開講科目

脳情報専門科目

システム神経科学

感覚認知、運動・行動、情動や判断・思考などの高次脳機能は、大脳皮質だけで100億個を超える神経細胞が脳内で固有のネットワークを構成し、作動原理にしたがって神経情報の表現と処理を行うことによって実現している。システム神経科学では、神経符号化から特徴抽出、対象の認知につながる感覚系、行動の制御と学習の系、情動と意志決定の系などについて、理解する。講義やワークショップ、グループ討議などにより授業を行う。

システム神経科学技法

神経システムの動作原理を解明するにあたり、精度の高い実験結果を積み重ねる必要がある。そのためには、一つ一つの実験を確実に遂行できる技術が必要となる。本講義は、解剖学的手法と生理学的手法の基礎を身につけることを目標として行われる。解剖学実習では、トレーサー注入、標本作製、染色、顕微鏡下での観察、データのまとめ方について学ぶ。生理学実習では、電極の作成、細胞外活動記録、オシロスコープを使った電気的活動の観察、体部位再現マップの作成方法について学ぶ。一連の工程を自ら行うことによって、システム神経科学で使われる実験手法の基礎を習得することを目指す。

計算論的神経科学

本講義の目的は、神経・脳活動を数理的に理解するアプローチである計算論的神経科学の概要を学び、自らの研究に計算論的視点による分析・仮説設定などの技術・能力を身につけることにある。神経科学は、分子・細胞・ネットワーク・個体の様々な空間スケールで研究されているが、数理モデル化によってそれらスケールの個々における現象ばかりでなく、それらを横断的に分析・理解することが可能であることを理解する。神経細胞レベル、ネットワークレベル、個体レベルのモデル化や、神経活動を統計数理の目で解析する符号化・復号化・情報理論・ベイズ統計による推定などの事項について学ぶ。

コンピュータシミュレーション技法

コンピュータシミュレーションは、仮説として立てたモデルから顕れる現象を手軽に確かめるために有効な方法である。例えば、生物学的に詳細に記述したモデルを用いて、生理実験では簡単には制御できない要素の効果を、容易に調べることができ、実験する前に重要な要素に的を絞ることができる。また、既に観測されている現象を再現するために必要な最小モデルを探ることで、現象の背後のメカニズムを理解することができる。生物学的忠実性の追求とメカニズムを探るための単純化という相反する2つの方向性について、具体例を通して必要な基礎技法を学ぶ。

脳画像解析学

本授業の目的は、ヒトの非侵襲的計測法である機能的MRI(fMRI)の理論を身に付け、fMRI実験のパラダイム作成から解析まで行える能力を養うところにある。

ニューロイメージング技法

脳の主要な研究領域である脳イメージングについて、研究活動を経験すると同時に脳イメージングの領域における研究手段および機器操作についての訓練をうける。この活動と経験を通じて、学生はその分野の研究の姿を知るとともにその方法論と手法を学び習得し、さらにその研究の困難さおよび脳科学の面白さを理解する。特にfMRI実習では課題を作成し、最先端3テスラーのMRIをじかに操作し、モデルを使った特殊な解析を自ら行い、fMRI実験に必要な一通りの知識を身に付ける。

発達科学

本講義は、発達心理学・言語学・認知心理学を中心としたヒトの行動変化の本質を求め、その理解を深めることを目的とする。特に、乳幼児の発達過程における様々な知見を理解するための科学的なアプローチについて最新の研究を学ぶ。前半の講義では発達科学の概念を解説する。また、近年話題になっているコネクショニストアプローチによる学習メカニズムのモデル化に触れる。後半の講義では乳幼児の言語獲得を中心にその発達的側面を様々な実験的事実を基に明らかにする。課題文献研究では予め指定した最新研究文献に関する議論を受講者が中心となり行うことで、文献調査や文献解読の手法を学ぶ。

発達科学技法

近年の脳科学研究の発展は、認知発達科学にも大きな影響を与えてきたが、常に行動との綿密なリンクづけが不可欠である。そこで、本授業では言語学・認知心理学・発達心理学の視点から、脳科学とこれらの知見から得られる科学的根拠のある教育的応用に関連づけながら認知発達を研究する技法について、実験実習を通して学習する。発達認知科学で主に用いられている質問紙調査、行動観察、行動実験におけるデータ収集および解析を体験し、特に行動観察データに対しては言語科学の解析手法も用いて、母子相互作用や同年代の乳幼児間の社会関係と言語獲得、第二言語習得との関わりを検討する。脳活動計測では、乳幼児に対し広く使用されている脳波(EEG)や近赤外分光法(NIRS)を用いた計測および解析手法を学習する。これら複数の手法の比較検討を通して、異なる手法の適切な使用について議論する。

