『全人』2009年11月号 No.733より

2009.11.01

11月号は毎年、「教育現場レポート」と題し、主に中学までの初等教育のありようと、教員育成の実際、そして通信教育についてをレポートしています。今月号の巻頭は、NHK解説委員の早川信夫氏による「はがれ落ちない学力のために」。小・中学校の学習指導要領は、ゆとり教育を見直して、知識基盤社会で生きる力を育むことに主軸がすえられましたが、教育や教師がどう対応していくべきかについて語られています。
他ページでは、玉川大学学術研究所の量子情報科学研究センターで進められている新量子暗号について紹介。「絶対に解けない暗号」として世界中から注目を集め、通信技術に貢献していますが、アメリカの国際会議での招待講演と新量子暗号について記事にしました。連載「家庭力」にはジャーナリストの池上彰さんが登場。ソーラーカーの活躍や高学年のアフリカ海外研修の報告も掲載しています。

2009年11月号目次

長年教育現場を取材し、番組制作に携わってきたNHK解説委員の早川信夫氏
子どもの頃、世界トップの学力と言われた大人世代の皆さんにテストをしていただきましょう。次の文章が正しいか、間違っているかを答えてください。
- 1.
  地球の中心は高温である。
- 2.
  赤ちゃんが男か女になるのを決めるのは、父親の遺伝子による。
- 3.
  放射能に汚染された牛乳は安全である。
正解は、1と2は正しく、3は間違いです。これは、文部科学省が、科学技術リテラシーについての現状を図るために、18歳以上の成人を対象として科学技術に関する11問の共通問題を与え、正答率を国際比較した調査したときの問題の一部です。なんと、日本は17カ国中、13番目。下から数えたほうがはやく、知識が定着していないことがうかがえます。
人は、日々の実感のなかで身につけたもの以外は、すぐに忘れてしまうものです。最近、テレビのクイズバラエティ番組で、タレントがまったく関係のない難しい単語を突然言いだして笑われることがありますが、これもなんの脈絡も持たずに知識が詰め込まれただけの教育の証拠だと思います。
「はがれ落ちない学力のために」早川信夫 p4
ジャーナリストの池上彰氏。NHK時代は「週刊こどもニュース」のお父さん役でニュースの見方・とらえ方を分かりやすく解説。

よく、なぜ日本のニュースは悪いことばかりなの？そんなに日本はひどい国なの？とたずねられます。違います。答えは日本が平和で、報道の自由があるからです。（略）
日本ほど安全な国はないのに、治安が悪いと思う人の割合が多いのが日本です。そこで気をつけたいのが、活字信仰の落とし穴です。終身雇用制度や、3歳までは親の手で育てよという“3歳児神話”は、昔からある制度や考え方だと思う人が多いのですが、これらは戦後のわずか60年ほどの間にできあがったもの。昔からの伝統だと思うのは間違いです。
情報を鵜呑みするのはよくありません。よく聞く言葉というだけで真に受けるのも間違いの始まりです。ひとつの情報を信じず、いろいろな情報を集めて、そこから共通するキーワードを見いだすことが大切です。

「家庭力28／池上彰」 p24