『全人』生涯学べ(2017年10月号)

山岸日登美さん

まちのこども園
代々木公園 園長

石川県出身。短大卒業後、地元の幼稚園に21年間勤務。2017年通信教育課程で幼稚園教諭1種免許状取得。今年10月開園の「まちのこども園 代々木公園」で園長を務める

「遊び込む」経験ができる場をつくるために

 最初に勤めた私立幼稚園は広い園庭に加え敷地内に田んぼや畑があって、子どもが目一杯遊べるぜいたくな環境。「遊び」を中心に幼稚園教育を考える私のキャリアの原点です。
 主体的に夢中になって遊ぶことを「遊び込む」と呼び、近年重視する傾向が強まっており、文部科学省の文書でもこの言葉が登場します。遊び込む幼児期の経験こそ、将来にわたって必要な主体的に学ぶ姿勢を子どもの中で育むのです。
 勤務先で裁量のある主任になってまずチャイムの使用を止めてみました。子どもの遊びを考えてのことでした。時間だけを理由に遊びを終えさせたくなかったんです。大人も仕事で何かに没頭しているとき、別のことを指示されたら嫌になりますよね。子どもにとってはなおさらです。
 そのほかにも「泥遊び、砂遊びは砂場で」「砂場でつくった山は片付けのときに崩す」など、慣習的に続いてきたルールも取り除いてみました。すると、園庭のいろんな場所で種類の違う土や砂を使って精度の高い泥団子づくりが始まったり、年長児のつくった大きな山に対抗して年少児が自分たちの山をつくったりと試行錯誤が始まり、「遊び込む」姿があちこちで見られるようになりました。保育者が目線を子どもに移し、ふさわしい遊びの場をつくることで、遊びの質も変化する――。そう実感しました。
 その後、石川県私立幼稚園協会の研修委員として、「子どもの遊びを考える研究会」のディレクターを務めました。研究会の目的は教育方針や環境が異なる園の垣根をなくしての協働です。参加するのはさまざまなバックグラウンドを持つ幼稚園の教諭。各自の保育を見直すだけでなく、自分の園の遊びを深める試みでもありました。
 たとえば子どもたちがやりたがる、滑り台の逆さ登り。ある園では「ダメ」でも、別の園では「OK」。「子ども目線だったら、楽しいからやるんじゃないの?」という意見を聞いて、大人の考えで禁止していた遊びを子どもに任せたら、ちゃんと子どもは考えながら遊んでいることが発見できたりする。こんな風に、研究会をきっかけに遊びが深まる事例がいくつも生まれました。

子ども一人ひとりを深く理解する保育者でありたい

 幼児教育一筋で来た私が通大に入学したのは、卒園した子どもたちの進む先の教育も知っておきたかったからです。「やるなら徹底的に」と、退職して上京しました。そして縁あってこの10月にスタートする、幼稚園と保育園が一体となった「まちのこども園 代々木公園」では、園長を務めます。
 約130名を預かる園は、代々木公園の原宿門から入ってすぐの森の中にあります。新しい土地、新しい園舎でチャレンジが始まります。
 園では、東京大学の発達保育実践政策学センターと「保育の質」について共同研究を行っていく予定です。
 また世界的に注目される幼児教育を行うイタリアのレッジョ・エミリア市とともに、世界の保育実践が出合う場、乳幼児教育のあり方を国際的に発信していく拠点となる研究センターの開設も予定しています。
 遊びは子どもの「らしさ」が出るもの。それを現場で学び、深めてきた経験は私の財産です。子ども一人ひとりの個性が輝くためには、関わる大人たちも自分らしくあることが何より大切。この園を「らしさ」に満ちた場にしていきたいです。

2010

石川県白山市の「とくの幼稚園」に21年間勤務し管理職も務める。自然の中での体験を重視した教育に携わった

2016

幼児教育と初等教育の接続をテーマにデンマークの現場を視察。2週間の滞在で見聞を広めた

2017

開園に向けて、公園内での保育のあり方や園舎内の環境について本部スタッフと議論を重ねる

My Precious Day

通大の湯藤定宗准教授、田畑忍准教授と。スクーリングでは、小学校課程に関わる授業の履修に努めた。引き続き科目等履修生として小学校教諭免許状の取得をめざす