『全人』2012年7/8月号 No.763より

2012.07.01

「空気は読めなきゃ、ダメなのか?」と題した今月号の巻頭記事は、玉川大学脳科学研究所の山岸俊男教授の寄稿。まわりから浮くことを怖れて、みんなに合わせる行動を取るのはなぜなのか、“集団を大切にする日本人らしさ”という思い込みの背景は何かを、実験社会科学が明らかにしていきます。
連載「ユニバーサルな学士課程教育」では、今年度から玉川大学のカリキュラムに導入されたユニバーシティ・スタンダード（US）科目群について、専門教育と教養教育の連動という視点をとくに詳しく取材しました。
研究エッセイでは、世界的に権威ある科学誌に論文掲載を果たしている玉川のミツバチ研究の最前線を、農学部の小野正人教授が執筆。学園ニュースは、一大天体イベントだった金環日食の学園での観測、芸術学部のアメリカ桜祭り公演など、写真とともに詳細を紹介しています。

2012年7/8月号目次

この4月から玉川大学脳科学研究所で研究を進める山岸俊男教授

本当は誰も望んでいない結果が生まれてしまうのはなぜか？この問題こそが、社会科学が解くべき最大の問題です。逆に言えば、人びとが希望する通りに社会ができているのであれば、社会科学は必要ありません。もしそうだとすれば、社会問題を解決するただ一つの道は、人々が正しい望みを持つように教育するということになるからです。修身斉家治国平天下という儒教の考え方ですね。
しかし不況という経済現象一つ取り上げても、社会科学が必要だということはすぐにわかります。不況の発生を望んでいる人は、世の中に多くいるとは思えません。しかし、誰にも望まれないまま不況は発生してしまう。それは、誰も望まない結果が生まれるしくみが、人びとがとる行動の副産物の集積として存在しているからです。こうしたしくみを明らかにしていくことで、人びとが望んでいる結果を生み出すための道筋を明らかにするのが、社会科学の役割ですね。

「空気は読めなきゃ、ダメなのか」山岸俊男 p4
本学学士課程のカリキュラムについてお話をうかがった教学部長の菊池重雄教授

自分の専門分野を極めていけばいくほど、その専門分野の問題点が見えてくるはずです。この学問に不足しているのは何かが分かってくる。でもそれは同時に、その専門分野の学問的な意義も分かってきたということです。そこで、不足を何で補うか考えると、隣接する学問分野です。経営学ならば人間学、人間工学なら環境学というふうに、不足や限界に突き当たることで、ほかに何を学ぶべきか、どう知識を補い合えばいいかが分かり、知の世界が広がって確かなものになっていきます。
専攻する分野の学問は広い教養の一部に過ぎない。教養とは専門課程の土台ではなく、高い専門知識を身につけようとしたときに自分の専門分野の可能性と限界を理解し、他の学問にも向きあうことでしょう。

「ユニバーサルな学士課程教育5 玉川大学のユニバーシティ・スタンダード科目群」 p13