玉川学園創立85周年記念「玉川大学教員養成フォーラム」が開催されました

2014.12.18

リーダーに求められる、個性や才能を見抜く力、まとめあげる力

10月25日(土)、学校法人玉川学園創立85周年を記念し、昨年に引き続いて「玉川大学 教員養成フォーラム」が開催されました。
「これからの教員に求められる資質能力と今後の教員養成」をテーマに掲げ、本学卒業生である演出家の宮本亜門氏の記念講演をはじめ、各界で活躍されるシンポジストをお迎えしたシンポジウムを行いました。その様子をご紹介します。

当日はおだやかな秋空のもと、会場である玉川学園講堂は遠方から他校の教職員や自治体教育委員会の方々、現役の教育学部生など大勢の参加者で集まりました。フォーラムの開会を告げるのは、本学芸術学部の学生による玉川太鼓の演奏です。赤いたすきをきりりと締めた男子学生15名の力強い演奏に盛大な拍手が送られました。

次に小原芳明学長の開会挨拶へと続きます。「アメリカをはじめとする世界各国で新しい時代に備えた教育の推進、その重要な役割を担う教員のあり方が検討されています。私は中央教育審議会の一員として教員養成の部会を担当しており、21世紀にふさわしい教育とそれを担う教員の養成を課題に掲げて、改革の推進に取り組んでおります。本日は、行政、教育現場、演劇でご活躍の方々をお招きし、それぞれのお立場から忌憚ないご意見をうかがい、皆さまとともに教育を担う教員養成について考えていきたいと思います」。小原学長はこのように結び、来場者へのメッセージとしました。続いて、演出家・宮本亜門氏の記念講演です。

宮本亜門氏

宮本氏は玉川学園高等部から玉川大学文学部芸術学科演劇専攻科へ進学された、「玉川っ子」です。ご存知のように、ミュージカル、ストレートプレイ、オペラ、歌舞伎などジャンルを越えた演出家として、国内外で幅広い作品を手がけています。講演のテーマは「違うから面白い、違わないから素晴らしい」。「玉川へ来るたびに礼拝堂などの景色、遅刻しそうな時の急な坂道など、いろいろなことを思い出し、ほっとします」と、テレビ番組で知られるにこやかな笑顔とユーモアあふれる語り口そのままに講演が始まりました。
宮本氏は東京の新橋演舞場前の喫茶店を営む両親の間に生まれ、元松竹歌劇団ダンサーだった母の影響で幼い頃から歌舞伎座に通い、演劇や音楽、仏像鑑賞など幅広い分野で造詣を深めるきっかけがありました。一方で幼稚園時代に日本舞踊を習い、一般的な男児と異なったことをひどくからかわれて、その後の友人関係が疎遠になる経験をし、ついに高校1年の時には窓もない自室に閉じこもったそうです。10枚のレコードを大音量で繰り返し繰り返し聴き、聴くごとに広がる音楽の世界のきらめきに魅了された宮本氏にお母様は、「学校へ行かなくてもよいが大学病院精神科への通院」を勧めたのです。1年間の引きこもりの日々に「誰も自分の話を聞いてくれない」と悩み、「どうしたらいいか、完全に分からなくなっていた」宮本氏の話を、精神科の担当医は一切否定をせず受け入れてくれました。これが人生の転機となり、引きこもり生活で一番きらめいていた音楽の世界から刺激されたイメージを伝えたいと、映画監督や舞台演出家が目標になったのです。その後玉川学園高等部に復学し、明るく迎えた周囲に「自分で自分を責めていた」ことに気づかされたと言います。高等部では演劇部に入り、高等部の部長であった岡田陽先生にも勇気づけられ、ミュージカル「ゴッドスペル」を視聴覚室で上演。当時、研究などで成果を上げた生徒に贈る小原賞を受賞し、「僕は生きていてよかったんだ」と回想します。

演出家として心がけているのは、「オーディションは最初から才能だけに注目して選ぶのではありません。人はどう変わっていけるか、という部分を私が見抜けるか見抜けないかの勝負なんです」。オーディションでの宮本氏はあえて大きな声でふざけたり、アドバイスしながらオーディション参加者の心を解放し、その人が変わる瞬間を見極めます。また一つの舞台を作り上げるリーダーとしては、演出家になったばかりの頃の失敗や海外制作での考え方の違いなど多くの経験から、スタッフの意見に耳を傾け、みんなで話し合いながら作品を作ることの大切さを学んだと言います。
そして、いろいろな才能を育てる学校や教員養成について宮本さんは次のようにまとめました。「普通だったら考えない視点や考え方を、私は『普通なら変わっているかもしれないことが、実は面白く、新たな可能性を秘めている』と舞台演出でも積極的に取り上げています。新たな考え、新たな発想、新たな化学反応が世界で起こっている今、日本からいろいろな才能が学校教育の中で次々と育ってほしいと、心から願っています」。宮本氏の現在のご活躍の土台にあるさまざまな出来事や想いに触れたお話に、会場の参加者から熱い拍手が寄せられました。