脳型制御システム

神経システムは認知から運動発現に至るまで、極めて多様な機能的役割を果たしている。各脳部位が特異的な機能を営んでいることが明らかになりつつあるが、情報処理を担う素子である神経細胞は脳部位間での差が小さい。こうした知見は、各脳部位が営む機能は、入力元、局所回路、出力先などの神経ネットワーク、即ち、構造によって大きく規定されることを示唆している。精巧に構築された神経システムの機能と構造に関して具体例を提示しながら講義を進めることにより、脳型制御システムの基本的な考え方を身につけることを目標とする。

コミュニケーションロボット工学

対人コミュニケーションの場面は、相手の人間がそれ自体意図を持って行動決定する主体であり、その相手の意図を理解しないと適切な相互作用は難しい。本講義は、人との相互作用を適切に行うロボットの構築に必要な対人理解モデルを解説し、その表現系としての認知発達及びシステム制御のアルゴリズムについて解説する。課題文献研究では予め指定した最新研究文献に関する議論を受講者が中心となり行うことで、最新の研究動向と文献解読の手法を学ぶ。

脳情報先端セミナーA(ロボット工学)

ロボット技術は機械、電気・電子、情報など様々な技術が関わっており、それらの融合には、知能化技術が重要だと考えられている。本講義では、ロボット工学、特に知能ロボットに分類される技術に関する最先端の研究を学ぶ。特に自律移動ロボット、画像認識、自己位置同定などのトピックスを学ぶ。授業では最新の研究論文を演習形式で学び、受講者は与えられたテーマに従って調査した結果を発表し、他の受講者とともに討論を行うことで授業を進める。また、移動ロボットシミュレータを使い、実際にロボットプログラミングを行うことで理解を深める。

脳型学習システム

脳内情報処理において、学習・記憶に関わらない統合的機能は考えられない。よって高次機能を理解する上において、学習・記憶システムの理解は非常に大切となる。本講義では、ニューロンのシナプスレベルからネットワークレベルまでの学習・記憶システムの解説を行う。実験および理論の両サイドから、学習・記憶のメカニズムとそのダイナミクスを説明し、脳内情報表現と記憶機能の関わりを講義する。さらに、学習・記憶に関する最先端の知見を紹介する。

パラレル情報処理解析学

脳の情報処理機構を本質的に理解するためには複数の神経細胞の発火活動を一挙に記録し解析することが必須である。そのための鍵となるマルチユニット記録法の基本原理と応用例を前半と後半に分けて学習する。前半ではマルチユニット記録法の開発の歴史、種類、解析過程、データ解釈などを包括的に解説する。後半では同記録法を活用して解明されつつある海馬神経細胞の空間情報の処理機構や機能的意義を最新の研究成果を交えて考察する。また受講者各自が学術論文を批判的、建設的に熟読し意見する「模擬査読」を体験し、その妥当性をグループ全体で討議する。このように脳科学の進歩の過程を肌で感じつつ、神経細胞集団の発火活動すなわち情報処理の仕組みを解析する企画・遂行能力を獲得する。

脳情報先端セミナーB(神経計算論)

本授業の目的は、国内外の最新の神経計算論に関する研究の現状を知り、神経計算論的なアプローチとそれに関連する理論と実践を身につけ、自らの研究において計算論的な方法による分析方法、仮説設定、モデル化をする技術等を理解し、可能なら適用できる、または評価できる能力を目指す。この目的を達成するために、国内外において神経計算論とそれに関連する分野において、セミナー形式でその研究者がまさに取り組んでいる最新の話題を含む授業および演習を行う。

認知科学

人間の知的な行動の起源は脳であるが、知を生み出す活動は行動によっても観測可能であるし、さらに情報処理としての知的行動の理解はより深い知の理解につながる.本講は、このような知の深い理解にせまる方法論としての認知科学について、その考え方、方法、研究動向、他の手法との関連などを解説することで、脳科学と関連諸科学との関係を議論する。

