教職大学院での実践的な学び――「道徳授業の研究と実践」を通して

2015.01.22

2008年に開設された玉川大学教職大学院は、「考える教師・行動する教師」をモットーに、理論と実践をバランスよく学ぶためのカリキュラムを揃えています。その数ある科目の中からより専門的に深化させる「発展科目群」の一つ、『道徳授業の研究と実践』をご紹介します。履修した学生、講義を担当した教授にも話を聞きました。

実践的模擬授業で深く考え、改善点を浮き彫りにする

『道徳授業の研究と実践』は、教育方法学、道徳教育学が専門の長野正教授により、2014年度秋学期に全15時間で開催されています。この講義では、昨今「心の教育」が強調され、学校における道徳教育の強化が求められている中で、改めて学校教育における道徳教育、とくに「道徳の時間」の役割について考察するものです。より望ましい道徳授業の実践を目指して、模擬授業を通した授業設計、運用の改善点、各自の課題を明らかにしていきます。

12月中旬の講義では、模擬授業が行われていました。教育学部卒業のストレートマスター(SM)2年生12名と、中学・高校の教員免許を持つ長期課程1年生1名が受講。先生役の菊池信太朗さんが小学校6年生の道徳の時間として、物語「手品師」を教材に「誠実な心」を理解し深める授業を展開しました。教材「手品師」は、売れない手品師が仲のよい友人から誘われた、長年抱いていた大劇場へのステージ出演のチャンスを捨て、一人ぼっちの寂しい男の子と交わした約束を守る物語です。

模擬授業は菊池先生が設計した指導案に基づき、「『誠実な人』とはどんな人でしょうか」と児童への問いかけから始まり、黒板に登場人物のイラストを貼り出したり、ワークシートに自分の意見を書き込ませ、隣の人と話し合うなどさまざまな方法で、まとめの「『誠実な人』とは、ただ『うそをつかない人』ではないこと。『誠実』になるには、しっかりと相手のことを思って行動しなければならないことがわかった」へと導くものです。途中、菊池先生が「手品師が大劇場へ行っていたら、それは誠実とはいえないでしょうか」という発問をきっかけに、「友人との友情を守ったのだから誠実ではないとはいえない」などと少々混乱が始まってしまい、「ねらい」に辿り着けないまま持ち時間終了となりました。

長野教授の講評では、授業設計は先の「誠実とはいえないか」という発問に端を発した混乱を例に挙げて、児童が自発的に考えられるように促すことが大切で教員の決め付けは避けなければならないことなどの注意がありました。また、「ねらい」の妥当性について考えると、「もっとシンプルに」と注文があり、さらにブラッシュアップするために次回までの宿題と持ち越しになりました。
長野教授は模擬授業中のところどころで、児童役となって正反対の意見や疑問を投げかけ、学生を深く考え込ませ、討議を白熱させる場面が幾度もあり、より実践的な道徳授業とするための指導を垣間見ることができました。

10週間の期間集中型実習で見つけた自己の課題解決に挑戦

受講した学生に「教職大学院での学び」について、話を聞きましたので紹介します。

SM2年生・庄司健吾さん(玉川大学教育学部卒、公立小学校採用決定)

庄司健吾さん

学部生で4週間の教育実習を経験し、教員になりたい気持ちが強くなったのと同時に、実力不足を痛感し、専門的知識を学びたいと教職大学院へ進学しました。本大学院は4つのコースに分かれており、「心の教育実践」コースを選択。10週間の期間集中型実習期間中に道徳の授業を受け持ち、自分なりの授業設計で挑み、授業そのものは盛り上がりましたが、果たして子供たちの身に付いたか疑問に思うことや、改良の余地がまだまだあると痛感しました。道徳授業は物語を読み、登場人物の気持ちを考えさせる「定型」といわれる指導方法がありますが、そういった方法に問題があると指摘されており、私自身も同様に考えています。道徳授業の難しさに悩むこともありますが、私たちにも最適な指導方法を考えていける余地のあるところが、道徳の奥深さと面白さではないかと思います。

SM2年生・藤山太郎さん(玉川大学教育学部卒、公立小学校採用決定)

藤山太郎さん

大卒ですぐに教壇に立つよりも、経験を積み人脈を広げたいと、大学3年次に玉川大学教職大学院への進学を決めました。本大学院は1年次秋に10週間の期間集中型実習もあり、理論と実践を積み重ねるにはよい環境だと考えたからでした。学会に参加する機会も得られ、最新の研究発表に気づかされることも多く、生涯にわたって学び続けることの大切さを考えました。いよいよ春から教育現場に入ります。どんなに力のある先生でも、学年や子供たちの実態に合わせて指導を変えていかなければなりません。学び続け、全力で子供に応えたいと考えています。

