世界に一歩先んじて開発が進む、量子情報科学研究所の「量子レーダー」研究

2015.02.18

量子情報という学問分野を確立させ、今日まで推進してきた玉川大学量子情報科学研究所。当初は理論研究が中心でしたが、より社会に貢献できる分野へ研究を深めるため、2000年に小原芳明 学長の主導によって応用研究の分野へと大きくシフトしました。この分野で活躍している研究者らを中心に、理論研究を基盤にして量子情報や情報科学といった分野で問題とされている事柄を解決する、課題解決型プロジェクトをスタートさせました。そこで取り組んできた通信回線を守る新技術「Y-00 量子暗号」は、いよいよ実運用の領域まで到達しようとしています。次に、「量子コンピュータ」の開発とともに、新たに着手し始めたのが「量子レーダー」の研究です。今回は量子情報科学研究所 所長の広田修教授と、この量子レーダー研究の中心を担っている政田元太准教授にお話を聞きました。

政田先生は、量子光学の研究に取り組まれ、その内容は量子レーダーの核となる技術として、今後、研究所が重点的に追究していくテーマの一つにもなっています。
では、その量子レーダーとはどのような技術なのか。一般的なレーダーは電波を発射し、その反射波を測定することで対象となる物との距離などを測っています。このような電波を用いず、量子力学特有の量子エンタングルメント*1という光の現象を利用して対象物を知る方法があります。その際、多くの研究者が「単一光子」という微視的な量子状態の光を使って生成していますが、政田先生は「スクイーズド光」という、巨視的な量子状態の光を使った生成方法を採用していることを特長としています。

*1:離れた2者の間にテレパシーのような力が働く、量子力学特有の現象

光パラメトリック発振機と呼ばれる装置で「スクイーズド光」を2つ用意し、これらを半反射ミラーと呼ばれる特殊なミラーで合波する。このようにして新たに生成された光を「2モードのスクイーズド光」と呼び、2つの光波の間には量子エンタングルメント現象が発生します。 送信機から補助光を受信機に送ります。もう一方の信号光を、レーダーによって検出したい目標物に向けて発射します。すると目標物で反射した光が、やがて受信機に戻ってきます。ここで受信光と補助光が量子エンタングルした性質を上手に受信機のところで利用していくと、目標物から反射された光を効率よく検出することができるようになります。2つの光を受信することで、従来のレーダーよりも検出感度を上げることが可能となります。それは、従来のレーダーの弱点である雨や霧、雑音などにも強いといったアドバンテージにもつながっていきます。

実際に、政田先生の実験室で、その「スクイーズド光」を用いた研究の様子を観察しました。その光は専門的な観測手法を用いなければ見ることができないそうです。それでも、その「スクイーズド光」は単一光子の光よりも感度が高く、ハイパワーになっているとのことです。今はまだ光源開発の基礎の段階ですが、この光こそ量子レーダーの未来へ導く大きな鍵(キー)を握っています。
この量子レーダーを実現させるキーテクノロジーは、政田先生が研究を進めている光源部分の開発に秘められています。これが実現することで、量子レーダーの技術はカメラやセンサーなど、人間の役に立つ様々な分野への応用が期待されています。

所長の広田先生によると、『単一光子は研究しやすいのですが、実用性の部分で疑問が残る技術です。「スクイーズド光」は非常に難しい技術ですが、研究成果の社会貢献に主眼を置く研究所では、この「スクイーズド光」での成果を実現していきたいと考えています』と、説明してくれました。また、新たな研究の成果を国際会議などを通じて、世界に向けて発信したいとも、今後の抱負を語ってくれました。

政田先生が取り組む量子光発生装置の開発が、世界の量子研究のキーになると語る広田先生。玉川大学量子情報科学研究所から、新しい研究成果の発表を聞ける日を切望しています。