大豆生田先生:新制度時代の保育の質と保護者支援Vol.1:子ども子育て支援新制度と保育の質

2014.07.18

私は乳幼児期の教育・保育および子育て支援が専門です。この4回のコラムでは、現在、とても注目されている保育の質について、私なりの切り口からお話ししていきたいと思います。第1回目の今回は、子ども・子育て支援新制度との関連から、保育の質について述べみましょう。

子ども・子育て支援新制度って何?

そもそも、子ども・子育て支援新制度(以下、新制度)って何でしょう。それは、平成24年8月に成立した「子ども・子育て支援法」、「認定こども園法の一部改正」、「子ども・子育て支援法及び認定こども園法の一部改正法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」の子ども・子育て関連3法に基づく制度のことです。簡単に言うと、幼児教育・保育・地域の子育て支援を、国が総合的に推進しようとする制度です。消費税増税分の0.7兆円がこの制度にかけられます。社会保障制度(医療・介護・年金)の中にはじめて「子育て」が位置付き、安定的な財源が得られたことは、これまで先進国の中でも「子育て」関連の公的支出が低いことが指摘されたわが国としては、一定の評価がなされるべきことでしょう。
この新制度の目的は、以下の3つです。
①現在の「認定こども園制度」を改善し、認定こども園を普及させていくこと。
②保育を量的に拡大し、待機児童を解消するとともに、幼児教育や保育の質をもっと高めていくこと。
③地域の子育て支援をさらに充実させること。

特に、都市部では待機児童解消が大きな課題であり、子育てと仕事の両立を保障できるような対策が急務です。そこで、今回の制度では、各自治体においてニーズ調査を行い、必要な保育量を踏まえて、保育の場を量的に整備していくことを進めています。幼稚園や保育所に加え「認定こども園」(幼児教育・保育、地域子育て支援機能を併せ持つ施設)の普及を図るほか、「地域型保育」(家庭的保育、小規模保育等)を新設し、保護者にとってはその選択肢も広がることになります。

新制度と保育の質

先進国の中で、我が国の子育てに関する公的資金投入が少ないことはこれまでも何度も語られてきています。そうした中で、子育てに安定的財源が投入されるということは大きな第一歩ではあります。しかし、それが保育の質にいかに反映されるかは必ずしも明確ではないのです。現段階では消費税は10%になっておらず、子育てへの投資額は1兆円を超える額にはなっていません。そのため、保育の量的整備だけで手一杯といった感は否めません。もちろん、量的な整備によって、これまで公的保育サービスを受けられる層が増えるわけですから、それも質的なものとは関連しています。しかし、保育の質の充実のためには、もっと多様な側面からの充実が必要になります。
第一には、保育者の待遇改善です。いくつかの調査からも、保育者の給与は同世代の他の職種よりもその額がとても低いことが明らかになっています。それが、深刻な人材不足を招いており、質の低下につながっているのです。新制度で待遇改善の努力はなされていますが、さらなる資金投入が必要でしょう。
第二には、研修体制の充実です。特に、保育の長時間化が進めば、保育者はほとんど子どもと向き合う時間で勤務が終わってしまい、質を高めるための研修時間が持ちにくくなってしまいます。これでは、質の向上は望めません。まずは、園内において、日々、保育の記録をとり日々の振り返りを行ない、明日の計画を作成し、環境を構成する時間が必要です。そして、園外の研修も不可欠です。
第三には、子どもと保育者の人数比率です。特に、幼稚園などは1学級35人以下といった世界的にも考えられない配置となっています。単に子どもの数に対して保育者の数が多ければよいとは言えませんが、手厚い体制が必要なことは言うまでもありません。
保育の質向上のための取り組みはほかにもたくさんあげられるでしょう。しかし、特に大切なのはこの3点といえるかと思います。我が国において、新制度が発足し、安定的な財源の枠組みができたことは喜ばしいことです。しかし、このままで保育の質の向上につながるわけではありません。さらなる制度の整備と、それをいかに運用していくかといった工夫の必要があると言えるでしょう。