情報創成科学

発達した脳を持つ動物は、過去に経験した事象間の関係だけでなく、思考や推論を通して今までに直接経験したことのない事象間の関係を推測することができる。この機能はヒトで頂点に達し、新たな事象の創造をも可能にする。このような思考・推論・創造性の脳メカニズムについて、その基礎となる(1)学習・思考の心理学理論、(2)関係する計算理論、を体系的に学んだ後、(3)思考・推論・創造性に関する最新の神経科学論文を読んで議論する。

脳情報先端セミナーC(情報創成)

思考・推論・創造性といった、ヒトや動物の情報創成能力に関わる最新の研究を実験心理学、神経科学、計算理論といった様々な角度から検証する。特に、動物を使った神経科学実験から得られた基礎的な知見が、ヒトの創造性にどのように結びついていくのかを重点的に議論する。この授業で行った最新の研究に関する検証・分析は各履修者にまとめて発表してもらい、履修者全員で議論する。この授業はすべて英語で行われるため、英語による講義を理解する能力が求められると同時に、履修者間で英語による討論を行う能力も身に着ける。

脳情報関連科目

心理物理学

高次脳機能研究において、統制された刺激の呈示と行動の測定は必要不可欠である。心理物理学的測定法は、刺激とそれに対する反応を厳密に測定し、解析する手法として、実験心理学においては長い歴史を持つ。この授業では、心理物理学的方法論を、その体系を支える理論の検討を行いながら学習する。さらに、最新の研究をとりあげ、履修者の間で討論を行う。また、心理物理学の神経科学的研究への適用についても、最新の解析手法に触れながら検討する。

神経経済学

神経経済学は、20世紀末になって勃興した新たな学問分野である。神経経済学の基礎となる、行動経済学、意思決定のシステム神経科学、そしてヒト脳機能イメージング研究について、その基本的手法とこれまでの成果を学び、神経経済学の対象領域とその成果を把握する。また神経経済学の応用の一つと見ることのできるニューロマーケティングについての現状を知り、その有効性と今後の展望について、批判的または発展的な検討を加える。さらに、様々な価値とその脳内表現について、多面的な検討を加えることにより、神経経済学の本質を探求するとともに、神経経済学の今後の発展の方向についての展望を見出す。

社会システム制御論

社会システムを制御するためには、構成要員である個々のプレーヤーを理解することが重要であるが、社会は単に個々の寄せ集めではない。個々のプレーヤー間の対人的な交流があり、こうした社会的存在におけるプレーヤーの判断、意思決定、行動を理解できないと、効果的な方策、政策を決定、実行していくことは困難である。こうした個人の価値判断に必要な認知能力や情動のメカニズムおよびその神経基盤について理解する。経済活動、医療・福祉、教育など社会システムの制御を広義にとらえ、その在り方を探求する。講義、ワークショップ、グループ討議により授業を行う。

神経感性工学

この科目では、感性情報処理の一例として、音楽認知および音楽の情報処理についてその理論と方法を学ぶ。現代の音楽理論研究の成果に基づき、音楽の構造記述、知識表現、認知を現代の認知科学的な観点から考察する。我々の音楽理解と我々が持っている音楽概念の形成にはどのような要因が関与し、それをどのように記述、表現することができるか論究する。また、こうした考察をふまえて、音楽の創作および演奏のコンピュータによるモデル化の理論と実装方法を学ぶ。

神経倫理学

脳科学の進展に伴って、生命倫理学から成立した神経倫理学には、ふたつの側面がある。一つは、「脳神経科学の倫理学」であり、脳神経科学研究に対して倫理的な観点から制限を加えたり、支持を与えたりする。もう一つは、「倫理学の脳神経科学」といわれるものであり、倫理学的判断がいかなる脳神経の過程によって営まれているかを解明する。倫理や道徳が神経科学によって説明されようとする現代、このことが、倫理観や道徳観、ひいては社会の在り方にどのような影響を与えるのか?この講義では、二つの側面から神経倫理の現在を確認し、未来のあり方を展望する。

