若月先生:インクルーシブ教育(保育)システムの構築Vol.2:インクルージョンに至るまでの保育

2013.09.17

図(1)分離教育
分離保育・教育 専門家を含む

障がいのある子どもの保育や教育は歴史的な流れの中で世界の動向とリンクし、その考え方や実践に多大なる影響を受けながら今日を迎えています。1979年からの養護学校の義務化、1981年の国際障害者年、1994年のスペインにおけるサラマンカ声明、2006年の国連障害者の権利条約などがあります。前掲のインクルーシブ教育(保育)はそのような流れを受けて、実践の場でも進んで来ていますが、義務教育段階では、現実的には分離教育になっています。図(1)分離教育

図(2)統合教育
統合保育・教育 専門家を含む

幼児教育においては、国際障害者年の1981年の頃を境に、幼児教育の普及はかなり一般化し、第二次ベビーブームに対応するために、1976年からの私立学校振興助成法や幼稚園振興計画などにより、希望する全ての子どもに幼児教育が提供されるようになっていきました。その中で、障がいのある子どもの保育については、少しずつではありますが、受け入れが進み、当時は「統合保育」integrationとして研究と実践が普及していきました。図(2)統合教育

統合教育(保育)の理念は、元々分離していた子どもの教育(保育)に対するその問題性から、「健常」と「障がい」を一緒に教育(保育)することの重要性から普及し、幼稚園や保育所になかなか入園することができなかった子どもにも門戸を広げ、特別に手当などの普及と、どの子どもに対しても保育を提供する必要があると言った考え方によって実践されてきています。統合保育は各幼稚園・保育所においては一般化し、国や市町村レベルにおける補助金も、十分ではありませんが充実しつつあります。

統合保育に対する保育のとらえ方は、障がいのある子どもに対しても他の子どもと同じような経験をして欲しいと言う保護者の思いも反映し、保育者の日々の努力によって、たとえば製作活動などについても、同じ時間を共有し、同じ活動が出来ることに価値を置いてきました。しかし、障がいの特性などから、同じ場や同じことを嫌がる傾向が顕著であったり、担任保育者の力だけでは他の子どもと同時に保育を実践することの難しさに対して深い悩みを持つようなケースも頻発してきました。一緒にすれば良い、同じ活動が出来れば良い、経験を少しでも同じにしたい。そんな保護者や保育者の要望が強くなればなるほど、障がいのある子どもに対して活動を強要するような保育もあります。また、障がいに関連する専門家の方法論や知恵を借りることによって、保育の方法論とは異なる手法を保育の中に導入して、見た目では成果として見えるような実践もあります。
子どもの育ちの原点から見ると、同じことが出来たことが成果と見るのであれば、参加出来るような工夫や人的な配置が重視されるべきではありますが、障がいのある子どもにとって、そのことが本当に重要なことなのでしょうか。1978年のイギリスにおけるウォーノック報告では、障がいのある子どもについて、「特別な教育的ニーズ」という概念によって子どもを位置づけました。※1

図(3)インクルージョン
障がいのある子どもが存在 することが
当たり前の園生活

統合教育(保育)に対する考え方も少しずつ変化し、他の子どもと同じことを「させる」ことから、個々の子どもが持つニーズに目を向けて、ニーズに対応する教育や保育のあり方を検討する実践が普及してきたのです。現実的には統合とインクルージョンは混在しており、その境を明確にすることは困難ではあります。これは、保育を実践している保育者の意識に委ねることが多くなってきます。つまり、統合かインクルージョンかを明確にすることを第一義的に考えるのではなく、保育の実践の中で、いかに共生するベースが園の中で育っているか、その見極めをしていくことが望まれているのです。図(3)インクルージョン

保育の原理は、一人一人の子どもの理解から援助や支援を考えることが出発になります。そう考えると、障がいのある子どものニーズを探ることと、一般的な子どもの内面を理解した上で保育を検討することは一致するのです。保育の世界は、障がいのある子どもの保育を考える原理の中に、既に障がいある子どもを対象にしていると言っても過言ではありません。保育の難しさはありますが、保育者が障がいのある子どもをどのような意識で受け入れているか、その思いが大きく影響するのです。次号ではこの点について検討していきます。

  • 1イギリス政府白書「教育における特別なニーズ」(Special Needs in Education)1980