『全人』生涯学べ(2020年10月号)

持田 誠さん

浦幌町立博物館

酪農学園大学卒業後、1998年玉川大学通信教育部(当時)編入学。2000年学芸員資格取得。北海道大学総合博物館、帯広百年記念館などを経て2015年から現職

地域の遺産の保存を通して「知識の生産」へ

 北海道東部、十勝平野の東端にある浦幌町の町立博物館に勤務しています。
 当館は日本博物館協会の分類によると「郷土資料館」、近年の博物館学では「地域博物館」と呼ばれ、いまから51年前、十勝地方で初の博物館として開館しています。
 勤務する学芸員は私ひとりで、仕事の柱のひとつが展示活動です。年間約6回企画展を実施しています。外部講師や私が講義する「博物館講座」、町内の史跡訪問や自然観察を行う「移動博物館」や小中学校での出張授業を含めた教育普及活動も重要です。さらに取り組みを皆さんに知ってもらうための「博物館だより」制作、道内の研究者、学芸員、市民から寄稿を得て「紀要」を年に1回編集・発行するといった広報活動も担当業務です。
 もちろん資料の収集保存活動も日々行っています。地域博物館が収集・展示する資料は、自然、考古、美術、写真、手紙、生活用具など、その地域に関わるものであれば分野を問いません。
 近年、町内では過疎化を背景に古い家屋の解体が進んでいます。これらの家屋には歴史や生活文化に関わる資料が多く眠っています。明治期の写真や日記、手紙といった文書類から、長年日常生活で使われてきた「民具」まで多様です。資料はひとつのセットが体系的に整理されることで1点1点が学術的な意味を持ちます。ただ近年インターネット上で骨董として個別販売しやすくなり、散逸が懸念されています。
 そこで心がけているのは早めのアプローチです。解体の話を聞けば所有者に依頼して、事前に家屋の中を拝見することもあります。一見して価値がありそうな掛け軸や壺などより、値段改定が書き込まれた出前用のお品書きのようなもののほうが風俗資料として重要度が高かったりします。だから所有者が処分する前に資料全体を見ることが大事なのです。

自分の専門を持ちネットワークづくりを続けることが地域博物館の仕事を支える

 学芸員には専門分野を持ち、それについて人にわかりやすく伝える技術が求められます。加えて人的ネットワークの構築も必須です。私の専門は自然史ですが、生活文化の資料となる古文書を読みこなせなくて整理に苦労します。そんなときは以前の勤務先、「帯広百年記念館」の古文書に詳しい学芸員に見てもらうこともあります。
 収集資料の幅広さを考えると、自分が未知の分野に誰が詳しいかを知っておくことが欠かせません。私自身、美術や考古資料のある玉川大学教育博物館で実習できたことがプラスになりました。そのため日頃から学会や会合で多様な分野の専門家と交流することを心がけています。最近ではネットワーク構築に向け、道内の文化・教育施設が加盟する組織「北海道博物館協会」の一員として、学芸員の専門をデータベース化する作業を担っています。
 浦幌町には十勝地方で唯一の炭鉱があったため、近代化遺産といえる明治以降の建築物・建造物が少なからず残されています。また竪穴式住居跡など、北海道の考古学において重要な資料がたくさん出土しています。こうした今日に生きる遺産の保存・アピールもこれから手掛けていきたい仕事です。
 当館では年間約1、000件の資料を収集しています。「集め過ぎでは?」と言われることもありますが(笑)、展示や教育普及の活動を着実に進めながら、学芸員としての調査研究に基づき「知識生産」の役割を今後も果たしていきたいと思っています。

2008

北海道大学総合博物館で研究支援推進員として勤務。植物標本庫で、標本の殺虫や配架、データベース構築などを手掛けた

2011

帯広百年記念館勤務時、東日本大震災で罹災した陸前高田市立博物館の「植物標本レスキュー」に参加

2019

廃駅となった町内の根室本線・上厚内駅の回顧展を実施。JR北海道や市民から多くの資料や証言を得た

My Precious Day

2020年8月、「コロナな時代のマスク美術館」を開催。新型コロナウイルス感染症が拡大し、多彩な手づくりマスクが生まれるに至った社会状況を後世に残す試みで、ほかには商店のチラシも収集している