SM2年生・小川通正さん(玉川大学教育学部卒、公立小学校採用決定)

小川通正さん

大学院で出会った仲間とは、自主的に模擬授業を行って検討する会を開くことがあります。「実習でこんな風に授業したけれど、見てくれる」、「ねらいに合った授業だったかな」などと、第三者から見てもらうことで気づく問題点があり、次回への改善に大いに役立ちます。教授から言われた訳でなく自然発生的に始まった切磋琢磨できる時間を持てるのは幸せです。学部生の頃に抱いた教師像は、「明るく楽しく元気よく、子供をひっぱっていく教師」というものでした。今でも基本的には変わりませんが、本大学院で専門的な学びを続けていくうちに、子供一人ひとりの表情を認識することで見える姿に思いを寄せられるようになりました。視野の広がりは自分自身の収穫であると同時に、責任の重い仕事だと痛感し身が引き締まる思いです。

長期課程1年・三宅夏葵さん(玉川大学芸術学部卒)

三宅夏葵さん

音楽教師を目指して本学芸術学部へ入学し、中学高校の音楽教員免許を取得。さらにダブル免許プログラムを利用し、通信教育部で小学校2種免許を取得しました。小学校の教員への夢が膨らみ、教職大学院でも学ぼうと進学しました。現在は本学教育学部生に交じっての講義や、時間を取れる時は本講義のように大学院の授業にも出ています。教育学部も教職大学院も教員志望の人ばかりですから、気持ちが高まります。授業の合間に学習室や談話室では、SM生や現職学生が授業について討論していたり、勉強になることばかりです。指導案を作り模擬授業をしてみると、あれはだめ、こうしようと、日々学ぶことが多いのですが、とても充実しています。

教育活動の本質に目を向け、実践につなげる

玉川大学の教職大学院は、「考える教師・行動する教師を目指すあなたに」をキャッチコピーにしています。つまり、「『理論』と『実践』の融合」で、教職大学院の各授業は理論に裏付けられた実践力を徹底的に養います。担当する『道徳授業の研究と実践』を例に挙げると、「こんな考え方もあるんじゃないかな」、「なぜそうすることが正しいと思うのか」等々、「なぜ」「なぜ」と問い詰め、かき乱しながら講義を続けます。その理由は、学校教育の現場において教員の行動には必ずその人なりの理論があり、他の指導法を選択しない理由がある。それを浮き彫りにさせるために、学生に広く深くまで考えさせ、実践につなげていくことが重要なのです。
さらに、音楽の授業で皆さんも親しんだことのある「リコーダー」を例に説明しましょう。小学校3,4年生の音楽で相当の時間をかけて習得を目指します。ではなぜリコーダーの習得の時間があるのでしょうか。なぜ大事なのでしょうか。現職の教員も考えたことのない方が多いはずです。「学習指導要領に載っているから」と答える方がいらっしゃるかもしれませんが、現在は載っていません。リコーダーの演奏は教育においてよいもので学級全員が吹けるようになるだけの理屈があるはずです。上手に吹くための理論は教育学部等の講義で修得できますが、そもそもなぜリコーダーが吹けるようになることが大事なのかを伝える理論、つまり本質に目を向かわせながら、実践力をつけることが本学教職員大学院が目指すところなのです。
道徳授業に目を転じれば、そもそも道徳教育がなぜ必要なのか、私たち教授陣がゆさぶりをかけて深く考える機会を与えています。そして、たくさんの実践と議論を通して、必要性の理解へたどり着いたら、学校教育へ還元するために「どうあるべきか」を考えなければなりません。登場人物の心を読み取るような国語の授業と大差ない道徳の授業でよいのか。教育指導とは、本質に立ち戻り、よりよい実践へとつなげていくことに意義があるのです。その点を重視してるのが、玉川大学の教職大学院なのです。
余談ですが、「道徳教育」を学校課題研究論文(修士論文)のテーマにした学生がおり、担当教授として算数の掛算のような正解の出ない道徳だからこそ、「学校課題研究論文(修士論文)のテーマとしては難しい」とアドバイスしました。しかし、彼らが一年次秋に10週間の長期集中型実習を経験し、道徳の時間を数多く受け持ったが故に生じた自己の課題に真摯に向き合おうとし、それぞれ難問に立ち向かっています。恐らく修士論文がストレートに通ることはなく、何度か提出を繰り返すことになるでしょうが、この壁を乗り越えようとする経験は彼らの大きな糧となり、学校教育に確実に還元できるであろうと期待をしています。

※「道徳授業の研究と実践」模擬授業の様子をご覧いただけます。