大学院生の研究成果 ピックアップ

本研究科(旧 脳情報専攻も含む)の大学院生が公表した学術論文をピックアップして紹介します。

ラットの一次運動野と二次運動野における運動情報の共通点と相違点
齊木 愛希子 脳情報研究科【博士(工学)】2014年3月
Different modulation of common motor information in rat primary and secondary motor cortices. Saiki A, Kimura R, Samura T, Fujiwara-Tsukamoto Y, Sakai Y, Isomura Y. PLoS One. 2014 Jun 3;9(6):e98662.

げっ歯類の一次運動野(M1)と二次運動野(M2)が随意運動の遂行に大きく関わることは今まで知られていたが、M2がM1と比べて異なる運動機能を持つかどうかは不明であった。この論文において、レバー押し引き運動をするラットのM1とM2の神経細胞の活動を定量的に調べた。その結果、ラットのM1 とM2の機能は基本的に共通しているが、運動目的によってM2の方が大きく細胞活動を変化させることを見出した。

ラットにレバー押し課題を課し、ラットがレバーを押す・保持する・引く際の活動をマルチニューロン記録により解析した。いくつかの個体については、レバーを押した後に高低2種類の合図音をランダムに提示し、Go音の場合はすぐにレバーを引き、No-go音の場合はそのままレバーを保持し続けると正解となるGo/No-go課題を課した。この時Go試行のレバー引きは意図的レバー引き(オペラント的行動)、No-go試行のレバー引きは付随的レバー引き(完了行動)となる。

図2 M1とM2の機能

まずM1とM2において、基本発火特性だけでなく、前肢運動に関連した活動の時間的経過や振幅、方向選好性について錐体細胞、介在細胞共に大きな違いがないことを確認した。一方、M1の錐体細胞と比べ、M2の錐体細胞は運動する目的の違いにより活動をより大きく変化させることを明らかにした。すなわち、M2におけるレバー保持の際の活動は、No-go信号提示により減弱し、レバー引きの際の運動は、オペラント的行動と完了行動で異なる活動を示した(図1)。また、M1とM2の細胞は、より高次の認知・行動機能を示唆するようなNo-go信号特異的な活動を示さなかった。

以上のことから、M1は末梢(筋肉など)からのフィードバック情報を受け(Sievert, 1986)、M2は行動目的などの中枢からのトップダウン情報を受けて、両領域が協調して巧緻運動を行っている可能性を指摘した(図2)。この知見はげっ歯類のM1とM2に関して、異なる調節が行われていることを初めて示したものである。