寺本先生:地図力を子どもに育てよう!Vol.1:地図ってやっぱりスゴイ!-子どもの空間認識力をもっと伸ばしたい―

2013.11.18

わたしの専門は、子どもの空間認識の発達と生活科・社会科指導の在り方です。皆さんが小中学校時代に使っていた社会科の地図帳(帝国書院)も著者の一人です。ですから、地図大すきの研究者と言っていいでしょう。最近は子どもたちに地域を点検歩きしてもらい、安全マップを作らせたり、防災教育の一環で、つなみが襲ってくる場合の注意点を地図にまとめさせたり(写真1・2参照)、地図帳を使った海外旅行プランなどを考えさせる観光教育にも取り組んでいます。

先日も写真にあるように子どもの手でも簡単に作図できる方法を教えています。地図の力を十分に発揮させた教育課題を扱っています。まさに、地図ってスゴイ!と思わせる教育方法を常に考えているわたくしなのです。ところで、世の中が便利になるにつれて、国内外の情報はたくさん入ってくるのですが、その割には日本人の地図力が萎えている気がしませんか。とりわけ、幼い子どもたちの行動力や空間認識力はどんどん狭くなっているのではないでしょうか。小学4,5年生に至っても積極的には地図を読もうとしない子どももいます。もちろん、子どもは絵もしくは絵のような地図は大好きです。安野光雅の『旅の絵本』や新幹線が日本地図の上を走っている絵本など、楽しいイラストいっぱいのカラフルな紙面には皆興味を抱きます。でも、大人が実社会で使っている街路地図のような一定の約束事で印刷されたちゃんとした地図に対しては、子どもは、その約束事を照合しながら理解する作業に抵抗を覚えています。5万分の1縮尺の国土地理院発行の地形図などに至っては、大人でも敬遠しているのが事実でしょう。

写真1 つなみ防災地図を作製している小学5年生
(沖縄県豊見城市にて)
写真2 手描きの防災地図のつくり方を説明している筆者
(2013年1月)

絵地図と平面地図の基本的な違いはなんでしょう?

幼児や小学校低学年児童が好んで見ようとする絵地図は、デフォルメされ、しかも具象的な絵記号が、簡略化された道路地図の上に載せられ、ときとして可愛いキャラクターによる吹出しや写真が貼り付けられているものです。正確な位置情報を求めるための地図というよりも絵の仲間と言えますね。絵記号そのものの描写を楽しみながら、絵の読解のために利用されています。その点、一般的な平面地図は、場所の特定が目的で、実用的でないと地図とは言えません。このような絵地図と平面地図の基本的な違いを比較してみると、絵地図は何といっても描かれた視座が斜め上もしくは地上近くにおいてあって、地図上に置かれた絵記号もそのものの具象的な姿が最も示しやすい側面か前面からの姿で貼り付けられています。例えば、自動車工場の場所を真横からみた自動車の絵記号で示されたり、ビルや家屋にしても家型の記号が道沿いに並んで印刷されたりしています。このため、自動車工場の広さや入り口がつかみにくく、また、絵記号を置いた地図の陰にあたる部分が隠れてしまうきらいも難点としてあります。とくにデフォルメされた大き目の絵記号が貼り付けられると絵記号そのものが背後の場所を隠してしまったり、外枠に線で引き出したりすることで一層、位置情報としての一覧性が邪魔されてしまうのです。たとえ道路が平面地図と同じように真上から見下ろしたようにほぼ正確に引かれていても、絵記号そのものが真横か前面から見た姿であるため、地図上でねじれを生じてしまうわけです。
(教授 寺本潔)