今、必要な教育改革とは何か――社会的背景、課題から考える

遠藤利明氏

次は衆議院議員・自民党教育再生実行本部本部長の遠藤利明氏の特別講演です。テーマは「今後の教員養成の方向性」。遠藤氏はご両親をはじめ周囲に教師を職業にする方が多かったことから、政治活動のテーマとして「教育」を取り上げてこられ、2006年には文部科学副大臣を務められています。教職大学院の開設に尽力した際の裏話を披露され、また現在の教育再生実行本部の指揮役として、現在検討あるいは実践に向けた調整の段階にある「成長戦略に資するグローバル人材育成部会提言」「平成の学制大改革部会」「大学・入試の抜本改革部会」「新人材確保法の制定部会」の提言取り組みの数々についてエピソードを交えてお話くださいました。まとめに小学校5年生の担任教師の思い出にふれ、「先生は私の顔を見て、『なんかいつもと違う。病院へ行ってらっしゃい』と言うのです。まったく自覚症状がなかったのですが、病院で診てもらったら急性腎炎で2か月入院。『先生ってすごいなぁ~』と改めて思いましたね。子供の顔を見て変化に気づくような、そんな先生になっていただきたいし、われわれもそんな先生を養成するシステムを作っていきたい。」と、述べられました。

小松親次郎氏

次に文部科学省初等中等教育局長の小松親次郎氏による基調講演です。「初等中等教育を担う教員の資質能力と養成大学への期待」として、「これからの学校教育に求められる教員の在り方について」をテーマに、取り組みの状況と今後の展開について述べられました。教育改革が求められる背景には、制度的背景として、教育基本法や学校教育法の改正による心の豊かさが重視される時代にふさわしい教育への転換、社会的背景として、少子高齢化により生産年齢人口が減少していくという問題や、日本の子供の学力は世界トップクラスにある一方で、学習への動機付けや実社会との関連、自己肯定感などの面で様々な課題が見られること、更に、子供の貧困率が年々悪化し、世界で低くない方であることなどの問題が生じてきていると述べました。
今年7月に教育実行再生会議が報告した第五次提言「今後の学制等の在り方について」では、学制改革とともに、教員の資質能力に関係の深い教員免許制度改革や「チーム学校」という考え方が提唱され、小松氏は「教育の質の中心にあるのは学校の先生であり、注力していただくのは『授業』です」と訴え、その実現には、これまで養成・採用・研修の各段階の接続を重視して見直し、再構築することにより、教職生活全体を通じた職能成長を実現する環境作りを推進してきたことを踏まえながら、教員養成大学の大学毎の強みを生かした機能強化を図り、教職大学院についても全国規模の整備を促進していくことなどが必要であると述べました。まとめに「これからの学校は、開かれた組織を目指す必要があり、校務についても『分担と連携』という意識を深めることが求められます。先生の分担の第一は『授業』であり、学校の管理職や行政の『分担』はその環境整備です。その上で、先生方には学校の内外にわたる『連携』を適切に進めていって頂くことが期待されます。」と結びました。

「教師に求められる力量と養成大学への期待」を語るシンポジスト各氏

田子健氏

フォーラムの最後をしめくくるのは、シンポジウム「教師に求められる力量と養成大学への期待」です。田子健氏(東京薬科大学教授)をコーディネーターに、貝ノ瀬滋氏(三鷹市教育委員長・教育再生実行会議委員)、中島美恵氏(町田市立南大谷小学校主幹教諭)、藤田朋子氏(女優)、そして玉川大学 森山賢一(玉川大学教師教育リサーチセンター長・玉川大学教職大学院教授・教育学部教授)のシンポジストを迎えました。
田子氏から、「先生とのよい思い出」を四氏に尋ねてスタートです。舞台やテレビドラマ等で活躍する藤田氏は、玉川学園高等部に入学し、活動した英語演劇部では顧問の先生が自由に活動させてくれた思い出のエピソードを語り、「生徒のことをきちんと理解しようと努力してくれたり、一つひとつのことを大切に思ってくれる先生は、やはり思い出に残る」と話しました。

