大豆生田先生:新制度時代の保育の質と保護者支援Vol.2:保育の質とは何か

2014.07.31

「保育の質」への関心

近年、急速に「保育の質」が注目されるようになりました。OECDは『OECD保育白書』(明石書店)において、「人生の始まりこそ力強く」とのメッセージし、その乳幼児政策に影響を与える社会的要因、経済的要因、概念的要因、そして研究の要因について、国際比較をもとに論じています。そこでは、質の高い保育(「保育」をECECと表記-early childhood education and care)が、その後の子どもの成長やその国に将来に影響を与えるものとして、捉えているのです。
こうしたOECDの動向の背景には、乳幼児期の保育の質がその後の子どもの成長に影響を与えるという追跡調査の結果があります。特に、アメリカでのペリー幼児教育計画等のプロジェクトから得られた成果があげられるでしょう。このプロジェクトでは、本来ならば学業不振になる可能性がある子どもたちの人生をよりよくすることができることを実証しています。それは、貧困の家庭に育つアフリカ系アメリカ人の子どもたちを実験群と対照群に振り分け、幼児教育の介入を行った結果を追跡しているのです。実験群の子どもたちは週に5日幼稚園に通い質の高い保育を受けるなどのかかわりを得ました。その結果、19歳時点では高校の卒業率、27歳と40歳では収入や犯罪率や持ち家率などにおいて、実験群がより優れた結果を示すことになったのです。
このような、良質な保育のその後の成果を示すエビデンスは、教育研究者のみならず経済学者からの支持が得られ、乳幼児期の保育への投資のその国の将来に与える有効性が語られ、乳幼児サービスが重要な公共財として捉えようとする動きに大きな影響を与えたのです。

保育の質とは何か

では、保育の質とは何でしょう。これは、必ずしも自明ではありません。何を持って、よい保育を規定するのかは、簡単なことではないのです。
大宮勇雄は『保育の質を高める』(ひとなる書房)において、これまでの世界的な動向を踏まえ、保育の質を捉える3つの側面についてあげています。それは、以下のとおりです。
①プロセスの質(保育実践そのもの。子どもと保育者の相互作用。環境構成、等)。
②条件の質(クラスの子どもの人数、大人と子どもの比率、保育者の経験年数・学歴・研修、等)。
③労働環境の質(給与、仕事への満足度、運営への参加、ストレス等)。
この3つの側面からの見方は保育の質を捉える上でとても参考になります。

ポジティブな養育が保育の質

また、アメリカ国立小児保健・人間発達研究所は、保育の追跡研究を行っており、そこから、保育の質に関する様々な調査結果を示してしています。そこでは、母親による養育でもそれ以外の人による保育でも子どもの発達に差がないことがあげられています。しかし、保育の特徴の違い(質の高い保育)により、言語と知的発達の面で若干すぐれた発達を示しているなど、ここからも、保育の質の高さの重要性が明らかにされているのです。
特に、この調査では、「ポジティブな養育」(positive caregiving)が重要としています。その指標として、以下の点をあげています。
・ポジティブな態度を示す
・ポジティブな身体接触をする
・子どもの発声や発話に応答する
・子どもに質問する
・そのほかの子どもへの話しかけ(ほめる、学びの手助けをする、お話を語ったり、歌をうたったりする)
・発達をうながす
・読む力をのばす
・社会的な行動の奨励
・否定的なかかわりを回避する
以上です。この結果について簡単にコメントすることはできませんが、乳幼児へのケアと教育への手厚いかかわりが、保育の質と言えるのかもしれません。