玉川大学 読売新聞社立川支局 共催 連続市民講座第7回「流通・小売業のインバウンド消費と対策─2020東京五輪に向けて─」

2018.10.22

2018年4月より玉川大学では、読売新聞社立川支局と共催の連続市民講座「進む大学研究 最先端の現場から」がスタートしました。この公開講座は玉川大学8学部・研究所の先生方が講師を務め、12月まで全11回、それぞれの分野での“最先端”についてわかりやすく講義します。第7回のテーマは「流通・小売業のインバウンド消費と対策─2020東京五輪に向けて─」。流通論、消費者行動論を専門とする経営学部 神谷渉 准教授が、さまざまな統計や調査データをもとに、近年のインバウンド消費の実態と流通・小売業の将来に向けた提言を行いました。

「爆買い」ブームが終わったにもかかわらず史上最高の訪日客増でインバウンド市場は拡大

ここ数年訪日外国人観光客が急増しています。東南アジアや中国からの訪日ビザ緩和など、日本政府の「観光立国」という政策的な後押しもあり、2017年の訪日客は2869万人と史上最高を記録。旅行消費額は4.4兆円に及び、政府は東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年に8兆円までに拡大したい考えです。
つまり、2020年は大手の流通・小売業の大手企業はもちろん、外食産業、地域商業を担う事業者や個人にとっても大きなビジネスチャンスが到来することが予想されます。ところが、2015年をピークとする「爆買い」ブームの終焉に見られるようにインバウンド消費の実態は刻々と変化しており、訪日客のニーズをタイムリーにとらえた対応を行わないと、みすみす目の前のチャンスを逃してしまうことになりかねません。

訪日外国人でなんといってもボリュームが大きい層は中国からの観光客です。ところが円安からの反動、中国政府の「爆買い」規制、団体旅行から個人旅行などを背景とする買い物行動の変化などによって、近年一人あたりの買い物代は減少しています。しかし神谷准教授は「中国からの観光客の買い物熱が冷めたわけではない」と言います。実際、米国、フランス、オーストラリア、韓国、台湾、香港、タイからの観光客の一人あたりの買物代が約2~5万円程度であるにもかかわらず、中国からの観光客は11.9万円と未だに突出して高い金額になっているからです(爆買いブームの2015年は16.9万円)。また、これまでは炊飯器やカメラ、時計など高額商品を購入していたのが、近年は化粧品や医薬品、サプリメントといった比較的安価な日用品に関心が移っており、このことが一人あたりの買物代を引き下げていると見られています。

業態によって対応に濃淡が見られる小売業のインバウンド対策の現在

こうした訪日客の買い物行動の変化をとらえ、積極的なインバウンド対策を打ち出しているのが、百貨店、家電量販店、ドラッグストア、あるいは「ユニクロ」、「無印良品」など一部の専門店です。一方、コンビニやスーパーマーケットなどは取り組みが一段落していたり、インバウンド需要の直接的なメリットを享受しにくいため、なかなか有効な対策を打ち出せないのが現状です。

神谷准教授は、「果たしてそれでいいのだろうか?」と疑問を投げかけます。日本の多くの流通小売業はインバウンドに対して「おもてなし」的発想(例えば言語対応や決済対応など)から脱しておらず、アグレッシブに市場を取りにいくことができているのはごく限られた企業でしかありません。
神谷准教授は、果敢にインバウンド市場を取り込もうとするアグレッシブな企業として、「マツモトキヨシ」と「ドン・キホーテ」の取り組み事例を紹介しました。

いずれの企業にも共通しているのは、「訪日時(買い物時)」だけではなく、「訪日前(事前計画)」から帰国後まで、トータルで訪日客の行動とらえていることです。訪日前の段階ではSNSや情報誌での情報発信や割引券や地域観光マップなどの提供を行い、帰国後のフォローとしてインターネット通販サイトによる国際的な商取引である越境EC(Electronic Commerce)によるリピート購入などを働きかけています。また、一つの店舗や事業者だけでの施策ではなく、地域の他店などとの連携によって、インバウンドのニーズを取り込むためのより幅広い販促戦術が展開できます。
神谷准教授は、今後の課題として現在のインバウンド対応は、ボリュームが大きな中国人向けに偏っている傾向があり、他国インバウンドのニーズを逃している可能性があることを指摘。今後、長期滞在が多い欧米からの観光客向けの食料品や生活用品のニーズにもビジネスチャンスがあることを示唆しました。

神谷准教授は以上の講義のまとめとして、2020年に向けた流通・小売業のインバウンド対策を以下の5点にまとめました。

  • 継続的な訪日客の拡大が見込め、市場として拡大
  • 流通・小売業は、インバウンドに対して単なる「おもてなし」から、市場を取り込む攻めの姿勢が必要
  • 訪日客の行動を訪日前から訪日後までフォローしていくことが競争優位につながる
  • そのためには、多様なプレイヤーとの連携が重要
  • 今ニーズのある業態や訪日客に注目するだけではなく、今後チャンスのある市場をとらえていくことが求められる

ますます拡大する訪日観光客にどのように対応すべきか。業態や規模にかかわらず、多くの流通・小売業へヒントを示す講座内容に、多くの来場者はしきりにメモを取りながら聞き入っていました。

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