『全人』生涯学べ(2019年11月号)

和田典之さん

クオリスキッズ
亀戸保育園園長

大学卒業後、総合商社勤務、外資系企業日本法人代表などを経て、2015年保育士試験合格。16年通大入学、19年幼稚園教員免許状1種取得。同年4月から現職

ビジネスの経験から得た人材像と幼児教育の場をつなぐ

 企業勤務35年からキャリアチェンジした私は今、都内の認可保育所で園長職にあります。
 大学は商学部で学び、卒業後は総合商社に就職。海外駐在後、数度の転職をする中で、最大70名からなる営業部門を率いたり、外資系企業の日本法人代表を務めたりもしましたが、教育とは無縁の生活を送ってきました。
 一般的に「外資系は個人プレーに徹している」というイメージがあるかもしれません。でも実際は個人の能力だけでは足りなくて、むしろ社内・社外の関係者と良好な関係を築いている人ほど目標を達成しているし、社内での評価も高いのです。ましてAIが浸透するこれからは、人と協働できる力こそが大事になるのではないかと見ています。
 ところがビジネスの世界でもコミュニケーションを円滑に進められない若手が増えていましたし、自宅マンションですれ違う子どもたちは挨拶をしてもまったく返してくれない。人間力に関わるそんな現実を前に、ここ数年は「日本の将来は大丈夫だろうか」と不安が募る一方でした。
 対人スキルやコミュニケーションといった人間の根幹に関わる力は、幼児期に培われるはず。ならば人生の後半は、子どもの人間形成に関わる仕事をして社会貢献をしたいと一念発起。まず働きながら勉強し、試験を受けて保育士資格を取得しました。
 同時に保育園と幼稚園が一体化した「認定こども園」での勤務を視野に入れて通大に入学。「幼稚園コース」に学び、幼稚園教員免許状1種を取得しました。
 保育士資格を取得後は早期退職をして保育園で働き始め、今年4月から現職に就きました。先日は東京都による監査がありましたが、保育日誌、週案、月案、年間計画といった各種書類などを整理して対応しました。

生涯学習者としてセカンドキャリアを築きA I 時代にも通用する人材育成に貢献したい

 現時点では保育そのものより、現場を支える役割を果たすことが私の仕事だと考えています。物品の購入、設備の修繕、防災訓練の計画立案といった地味な業務も、保育の全体像を知るには貴重な機会です。
 園長として心がけているのは、職員同士、話しやすい職場の雰囲気をつくることです。工夫したことのひとつに、常勤職員とパート職員で分けて行っていた昼礼の一本化があります。
 業務内容が同じである以上、勤務形態の違いで分けることにさほど意味はありません。むしろ子どもたちの様子などの情報は一元的に共有したほうが効率的だし、保育の質向上にもつながるはずだと判断したのです。
 とはいえ普段の保育の実務については、私より若くて経験豊富な職員に教わることばかりです。一方で、社会を長く見てきた人間としての経験を活かすことも考えています。結局、社会で求められる人材かどうかは、出身大学などでは決まりません。大切なのは仕事に対する前向きな姿勢だったり、主体性だったりします。ビジネスの現場で感じてきたこうしたことを、将来的に教育の取り組みに反映していけたらと思っています。
 振り返れば、早期退職と大幅な収入減を伴ったキャリアチェンジの決断に、家族は大反対でした(笑)。でも「生涯学べ」の気持ちでここまで来ました。私のセカンドキャリアはまだ始まったばかり。80歳までは、この仕事でがんばりたいですね。

1989

商社で輸入医療機器販売に携わった際の展示会で。その後商社マンとして米国で約8 年間勤務。外資系企業でのキャリアにつながった

2017

初めて保育士として横浜市内の保育園に勤務し、4歳児を担当。保護者とハロウィンを楽しんだ

2019

通大祭に講師として招聘され、幼児教育のワークショップを担当。通大生に就学前教育の重要性を語った

My Precious Day

通大2年目の2017年には、玉川学園幼稚部で教育実習を経験。目一杯子どもたちとともに遊び、学んだ充実の4週間だった。この日は「5歳児合宿」で、子どもたちと寝食をともにした