべての人がアドベンチャー教育によって体験を増やし、考える力を身につけてほしいと思っています。社会をクリティカルに捉え、考える力を備えた人が多いほど、私たちが暮らしやすい世界を実現できると信じているからです。
 
玉川学園は、アドベンチャー教育の素晴らしい環境とシステムを創り上げました。これからも日本においてアドベンチャー教育を広げていく役割を果たしてくれることを心より期待しています。

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