大豆生田先生:新制度時代の保育の質と保護者支援Vol.4:親の参画(parents involvement)の時代へ

2014.08.18

サービス化か、連携・協働化か

今後の保育はどのような時代に進むでしょうか。市場競争が過熱し、親が便利な保育サービスを選ぶ時代になるのでしょうか。それとも、親は園とパートナーシップを形成し、園の取り組みに参画するようになるでしょうか。サービス化か、連携・協働化か。これによって、保育の質の捉え方も大きく異なってきます。サービス化が進むとなれば、保育の質を評価する項目も、保護者の満足度など、保護者へのサービスが重視されるようになっていくでしょう。一方、連携・協働の場合、保護者が園の保育の取り組みを理解し、参画していくことが重視されていきます。この方向性のあり方は、新制度のコンセプトでもある「子育ての社会化」の捉え方を大きく分けると同時に、今後の保育のあり方の大きな分かれ目となると言えるでしょう。
国際的動向は、親・家庭・地域との連携(parents involvement , family involvement , community involvement)が保育において重要とされ、「支援」ではなく、「連携」「協働」の意味を指すinvolvementという語が一般的に使用されるようになっています(北野2009)。OECDも「乳幼児期サービスに家族と地域コミュニティの参加を促すこと」と提言しています。筆者も、子育てが地域の中で孤立する時代の中にあって、連携・協働化、つまり親の参画を促す方向性を探ることが、最善の道であると考えています。

パートナーシップの形成

そうであるとすれば、保育者(園)と保護者のパートナーシップ(信頼関係)を形成することが不可欠になります。園には「モンスター」と感じるような保護者もいるかもしれません。しかし、そうした保護者の問題の背景を探りながら、良好な関係性を構築していくことがこれからの保育者の専門性として求められていきます。
それは、保護者支援あるいは相談支援、家族支援のスキルとも言えるでしょう。保護者の置かれた状況を踏まえながら、受容と共感を行ったり、子どもの姿を発信することなどを通して、信頼関係を構築していくスキルです。中でも、虐待が疑われるような親や、子どもの発達の遅れなどが心配されるような親への対応に関しては、同僚や関係機関と連携しながら保護者を支援していく高い専門性が求められます。
現在、特に保育所では保育所保育指針にも記されているように、そのスキルが強く求められていますが、新制度時代は幼稚園教諭も含めて、ますます保護者支援の専門性が必要とされていくでしょう。

参画を促す発信や機会

親の参画を促すためには、子どもが園でどのような経験をし、学んでいるのかを可視化(見える化)していくことが求められます。親にとって園はブラックボックス(外からは見えない状態)となりがちですから、発信の工夫が不可欠となります。そのためには、送迎時の会話や連絡帳のやりとり、おたよりなどを通した、子どもの学びの物語(ラーニング・ストーリー)の発信が重要になります。イタリアのレッジョ・エミリアなどでは、子どもの学びを記録したドキュメンテーションなどが注目されています。
日本においても、一部の園ではクラスの子どもの日常の学びの物語をエピソードや写真などを活用した記録を通して発信するドキュメンテーションや、子ども個々の姿を記録したポートフォリオなどの取り組みが進められています(大豆生田2014)。今後、こうした保護者への発信の工夫がますます進んでいくことでしょう。  
また、保育参加、親の保育士一日体験、親のサークル活動など、親が園の活動に主体的に参画する取り組みも広がっています。保育の質を高めていくためには、こうした親・家庭・地域との連携・協働がますます不可欠なものとなっていくことが期待されます。

  • 伊藤良高・中谷彪・北野幸子『幼児教育のフロンティア』晃洋書房、2009年
  • 大豆生田啓友『保育が見えるおたよりづくりガイド』赤ちゃんとママ社、2013年