坂野慎二先生:教育改革の日独比較Vol.1:小学校に入学するまで

2015.11.04

日本では2012年12月に第2次安倍政権が発足してから、矢継ぎ早に教育改革が進められています。一方、私が研究の対象としているドイツでは、2001年に起こった「PISAショック」によって、学力低下が明らかとなり、教育改革が進められてきました。改革の対象となるのは、保育所や幼稚園といった就学前教育から、小中高校はもちろん、大学改革にまで及びます。今回は、小学校入学前に焦点をあててみましょう。

1.日本の就学前教育改革

日本では小学校に入学する前に、ほとんどの子どもが幼稚園や保育所に通っています。幼稚園は3歳以上の子どもを対象としていますが、保育所は0歳の子どもからが対象です。この他に2006年に制度化された認定子ども園があります。これは幼稚園と保育所の垣根を低くして、幼稚園にも保育所的な役割を担うことができるようにしたものといえます。
こうした制度改革の背景には、「待機児童」の問題があります。核家族化の進行で、親が働きに出る際、おばあちゃん(おじいちゃん)等のように子どもの世話をしてくれる人が近くにいないことが増えています。子どもの世話をみてもらえなければ、多くの場合、母親が働きに出ることを諦めざるをえないのが実態なのです。安倍政権が進めている女性活躍推進を実現するためには、女性が働きやすい環境を整えることが必要になります。

2.ドイツの就学前教育改革

ドイツでも似たような状況があります。伝統的な考えでは、子どもの世話をする女性の役割と考えられてきました。子育て支援を行う際、家庭にいる母親にも手当を支給するべきかどうかで大きな議論となりました。結論からすると、家庭にいる母親も子どもの世話をしているのであるから、支給の対象となるということになりました。
ドイツの幼稚園や保育所で近年の改革の特色として、言葉の発達についてのテストが普及してきたことが挙げられます。これは小学校に入学する前に、言葉の発達を促し、小学校に入学してからうまく授業に対応できるようにするのためのテストなのです。ドイツではドイツ語を母語としない子どもが増えています。言葉の発達が不十分な子どもは、小学校入学前前にドイツ語コースの支援を受けます。

3.考える視点

日本では「待機児童」という実態から改革が始められています。保育時間が短い幼稚園の延長保育や認定こども園といった形で、子どもの居場所確保が政策の中心です。一方、ドイツでは、子どもの居場所を確保した上で、そこでの教育の質に着目した改革を進めていると言えるでしょう。しかし、日本の「お受験」ブームとはちょっと様子が違っているようです。
近時、就学前教育の重要性が強く主張されるようになってきました。ヘックマン(2015)や中室牧子(2015)のように、学校卒業後や学校に入学してから支援するよりも、早い時期に支援をすることの効果が高いことが指摘されています。2012年12月の衆議院選挙の際、自民党が掲げた5歳児教育の義務化(無償化とセットになるはずです)が、早く実施されると良いですね。

[関連文献] ヘックマン(2015)『幼児教育の経済学』東洋経済新報社
       中室牧子(2015)『「学力」の経済学』ディスカバー・トゥエンティワン

(教授 坂野慎二)