小島佐恵子先生第3回 FD(Faculty Development)は「組織的な研修」とはいうけれど

2016.08.02

 6月に編者の1人として加わった『大学のFD Q&A』を玉川大学出版部から刊行しました。FDにまつわる100のQについて多くの方に回答していただいたもので、中井俊樹先生(愛媛大学)を中心に刊行されてきた『Q&A』シリーズの1冊に加えられました。この原型は2007−2008年の国立教育政策研究所のプロジェクトでしたので、だいぶ年月が経ての刊行となりましたが、この度上梓できましたことを有り難く思います。
 今回の書籍を編集するなかで、FDの議論ではしばしば話題に挙がる「個人的な努力はFDに含まれないのか」ということが、編者からの提言で話題になりました。FDは大学設置基準上「組織的研修」とされています。しかし、「大学という組織において、教員(教員個人あるいは教員団)が、教育改善にたずさわりながら、自らの教育能力を発達させていくこと」を「教育改善の中に埋め込まれたFD(FD embedded in educational improvement)」と呼ぶ例もあります1。100のQを再度検討するなかで、上掲書では、日常的な活動に埋め込まれた個人の努力もFDに含む、としました。
 実は最近、そうした日常的な教育改善に対する取組をじっくり書き、話す機会がありました。ティーチング・ポートフォリオ(教育業績記録と訳されることもあります。以下、TPとします)の作成です。業務の一環としてではありますが、2015年末に大阪府立大学高専で行われた3日間の合宿研修に参加し、TPを作成しました。普段行っている教育に対して、どのような責務、理念・目的を持ち、それを具体化するべく、どのような方法で教育しているのか。そして、今後の短期的目標・長期的目標は何か、多岐に渡り自分の教育を深くふりかえるというものでした。日常的に一番時間を割き、向き合っているはずの教育ですが、いざその理念を文章化するとなると、見事に手が止まります。TP作成において、自らの教育理念を文字化することが、私にはもっとも困難なことでした。どうやら私が書いていることは「目的」止まりのようで、何度も「この背景にあるあなたの教育に対する信念は何ですか」とメンター(TP作成経験者)に問われ、それでもなかなか言葉が出てきません。自分は「理念なき教育を行っているのか」と悶々と悩みましたが、そうではないのです。何かしら自分の中に一貫して存在するものはあり、しかしそれを自分の思うような言葉で表すことができず、連日PCに向き合い、格闘しました。苦しみ抜いた挙句、最終的には何とか形になり、無事TP研修の修了証を得るに至りました(といっても、今後も更新していくものなので、第1稿ができあがっただけです……)。TPは、メンティー(TP作成者)がメンターにTPを随時読んでもらい、話を聴いてもらいながら作成し、最終的にはA4判10枚程度のものに仕上げていきます。この春学期には学内でも研修会を行い、4名の先生がTPを書かれ、私自身もメンターを体験しました。メンターは、メンティーが教育に対してどのような気持ちを持っているか、教育改善にどのように取り組んでいるか、非常に具体的に知ることができます。それにより、私自身も自分の取組を見直すきっかけになり、お互い励ましあう機会にもなりました。こうした個人的な取組を仲間で共有していくこと、これも重要なFDであると認識した次第です。

  1. 松下佳代, 2007, 「課題研究『FDのダイナミックス』の方法と展望」『大学教育学会誌』29(1): 76-80.