『全人』生涯学べ(2020年5月号)

洞口早希さん

日野市立
日野第八小学校教諭

大学で欧米文化を専攻。卒業後、英会話学校に勤務。2017年小学校教員免許状2種取得。同年4月から現職。勤務校ではESD推進にも関わる

グローバル時代に求められる多様な“物差し”を伝える教員に

 学生時代にアメリカの大学で交換留学を経験した私は、再びアメリカの大学院で学ぼうと、卒業後は資金を貯めるために英会話学校に勤めました。そこで子どもたちに英語を教える中で教育、とりわけ小学校で教えることに興味を覚え、教員の道を志しました。
 でも私が教員免許状をとっても教え始めるときには20代後半。新卒で教員になった人に比べ経験値では劣ります。それなら自分だけの価値を身につけたい――留学資金で自分だからこそできることをと海外の小学校を訪問する旅に出ました。
 訪ねたのは台湾、中国、ベトナム、タイ、インド、ネパール、バングラデシュ、南アフリカです。事前に現地の学校へメールやSNSで連絡をとり、見学を許された学校に行きました。日本語熱の高いネパールでは、見学だけのはずが毎日5コマの授業を持ったり、南アフリカでは人種間の隔たりが教室に残る現実を見たりと、1年をかけた長い旅になりました。
 帰国後すぐに通大で学びはじめ、3年前に念願の教員になりました。私の授業は講義形式より、子どもたちが活動を通じて学ぶ方法を採ることが多いです。そのためか子どもたちから「もっと厳しくして」とまで言われたりします。私がほとんど叱ったりせず、何事にも「いいね」「やってみよう」とばかり言っているせいかもしれません。でもほめられて嫌な気持ちになる人はいませんし、その効果もあると感じています。

否定せずに認めることで主体的な学びを引き出す

 一例がESD(持続可能な開発のための教育)と絡め、日野市の農業用水の問題を考えたときのことです。市内では近年、農業の衰退からその将来が危ぶまれています。私は授業でクラスの「やりたいこと」を否定せず、子どもたちの主体性を認めていました。すると、自分たちでつくった啓発用ポスターを地域の掲示板に貼ってもらうべく市役所に電話をかけて交渉したり、漫画を使ったまとめの本をつくったりと、たくさんの成果につながりました。
 たとえグローバルな問題を考えることはむずかしくても、教員が身近なものとの接点をつくれば良い。そうすれば子どもたちは「自分ごと」として考え、主体的に行動できる。そう実感しました。
 私にとって、クラス全体だけでなく、一人ひとりを認めることはとても重要なテーマです。各国で同じ学年の子どもたちを見ましたが、文化的な背景の違いもあり、学びの内容やスタイルだけでなく個性も多様。それが自然なのですね。もし旅をしていなかったら、子どもたちに指示を出すことに重きを置いてしまい、子どもたちから面白い意見や発想を引き出す機会は少なくなっていたかもしれません。
 教員になる前に訪問した台湾の小学校とは、昨年、手紙のやりとりを経てインターネットで教室をつなぐ交流を実現しました。国際交流は大事にしたいですし、ゆくゆくは英語を教えることも手掛けてみたいです。
 今後さらにグローバル化が進んで、同等性・同質性の高い日本で一生を過ごす人は減るでしょう。だから未来に向けて、子どもたちは多様な人と価値に向き合い、理解する経験を持っておくべきです。何よりも私自身が一つの〝物差し〞で判断することのないよう、いろいろな価値を知り、それを認める姿勢を教室で示していきたいです。

2008

弘前大学人文社会科学部在学中、交換留学でアメリカ・テネシー大学に学んだ。コーラス(合唱)のクラスの仲間と

2013

台湾に滞在。小学校で教育現場を見学するとともに、ボランティアに励み、現地紙で報じられた

2014

南アフリカの小学校では、黒人の子どもが低学年から人種的な劣等感を抱く姿も垣間見た

My Precious Day

ネパールは小学校で日本語を教えた思い出の地。2015年4月に発生した地震後、通大の学生会に協力を呼びかけて七夕の短冊をつくり、現地に届けた(前列左から3人目)