病態神経科学

統合失調症やうつ病などの精神疾患やパーキンソン病などの神経疾患さらに自閉症やアスペルガーなどの広汎性発達障害の認知機能障害について講義し、認知機能障害と脳機能異常との関連性について学び、疾患モデルから脳の働き理解を目指す。また、抗精神病薬の働きと脳活動変化、さらに機能への影響について、神経薬理学的な観点から認知機能への分子レベルでの関連についても講義する。基本的にこれらの研究の背景にはfMRIなどのニューロイメージング法、心理学的手法、臨床神経科学的手法、薬理学的手法の理解も必須となる。

分子生命工学

現代の神経科学は、神経細胞やグリアの発生・分化や、記憶・学習のメカニズムを分子レベルで解明しつつある。本授業は、生命科学に携わる研究者にとって不可欠な分子生物学の基本的な知識と、それを実践に応用する能力を修得することを目指す。講義の前半で分子生物学の基礎を概説し、後半でこれら基礎知識を基にして神経系での情報伝達の分子機構とその制御を中心に具体的に学ぶ。特に神経細胞間の情報伝達機構であるシナプス伝達と細胞内シグナル伝達を重点的に学習し、またそれらと神経系の機能や行動との関連を遺伝子組み換えなどの最新の実験技術とともに学習する。

脳情報研究法

脳情報研究法Ⅰ(研究サーベイ)

博士課程の研究は、その該当領域においていまだ人類に知られていない知見・技術・考え方を開拓するものとなる。そのために現在の脳情報科学領域においてどのような研究がどのような手段で行われているかを知り、さらには過去から現在までの研究の流れを理解することでこれから先の研究の動向を予測することも必要となる。本科目は該当学生に脳科学に関する文献を読んで整理する手法を学ばせることで、学生が自己の研究を世界の中で位置づけ、次のステップとしての研究計画に進むための知識を与える。

脳情報研究法Ⅱ(研究計画)

研究は、これまでに知られている知見に対して、新たな考察・分析・実験によって新規な経験や知識を提供する方法である。そこでは、既知の知識と新たに獲得が期待される知識を厳密に峻別し、真に新規な知識を獲得するための厳密かつ論理的な研究の計画と実施が求められる。本科目は、該当学生と指導教員との間の密な議論により、脳科学の研究を確実に立案するための方法論を学生に与える。本科目の履修には、「脳情報研究法Ⅰ(研究サーベイ)」の単位取得が前提となる。

脳情報研究法Ⅲ(データ解析)

検査・実験によって得られたデータには、目標とする現象以外に多様な要因で誤差が入り込む。研究の過程では、その要因を一つ一つ排除して、求める現象が示す真の特性を把握することが求められる。本科目は、脳科学の実験法のデータ発生モデルと分析手法について講じ、調査・実験からのデータについて学生が指導教員と議論することで、脳科学の現象についての仮説やモデルを構成していく考え方を実地に指導していく。本科目の履修は、「脳情報研究法Ⅰ(研究サーベイ)」と「脳情報研究法Ⅱ(研究計画)」の単位取得が前提となる。

脳情報研究法Ⅳ(論文作成)

研究は、その意図と方法論と結果を明示し、結果の解釈について深く議論して誰もが新規性や有用性を認めるオリジナル論文となったとき、はじめて意味を持つ。脳科学の論文を書いて、こちらの意図どおりに理解してもらう、新規性を認めてもらうことは容易ではないが、それは研究を認めてもらう基礎的な技術である。本科目はそのための方法を、教員の個別指導により指導する。本科目の履修は、「脳情報研究法Ⅰ(研究サーベイ)」、「脳情報研究法Ⅱ(研究計画)」、「脳情報研究法Ⅲ(データ解析)」の単位取得が前提となる。

脳情報研究法セミナー

科学技術に関する研究開発を実施するためのリテラシーとして、研究サーベイ法、研究計画法、データ解析法、論文作成法を修得した後、それらの知識を研究基盤として、脳科学分野において研鑽を積んだ課題について、その研究成果をまとめて博士論文として集大成するためのセミナーである。ここでは、他の研究者・学生と研究内容について討論し、それを研究に生かすことも学ぶ。「脳情報研究法セミナー」の履修には、「脳情報研究法Ⅰ(研究サーベイ)」、「脳情報研究法Ⅱ(研究計画)」、「脳情報研究法Ⅲ(データ解析)」、「脳情報研究法Ⅳ(論文作成)」の単位取得が前提となる。