原田先生:こころの傷についてVol.1:避難生活が継続した状況における支援

2014.09.24

私の専門は、精神分析、臨床心理学、教育相談などです。大学以外の時間は、スクールカウンセラーとして、不登校、いじめや対人関係のトラブルの相談などを受けたり、オフィスで精神分析的心理療法を行っています。現在の主な臨床・研究活動は、東日本大震災による県外避難者支援を中心に行っています。この夏も、学部生のゼミ合宿で福島県の富岡町を見学し、その後川内村に行き学童のボランティアをしました(写真参照)。
このコラムの第1回は、まず震災支援関係からお話を始めようと思います。震災支援といっても、震災時の心のケアなどは現在たくさん資料がありますので、今回のような避難生活が継続した状況における支援の場合をお話しようと思います。

1.トラウマ・PTSD

本題に入る前に、教員としても一般人としても、トラウマやPTSDについての知識は持っている方が良いと思います。1900年代に精神分析家のフロイト(S.Freud)という人が精神的外傷にこのトラウマという言葉を使ったことが始まりです。いわゆるこころの傷と考えると良いと思います。また、具体的な出来事がありこころが傷ついた場合に、さまざまな症状が出現しーたとえば、眠れない、不安、暗闇が怖い、落ち着きがなくなるなどー、その症状が1ヶ月以上継続する場合PTSD(posttraumatic stress disorder)と診断されます。具体的な出来事というのは、震災や広島の土砂災害のような自然災害、虐待、事故や事件を目撃した、目の前で人が死んだ、などさまざまなことが含まれます。このPTSDというのは、ベトナム戦争帰還兵の心理的後遺症の研究や戦争神経症の研究から出てきた概念です。

2.県外避難者について

では、本題に戻りましょう。皆さんは、東日本大震災から3年半経った現在、何人くらいの方が福島県から県外に避難を続けておられると思いますか?
日本全国で把握できている福島県からの県外避難者数は、47149名(http://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat2/sub-cat2-1/20140829_hinansha.pdf平成26年8月29日復興庁データより)です。宮城県からは6974人、岩手県からは1513人です。では福島県からのみを限定して考えて、関東地方で何名くらいが避難生活を送っておられると思いますか?表を見てください。

都道府県名 人数(人)
東京 6296
神奈川 1906
千葉 3289
埼玉 5077

表 県外避難者数(復興庁データを筆者が表に抜粋したもの福島県心のケアのパンフレット

では、もし皆さんが自分の居住していた地域に何らかの理由で住めなくなり、3年半の間、転々としたりしながらもひとまずある地域に住み続けたとして、どのような心の経過を辿るでしょうか。参考にあげた東京都のアンケート調査結果を是非読んでください。住居、仕事、家族世代など問題は山のようにあり、仮の住まいで3年半も過ごすことは、身体的にはもちろんのこと、心に大きな影響を与えます。現在は帰還が決定した地域も出てきているため、県外避難者はさらに心を揺らされています。

3.転入した小学校における相談

この数からもわかるように、関東地方の小学校には福島をはじめ被災県から多数の児童が転入または入学をしてきています。では、具体的にどのような相談があるのかをみてみましょう。

  1. 母親からの相談:夕方になると急に子どもが不安気な表情をし、見ている母親も涙がでてきてしまう。さらに5時の放送を聞くと居ても立っても居られない気持ちになる。
  2. 教員からの相談:時々一心不乱に階段を駆け上っていく女児がいる。声をかけても聞こえないよう。放っておいてもいいですか?
  3. 現在5年生の児童:2年前に転校したときに,放射線がついてるといっていじめられた。その後もなかなか友達ができないし、学校に行きたくない。

1.2.3.の相談は、トラウマやPTSDと関係のある相談です。皆さんはこの相談を読んで、どのように理解し、何をどのように援助していくでしょうか。もちろんスクールカウンセラーに繋ぐというのは現実的なアプローチです。でも盥回しにするのではなく、まずこの相談は一体何を訴えているのか、何に困っているのかを考えてみてください。そして、皆さんならどのように援助していくだろうか、ということも考えてみてください。第2回にその答えを書きたいと思います。

参考

  1. 東京都実施の都内避難者アンケート調査結果
  2. 福島県心のケアのパンフレット
  3. 2014年8月富岡町にて筆者撮影。あの日のままです。
  4. 2014年7月筆者撮影 仮置き場が既に一杯になったり、置き場所もなく、至る所にフレコンパックに入れられた除染した土が置かれています。誰もいません。