山岸俊男脳科学研究所教授による学内講演会を開催しました

2012.06.22

脳科学研究所は6月21日(木)、中学年校舎講堂において「平成24年度 第1回 脳科学研究所学内講演会」を開催しました。テーマは「安心と信頼」。講師は山岸俊男脳科学研究所教授です。山岸教授は北海道大学教授を経て、今年4月から本学脳科学研究所教授に着任しています。講演会には、大学院生と幼小中高、大学・研究所の教職員の合計約110名が聴講しました。

講演で山岸教授はこれまで扱ってきた膨大な研究の中から、「世界価値観調査」という大規模調査の結果を示しました。まず「日本が世界一の座を保っているものとして、リスクを避けようとする傾向があること」を挙げ、さらに「日本人は、他者一般を信頼する傾向が、世界の中でも極めて低い」と続けました。私たちが持つ常識的な日本人のイメージを改めることから出発しました。調査によると「集団主義的な文化が強い国では、一般的信頼(他人一般を信頼する傾向)が低く、個人主義的な国民ほど、他者一般に対する信頼が高い。」とし、国と信頼に対する考え方との間に強い相関があるとのことです。

次に「日米比較社会的ジレンマ実験」結果を参照し、実際の行動からも「信頼の日米差は、口先だけの差ではない」と語り、「他人が信頼できないというのは、必ずしもまわりの人たちが信頼に値しない人だということを意味しない。日本人は、他人との関係の中でリスクをとろうとしないが、なぜか?対人関係におけるリスクが大きくなるようなかたちで社会を作ってきたからか!?」とフロアに問いを投げかけました。

今回の講演は、「信頼」と「安心」の違いを理解することに力点が置かれました。山岸教授は「信頼」を「社会的な場面におけるリスクテイキング、すなわち腹をくくること」と述べています。そして、「安心」については、「既に社会的な関係を持っている相手に対して、自分が関わっているしがらみの中では、とうてい裏切ることはできないだろうと期待すること」という趣旨の説明がありました。ここでは、東南アジア地域のゴムと米の取引方法の違いを例に挙げ、「安心を生み出す集団主義型の秩序原理として、生ゴムの取引に伴う大きな不確実性を避けるため、固定した関係を通してのみ取引を行う。これに対して、米の取引は基本的にオープン・マーケットであり、多くの相手と取引する機会費用を重視する」と解説されました。さらに、「限られた者どうしで取引相手を固定することが社会的“針千本マシン”(その人が嘘を付くと針を千本飲むことになる架空の装置)となる」というコメントも出席者の関心を引きました。

後半では、「これまでの日本社会は、日本人同士で協力し合う「安心」の社会であり、実はリスクが大きい社会」と示されました。「個人的にリスクを避けようとする傾向が、社会全体のリスク水準を高くしています。また、雇用の安定は、逆説的にリスクを大きくしています。いわゆるセカンドチャンスがないということ。要するに、集団主義的な慣行が、リスクの大きな社会を生み出している現状がある」といったことが話題になりました。

講演終了後は、出席した大学院生・教職員からの質疑応答も活発に行われました。最後に木村實脳科学研究所所長が挨拶に立ち、「個々の人の心を理解するためには、対社会へのアプローチも必要です。今後もこうした講演会を通じて研究成果の発表に努めていきます。」と述べ閉会となりました。