貝ノ瀬滋氏

貝ノ瀬氏は北海道出身で、「団塊の世代で60人位の学級だったが、担任の先生はよく観察してくれた。とくに小学校5,6年の時の担任は、私が社会科の地図を使い、いろいろな国のことを自分なりに調べて知識を蓄えていたことに気づき、みんなの前で発表させてくれました。そのことで私は自信を持てるようになりました。いい先生、いいリーダーとは、まとめる力と子供の強みを引き出す力を持っていることだろう」と話します。また小学校教員免許取得のために玉川大学通信教育部で学び、「小原國芳先生がご健在で、労作教育の活動をはじめ、言葉だけでなく身をもって示してくれた」とし、新宿駅で通路に落ちている吸い殻を拾って所定の場所に捨てている先生を目撃し感動したエピソードを披露。「私は2人のすばらしい先生に恵まれました」と話しました。

中島美恵氏

中島氏は町田市出身で、小学校時代に玉川大学の学生が教育実習に来校したことにふれ、「とても親しく接してくれたことが、自分も教師になってみようかと意識したきっかけだった」と語り、「これから教育実習に行かれる方に、子供たちにとって心に残る存在であり、影響力があると考えて、教育について学んでいただきたい」と話しました。森山(玉川大学)は、教育学部で教鞭を取る立場から、新入学生に「心に残る教師の一言」を書き出してもらうと、“褒められた”“認められた”言葉と、生徒を“否定する暴言”の二つに分かれるとし、「教育の重要な担い手である教師が発する言葉は、児童・生徒に大きな影響を与えていることを実感しています」としました。

子供たちへの影響力の大きい教師とは、「『どうせ私なんか』と自尊感情を持てない子供たちも、心の底ではよりよく生きたいと願っている存在であり、心を通わして指導を重ねれば、必ず自覚や能力が目覚めると信じて仕事をしなければならない」(貝ノ瀬氏)、「一人ひとりの状況を見取り、声をかけていくコミュニケーション能力が全ての基本」(中島氏)、「人間的に真に慕われる、仰がれる人がなるべき」(藤田氏)と発言。

藤田朋子氏

また、藤田氏は「授業を難しく、解りづらくしているのは先生。先生自身が興味を持ち、解るように伝える能力のある人でなければならない」と強調し、会場から拍手が湧き起こりました。さらに「学校の先生も毎日一つの舞台をこなしている。アドリブもあれば、話がそれることもある。でも、1年、2年、3年と舞台の終演に向かってどんどん進まなければならない。日々、さまざまな問題や事件が起こる中で、それに対応してくれ、一緒に考えくれるのが学校だ」とし、「自分自身が小学生の頃はどうだったか、というイマジネーションを働かせる力が大切」と語り、会場はおおいに湧きました。

森山賢一(玉川大学)

藤田氏の投げかけに対して、教員養成大学の新たな取り組みとして、森山(玉川大学)は「教育の技術は経験だけに基づくものではない」という、教育学者ヘルバルトの言葉を挙げ、理論をしっかりと学ぶことの重要性を訴えました。また、玉川大学の1年次の参加型実習を取り上げ、早い時期からの教育現場での実践の積み重ねとともに、理論と実践を繰り返す相互作用、適性判断の機会を兼ねていることを紹介しました。貝ノ瀬氏は「学び続ける教師、というキーワードは重要。子供にばかり学ぶことを要求するのではなく、教師自身も常に問い直すということが大事である」としました。中島氏は「私たちの仕事は子供たちの成長を目の当たりにできるすばらしい職業。この喜びを思い、自分をさらに磨き、高めていくことが大切」としました。森山(玉川大学)は「学び続ける教師であるためには、養成大学の役割を明確にする必要がある。免許更新講習会など、研究と研修の両立がポイントになるだろう」とまとめました。

最後に藤田氏から、「『尊敬』という定義が崩れてきている社会の中で、教育の役割は大きい。先生方、ぜひ頑張ってください、お願いします」と励ましの言葉をいただきました。

そして、玉川学園理事の高橋貞雄(文学部教授)より閉会の挨拶です。短い時間でしたが、学校の役割、教師養成の方向性など、さまざまな課題を投げかけた有意義なフォーラムの幕が閉じられました。