星野あゆみ先生国際バカロレア機構事務局長の来日

2023.04.10

少し前になりますが、昨年の9月に国際バカロレア(IB)機構の最高責任者のオリペッカ・ヘイノネン事務局長が来日し、文科省大臣、都道府県の教育委員会や日本のIB認定校の教員や生徒などに会いました。このハイノネン事務局長は元教師で、フィンランドの元教育大臣です。1994年に若くして教育大臣になったハイノネン氏の政策は大胆なものでした。ひとつはフィンランドのナショナルカリキュラムの内容の大幅削減、そしてもうひとつは教員養成を学部から大学院へとシフトした2点でした。

ナショナルカリキュラムの内容を大幅に削減では、学校や教師の強みを生かせる柔軟性と学校や教師が内容を選べるエージェンシーを実現し、検定教科書制度も廃止したそうです。地域や子ども達の実態に見合った適切な学習内容とその指導方法や教材を最も適切に選べるのは学校やそこにいる教員である、という信頼に基づいた判断です。このように学校や教師の裁量に任せる柔軟性を確保する一方、教員養成を充実させました。それが教員養成の学部から大学院へのシフトです。教師になるには最低5年間の学修と修士号の取得が必須となり、教育実習も30週以上となりました。採用後の教員研修も充実させました。今日、いろいろな意味でフィンランドの教育が注目されているのは、ハイノネン氏の教育政策の成果や種まきの結果であると言えるかも知れません。

フィンランドと日本では事情は異なり、時代も異なりますので、単純に比較することは出来ませんが、ハイノネン氏の教育政策は参考になるのではないでしょうか。現在の日本の教育ではカリキュラムマネジメントがより一層求められるようになった訳ですが、学習指導要領では、多くの教科は学年ごとの学習内容が決められていて、教材は教科書会社が決めてしまう検定教科書があります。学校や教師は何も考えずに、カリキュラムマネジメントをする必要もなく、教科書「で」教えるのではなく教科書「を」教える、教科書の内容を網羅するだけに終わってしまうリスクがあります。また、日本では教員不足を解消するために、文科省が2年間で取得できる2種教員免許状を4年制大学にも拡大しようとしているとの報道も先日ありました。多様な人材を求めることは重要ですが、専門性の高い人材でも教育学部などで実施しているような教師になるべく学びに触れる時間が確保出来ないことの影響はどのようなものなのか検討が必要です。教員研修の機会も限られていて、教員免許更新制も見直しの途中です。IB研究コースに入学する学生も教職を辞して学び直しに来ている例も少なくありません。

学校や教師の裁量を拡大しながら、厳しく質を求めるバランスのとれた政策は日本にも必要と思われます。探究学習、小学校英語教育、プログラミング教育。日本の新しい教育政策を担う教員の養成、そして教員のリスキリングはいつも後手にまわっています。教育を取り巻く大きな課題を小手先の対症療法的対応をするのではなく、また、世論に流されるのではなく、時間をかけて研究成果やデータをもとに検討し、方針を打ち立て、政策に反映し、教員養成を行い、現場で実施し、検証して次につなげていく本質的な改革が必要ではないでしょうか。

参考資料