原田先生:こころの傷についてVol.4:こころの傷―教員の対応について

2014.10.21

3回目まで、さまざまなこころの傷について述べてきました。最後の4回目は、教員として、どのように対応したら良いのか、そのポイントを書こうと思います。
ただ、便宜的に用いておりますが、対応という言葉はあまり適切ではありません。対応というと、かなり現実的なレベルのことというイメージになってしまいます。むしろ、こころへの寄り添い方とか、日々のかかわりの中での配慮とした方が適切な言葉でしょう。

1. 大人が落ち着く

教員自身または親族が被災したかどうかにより、かなり状況が違いますが、いずれの場合でも、教員はじめ、大人が落ち着くことが大切です。保護者も当然動揺しておりますので、これらの動揺を沈めていくことも必要です。そのためには、「当たり前の日常」を取り戻すことが大切なのです。

2. 心理教育をする

心理療法を行う際に、こころに積極的に働きかけることは少ないのですが、事故や事件、自然災害などのトラウマ体験のあとには心理教育ということをします。これは、このような体験をしたあとには誰しもこんなことが起きるものですよ、ということを、あらかじめ、教えておくということです。たとえば、暗闇を怖がり一人で寝るのを嫌がるということを保護者が知っていれば、子どもがそのように反応しても、それをトラウマのあとの反応だと理解することができます。子どもたち自身も、自分の反応がおかしなことではなく、皆そうなのだとわかることにより安心します。そして、それらの症状が出現したときには、先生や保護者、スクールカウンセラーに相談するように伝えておきます。

3. サインに気がつく

子どもたちはさまざまな反応を示してきます。落ち着かなくなったり、赤ちゃん返りしたり、一人でいられなくなったり、暗闇を怖がったり・・という症状もあれば、絵などの作品にこころを表現したり、攻撃的になって友達をいじめたりもします。また、漠然とした不安感も抱きますが、元々持っていた問題が表面化してくることも多くあります。これらを早期発見し、まずは教員がこころに留めておくことが必要です。

4. 話を聴く

サインに気がついて、なるべく早く、しかし話せそうな機会がきたら、声をかけてみます。子どもから話してきたら、「そうだね」と肯定的に話を聴きます。体験したことを話してくれるときに、誰かが傍にいることが大切なのです。そして、「よくがんばったね」などと励ましていきます。

5. 子どものマイナス思考を止める

体験したことにより、気持ちが不安定になったり、落ち込んだりすることは自然なこころの動きなのですが、時に、子どもによっては、すべてについて否定的にとらえてしまうことがあります。自分の人生すべてが不幸だ、とか、どうせまた○○が起きるんだから生きていても仕方ない、とか、人は信じられない、自分が悪い子だからこういうことが起きる、などという思考になってしまうこともあります。このような場合は、人は一人ではないこと、力を貸してくれる人は必ずいることを伝えます。または先に述べた心理教育などもしながらこれらを伝えます。そして、何よりも、教員自身が継続的に子どもを支え続け、そのことを体験してもらい、教員が日常的にかかわり続けることにより、「学校は安心な場所だ」「困難は乗り越えることができる」と実感していってもらうことが大切なのです。

先にも書きましたが、私達人間が生きている限り、さまざまな体験をします。もちろんいじめもその一つです。その時に、忘れられない出会いやかけがいのない出会いがあるかどうかにより、子どもたちのその後の人生は変わります。子どもの力になれる教員が1人でも多く日本の教育現場にいてほしいと願っています。