若月芳浩先生第1回 幼稚園教育要領、幼保連携型認定こども園教育・保育要領、保育所保育指針の改定と保育の実践

2017.06.20

 平成29年に改訂された幼稚園教育要領、幼保連携型認定こども園教育・保育要領、保育所保育指針は平成30年に実施されます。今年度は周知徹底期間であり、内閣府・文部科学省・厚生労働省が7月から中央説明会や中央協議会を開催します。今回のコラムではこの改訂の趣旨をどのように理解し、保育の実践と具体的に関連付けるために何が必要であるかを検討したいと思います。
 戦後の教育・保育に対する変化と歴史の背景から見ると、社会的な趨勢と子ども観や教育・保育のあり方は深く関連しています。戦後の日本が復興するためには教育や保育のあり方は大変重要な課題です。教育基本法、学校教育法、児童福祉法などの制定は、日本の今後を定めるために重要な位置づけでありました。幼児教育の手引き書として昭和23年(1948年)に保育要領が刊行されました。この手引き書では、保育内容を「楽しい幼児の経験」として、見学・自然観察・音楽・お話・絵画などの12項目を示しました。その後昭和31年(1956年)に教育課程の基準として「幼稚園教育要領」が文部省によって編集刊行され、幼児の望ましい経験として6領域が示されたのです。それは健康・社会・自然・言語・音楽リズム・絵画製作として位置づけられました。
 戦後の高度経済成長の時代における幼稚園の普及とカリキュラムブーム、1960年代におけるアメリカの早期教育の影響を受けつつ、昭和39年(1964年)に幼稚園教育要領が改訂されました。
この改訂の趣旨は、幼稚園修了までに達成することが望ましいねらいが位置づけられ、6領域にとらわれない総合的な経験や活動によってねらいが達成されるものであることを示しました。
 その後幼稚園数は第二次ベビーブームの影響や昭和50年の私立学校振興助成法の制定などにより爆発的な普及が遂げられました。昭和55年を境にした少子化の影響を受けて、教育・保育内容についても小学校の下請的幼児教育や早期知的教育、三種の神器と言われる「バス」「給食」「長時間保育」が一般化することにもなりました。そして、平成元年に幼稚園教育の基本を明確に示すことや幼稚園教育に対する共通理解が得られるよう、さらには社会変化に適切に対応できるように、幼稚園教育全体を通して十分に達成できるようにすることを目指して全面的に改定されました。この改定によって6領域から現行の5領域へ編成されました。遊びを通じての総合的な指導や環境による教育については最も重要な理念として倉橋惣三の思想を継承し、子どもを中心とした保育の方向性が示されたのです。しかし、中央研修会や説明会が随所で開催され、周知徹底が成されたと思われましたが、この理念の普及は難しく、子どもを放任してしまう園や、保育者が黙って子どもを遊ばせる園の実践、さらには改訂など全く無視したやらせの保育が普及した現実もありました。また保育のあり方に関して、実践の質的向上が図れない現実には、遊びの重要性とは相反する実践が多くあったことも否めません。
 その後の平成10年の改訂、20年の改訂においては大幅な変更はありませんでしたが、この平成30年の改訂はかなり大きな変革をもたらす可能性を秘めていると共に、解釈や考え方によっては危険な要素も含んでいると考えられます。次号ではこの点について触れていきたいと思います。