大豆生田先生:新制度時代の保育の質と保護者支援Vol.3:保育の質を高める風土の形成

2014.08.11

では、保育の質を高めるためにはどのような工夫が必要でしょう。ここでは、園内での運用においていかに質を高めていくことか大切かを考えてみたいと思います。筆者ら(大豆生田・三谷・高嶋)が保育所保育指針の検討を通して示した、保育の質を高める4つの視点を紹介しましょう。

保育を「省察する」(振り返る)こと

保育の質を高めるためには、「振り返る」ことが不可欠になります。しかし、「振り返り」ということを、PDCAサイクルにおけるC「Check(点検・評価)」とのみ捉えてしまうと、それは業務の実施が計画に沿っているかを確認する作業に過ぎなくなってしまうのです。「不確実性」「あいまい性」「複雑性」「多様性」を特徴とする教育・保育にそのまま適用することには問題があるのです。そこで提起したい概念が、「省察」です。津守真(1989)は「省察するという保育者の精神作業なくして、保育の実践はない」とし、単なる「計画の目標に照して評価すること」ではなく、「実践しつつ考え、考えつつ保育」する「精神作業」として位置付けているのです。具体的には、エピソードなどを通して、子どもがしていた行為や自分のかかわりの意味を問う行為とも言えます。鯨岡峻は「エピソード記述」というアプローチを提唱しています。また、ドナルド・ショーンは教師などの専門性を「反省的実践家」と捉えていますが、それは単に保育終了後あるいは午睡時など保育以外の時間に行う行為を単に指すのではなく、「振り返り」の姿勢(省察的態度)を持って保育に臨むという保育全体における保育者の姿勢や態度を指しています。まさに、保育の質を高めるためには、日々、自身の保育を省察する態度が形成されているかということなのです。

保育を語り合うこと

そして、その保育を振り返る「省察」という行為は、単に保育者個々人が行うということだけではなく、保育者集団の中で保育を語り合うことなのだとも言えます。それは、多様な他者とともに子どもを語り合うことであり、実践を語り合い、交流させる過程のなかで、自分の中の(子どもの姿との)対話だけからは見えてこなかったような多様な見方に出会い、自分の資源として活用できる他者の視点を獲得していくことができるようになることなのです。三谷大紀(2007)は、「専門性の高い保育者とは、多様な他者に対してその身体が開かれており、共感的にかかわり合い、お互いの見方や行為を収奪し合いながら自分の見方や行為を「省察」することができる存在」であり、「保育者の成長には、多様な他者に対してその身体が開かれ、共感的な場を築き合っていくことが欠かせない」としています。保育の質を高めるためには、心を開いた保育の語り合いが必要なのです。

鑑識眼的評価

保育の質を高めるためには、「評価」が不可欠です。一般的に「評価」というと多くの方は、チェックリストなどの目標準拠型の評価をイメージします。しかも、第三者評価や外部評価をイメージしがちです。もちろん、そうした評価の有効性も大きなものがあります。しかし、ここでは「鑑識眼的評価」の重要性をあげたいと思います。「鑑識眼的評価」を提唱する松下良平(2002)によれば、「鑑識眼」とは、その実践共同体に埋め込まれている活動の善さの基準を掴み取りつつ得られるものであり、その「鑑識眼」を評価基準として自らが従事している実践をより善きものにしていくために行われるのが学びであると述べています。これは、保育を見合う者同士が、共に実践を味わい、対話を通して行うものとも言えるでしょう。それは、保育実践プロセスそのものの意味やよさを探求する営みとして、評価を捉えなおすことでもあります。

語り合い、育ちあう園内の体制や風土

これまで述べてきたように、保育の実践を高めることは保育を省察する(振り返る)姿勢が大切であり、同僚と保育を語り合うことが不可欠であり、共に保育のプロセスを対話的に味わうような場が重要であると述べてきました。つまり、保育の質を高める園であるためには、このような語り合い、育ちあう風土(学び合う共同体)を形成することが大切であるということです。そのためには、園内の組織づくりや研修体制が大切であり、園長や主任などのリーダーシップの重要性が求められると言えるでしょう。

  • 津守真『保育の一日とその周辺』フレーベル館,1989年,pp.76-78
  • 大豆生田啓友・三谷大紀・高嶋景子「保育の質を高める体制と研修に関する一考察」『人間環境学会紀要』関東学院大学人間環境学部第11号、2008年
  • 三谷大紀「第4章 保育の場における保育者の育ち」 佐伯胖編『共感-育ち合う保育の中で-』ミネルヴァ書房, 2007年, pp.152-153
  • 松下良平「教育的鑑識眼研究所説―自立的な学びのために―」天野正輝編『教育評価の歴史と現代的課題』晃洋書房,2002年, pp.212-228