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柔道オリンピック銀メダリストを迎えた「スポーツと教育2023」を開催

2024.03.05

2024年1月21日(日)13時より、大学教育棟2014・521教室において、玉川大学教育学部健康教育研究センターの主催による「スポーツと教育2023」が開催されました。
10回目となる今回の講師は柔道100kg超級のオリンピック銀メダリストである原沢久喜氏。「ニッポン柔道の普及と育成について」と題して、自らの経験をベースにした貴重なお話を聞かせてくれました。将来のスポーツ指導者をめざす教育学部教育学科保健体育専攻などの学生のほか、卒業生、教職員など大勢が参加。佐久間裕之教育学部長の挨拶と山田信幸健康教育センター長による趣旨説明の後、大きな拍手に迎えられながら原沢氏がステージに登場しました。身長191cmと大柄な原沢氏ですが、まず会場の学生に向かって「みんな、ラクに聞いてください」と柔和な笑顔で語りかけました。

最初に話題として取り上げたのは、「柔道の父」と呼ばれる嘉納治五郎がそれまでの柔術に近代スポーツとしての要素を取り入れた「柔道」を創始したエピソードです。
「人間形成」と「心身の修養」を目的にした柔道は「礼に始まり、礼に終わる」、自己制御と相手への敬意など精神性を重視したスポーツでした。ところが現代になって柔道も勝利至上主義が過熱し、その精神性が失われていると原沢氏は指摘します。特に子どもへの過剰なトレーニングが問題視され、2023年に全日本柔道連盟は小学生年代の全国大会を廃止しました。このことは柔道に限らず勝利至上主義に陥りがちなわが国のスポーツ指導に大きな一石を投じることになりました。原沢氏も「私も廃止に賛成」と話し、柔道人口の減少と社会の貢献できる人材を育成するための全日本柔道連盟「長期育成指針」を紹介しました。

次に自身のオリンピックへの挑戦までについて話し始めました。山口県下関市で生まれ育った原沢氏は6才の時に「友だちに誘われて」近所の小さな道場に通うことになったそうです。「まさか自分がオリンピックに出場するなんて思いもしなかった。その道場は先生が勝つためではなく、基本を大切に正しい技を教えてくれたことが今から考えても良かった」と振り返る原沢氏ですが、小学校時代には山口県内でベスト3に入る選手になっていました。中学生で成績を落としたものの、進学した高校の柔道部の先生が厳しく、情けない試合をすると髪をスキンヘッドにさせられるそうで、そのイヤさに全国大会を目指して必死で練習に取り組み、高校2年で全国大会に出場できたそうです。そして高校3年で体重を増やし、インターハイで3位となるなど全国的な強豪選手となりました。「動機は怖い先生でしたが、その結果として主体的に練習に取り組めたので強くなった」。

そんな原沢選手は「高校で柔道をやめるつもり」だったはずが、全日本合宿に参加して世界的な選手になりたいという向上心が芽生え、卒業後に日本大学に進学。体育会特有の上下関係に苦労しながらも練習には懸命に取り組んだ結果、2年生で日本一となり、オリンピック日本代表として世界で戦うことが具体的な目標となりました。その過程で柔道の競技力向上のためには「練習の量と質、どちらも大切」であることがわかったそうです。

ここで原沢氏は話題を「世界における柔道」に変えます。柔道人口が減っている日本と異なり、南米のブラジルやフランス、ドイツなどヨーロッパ諸国、さらに中央アジア諸国などでは柔道人口はむしろ増加しているそうです。

原沢氏は会場のスクリーンを使ってフランスで開催された柔道の国際大会の記録映像を流しました。そこには熱狂的な歓声を選手に浴びせ、試合を心底楽しんでいるフランスの柔道ファンの姿が映し出されます。日本(約12万人)よりはるかに多い約60万人の柔道人口を抱えるフランスでは、指導者は国家によるライセンス制で、年齢と目的に応じたしっかりした育成システムが整備されています。もちろん日本と同じく礼儀や作法が重視され、親が小学生の躾として柔道の道場に通わせているケースが多いそうです。同時に動画で見たとおり、大会などではサッカーの試合のように観客が盛り上がり、柔道人気の高さをうかがわせます。映像を通して日本とフランスの社会における柔道のあり方の違いについて、あらためて考えてほしい……そう原沢氏は学生たちに問いかけているようでした。

さらに原沢氏はご自身がリオデジャネイロ・オリンピックで銀メダルを獲得した経験、病気などのために引退も考えながら挑戦した東京オリンピックでの経験について、その喜びや悔しさ、苦しさまでを率直な言葉で、時折ユーモアを交えながら会場の学生たちに語りかけます。最後には「どんなに努力しても報われないことはあります。でもあきらめずに挑戦することは大切。決してムダな努力はありません。みなさんもぜひ挑戦し続けてください」とメッセージを送りました。

講演後は会場の学生からの質疑応答の時間でした。「試合などの緊張に対処する方法」「体重を増やすためには何をすべきか?」「勝利至上主義は良くないが、『勝ちたい』『負けたくない』という気持ちは大切では?」など一つひとつの質問に本音を交えながら真摯に答える原沢氏。その姿はスポーツを愛する若い学生に少しでも自分の経験を伝えたいという強い気持ちと、柔道だけではなく日本のスポーツ文化興隆への熱い思いが感じられました。

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